唐突に現れた者
しかしアイリスは言った。
「そうだよ。誰もがみんな初めは足手まといだったんだよ。あたいもそうさ」
「そうやってここまで生き残ってきたんだよ。だからあんたも生き残って、将来、今の自分のような足手まといの面倒を見る責任があるんだよ。それが順番って言うもんだよ」
流石は経験者である。伊達に魔王を倒してはいない。それなりにアイリスの言葉には重みがあった。
エリザベスはアイリスの言葉を聞いているうちに、もう少し頑張ろうと思いだしてきた。
――そうだ。アイリスは魔王も倒したパーティに居たんだった。今更こんなことを必要もないのに私に付き合ってくれている。なのに私が泣き言を言ってどうする――
アイリスは剣士として勇者の仲間入りも果たしていた。だから本来はジョナサンと同じようにこんなことをする必要はない……にも拘らず、何も言わずにエリザベスに付き合っていた。
それに気が付き、自分の事しか考えていなかったエリザベスは恥じた。アイリスに申し訳ないと思った。エリザベスの瞳に力強さの光が戻ったのを見たアイリスは、思い出したように話をイツキの話を始めた。
「そう言えば、イツキの旦那だけは、そう言う甘えが許されなかったはず……」
「そうなの?」
「だって、あの人は初めて違う世界からやって来た人間。その当時、そんな人間は誰もいないから『よそ者』って蔑まれて、誰にも相手にされずにいたんだよ。だから一人で冒険するしかなかったんだ。毎日、一人で戦って、虫食って、蛇捕まえて誰の手も借りずに生き延びたらしいよ」
エリザベスはそれを黙って聞いていた。イツキがこの世界に来た時の話をエリザベスは知る訳も無かった。
「そして一人でオルモンの深き場所のダンジョンの魔王を倒した。それもイツキの旦那は、その当時モンクだったから素手で倒すしかなかった。だからエルフ族の伝説になった。ちょうどあんたと同い年ぐらいの頃だった」
オルモンの深き場所のダンジョンでの戦いにイリアンがいた事はイツキしか知らなかった。
なので、ダンジョンの魔王ベルベを一人で倒した事になっていた。
エリザベスはそれを聞いてイツキとの約束を思い出した。
――私は生き残って、イツキさんと一緒に仕事をするって約束したんだった。こんなところで死んでられない。絶対に生き残ってみせる――
消えかけていたエリザベスの生への執念は蘇った。
それに気が付いたアイリスは
――もう大丈夫。この子は絶対に私が守って見せる――
と心の中で誓っていた。
そして三ヶ月が経った。
今では蛇でも虫でもなんでも食べる逞しい女がここに二人いた。
二人は逃げて逃げて逃げまくって強くなった。
そしてエリザベスもこの辺の猛獣には負けないぐらいの経験を積んだ。
エリザベスは気が付いていなかったが、転移者はこの世界で成長の速度……いや経験値の増え方が、元々この世界にいる人間よりも早かった。
その際たる実例がイツキだった。人によってばらつきはあるが、概ね転生者は経験値を多く稼ぐようで成長が早い。もっともイツキの場合はチートも過ぎていたが……。
三ヶ月前、血まみれで泣いていたエリザベスの姿はもうここには無かった。
そしてエリザベスはイツキが言った『キースはサディスティックな奴だ』という言葉を噛み締めていた。
そんな二人の前に、五人組の男たちが突然現れた。アイリスとエリザベスは驚いて一瞬、息が詰まった。
男たちも突如目の前に現れたこの二人を見て驚いた。
男たちとアイリスたちの間に緊張感が漂った。
「なんだ? お前らは?」
とその漂う緊張感を破るように、男たちの一人が聞いた。