戦い
「ここで冒険していただけだ」
とアイリスが用心しながら素っ気なく応えた。
「魔物は狩ってはならんのだぞ」
と別の男が二人の様子を窺うように言った。
「だから魔物は狩っていない。狩っていたのは虫や蛇や猛獣の類だ」
とアイリスが応えた。
二人は顔も汚れてドロドロだったが、それなりの騎士の格好はしていた。
男たちはそれに気がついた。
「お前ら、もしかして魔族か? 黒騎士か?」
「いや、その姿は黒騎士見習いか?」
二人はいつの間にかその男達に囲まれていた。
「いいところで会った。今日の俺たちはついている」
男たちの一人が薄ら笑いを浮かべながら言った。
どうやら男たちは密猟者らしい。
保護区になったこの辺りで徐々に増えつつある魔物を狙って狩っていたらしい。
「今ここは保護区だぞ」
とアイリスは言った。
「そうらしいが俺達には関係ない。この辺で稼げないもんだから他の奴らは違う大陸に行っっちまったが、金が溜まってない俺たちはここで稼ぐしかないんだよ。ちょうど良かった。魔族を一度狩ってみたかったんだよ。運が悪かったと諦めな」
男たちは下品な笑いを浮かべながら剣を抜き、ジリジリと二人に近寄ってきた。
完全にこの二人を嘗め切っていた。
アイリスはエリザベスに小声で耳打ちした。
「こいつらは弱い。他の国へ行く金もないほど稼げていない。だからレベルは低い。間違いない。エリーは焦らなかったら勝てるよ」
アイリスはこの男たちの力を完全に見切っていた。だてに勇者の称号を手に入れたわけではなかった。
「正面の二人は私が引き受けるから、後ろの一人はよろしく」
流石に修羅場を幾度となく、くぐって生き延びたアイリスだけあって落ち着いていた。
「分かったわ。アイリスの言うとおりにする」
「私が突っ込んだら、一気に胸をめがけて剣を刺して。でないとあんたが死ぬよ」
一瞬の迷いが生死の分かれ目となる。アイリスはエリザベスに声を掛けながら、その思いがちゃんと伝わる事を願っていた。
「分かった」
とエリザベスは頷いたが彼女はまだ人と戦った事が無かった。もちろん殺し合いなんか初めてだった。何度も言うがエリザベスはつい最近まで女子高生だった。
そんな彼女の頭の中で、腹の中を剣でえぐられている自分の姿が浮かんでいた。
――ダメだ。そんな事を今考えたら!――
そうエリザベスが強く思った刹那にアイリスが
「わ!」
と声を上げて踏み込んだ。
それを合図に反射的にエリザベスは一気に振り向き、無我夢中で後ろの男の胸をめがけて飛び込んだ。
男はアイリスの叫び声に気を取られて、エリザベスの攻撃は完全に不意をつかれた状態となった。とっさに避けたが右肩から腕にかけて激しく切られ反撃が出来るような状態ではなくなった。
アイリスは正面の二人のまず左側の男の腹を刺し、その男を盾に姿を隠して目を眩ませて右側の男に飛びかかった。
そのアイリスに目を奪われている隙に、後ろのもう一人の男をエリザベスは狙って刺しにいった。男は避けたが、避けきれずに右腕にエリザベスのダガーが刺さった。
男が腕を押さえている間にエリザベスは更にダガーを脇腹に突いた。これは脇腹を掠めただけに終わったが男の戦意を失わせるには十分な攻撃だった。
アイリスは二人目を倒したあとその剣を奪い、三人目を倒した。そのまま腕を抑えながらエリザベスと戦っている男の剣を持つ右手を切り落とした。
剣を持ったアイリスに勝てる奴はそう多くはいない。