表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/137

二人の黒騎士

 イツキとマーサがのんびりとギルドのレストランで昼食を取っていた頃、ロンタイル大陸の中心部を東西に走るダリアン山脈の最高峰エルガレ山の麓で、二人の少女は虫を喰っていた。


 虫だけではなくそこで捕まえられる生き物という生き物は、全て二人の腹の中に入っていった。

そう、虫を喰って生き延びていたのは、自ら黒騎士になったエリザベスとアイリスだった。


 ここに来て三日目にキースに武器としてダガーを一本づつ持たされただけで、二人ともこの森に放り出されてしまった。


 キースから二人に出された命令は『死ぬな』のひとことだった。


 最初に二日分の食料は持たされていたが、それは直ぐになくなった。

初めから持たされることなく放り出されているより、中途半端に何かを持っていた方がそれを食べ尽くした時のショックの方が大きい。

それも全て織り込み済みで食料を持たされた二人だったが、そんな事は知る由もない二人は『なんとかなるさ』と軽く考えていた。


 しかし、夜は全くの暗闇。

確かに魔獣や魔物は味方になったとは言え、それは力がある魔族にのみ通用する言葉だった。

弱い魔族のなりそこないなんかは、下手な人間より日頃の恨みの対象になったりして格好のターゲットだったりする。


 幸いにもアイリスは剣士としてはマイスターだった。なのでこの辺の魔獣に遅れを取る事はないが、エリザベスは違った。

初日から魔物に襲われ食料を失い、そして血まみれになっていた。


 回復薬とアイリスの多少の魔法である程度は体力の復活は可能だったが、いつまで彼女の気力が持つかがアイリスのエリザベスに対する懸念だった。エリザベスも魔力持ちではあったが、まだ上手く魔法が使えなかった。


 エリザベスは森に入って二日目に『もうこのまま死んだほうがマシだ』と思った。

『虫なんか食えない! 蛇食うぐらいなら死んだほうがマシだ!』とも思った。


 息も絶え絶えのエリザベスにアイリスは言った。


「死ぬなら戦ってから死ね」

と。

「逃げまくっているだけの時に死ぬな」

とも言った。


 アイリスは元冒険者だけあってこれぐらいの事は経験している。

だからなんとかエリザベスに立ち直って欲しかった。

ただ、残念ながらアイリスもこれほど圧倒的に力のない、貧弱な奴とパーティを組んだ事はなかった。


 つい最近まで女子高生だったエリザベスは、アイリスの言っている言葉の意味は全く理解できなかった。


「それはどういう意味?」

とアイリスに何か言われるたびに何度も聞いた。


 アイリスはそんなエリザベスに対して

「言った通りだよ。まだあんたは戦うレベルまで達していない。だから逃げるしかない。それは生き残るためなんだから、仕方ない。今のあんたのミッションは生き残ることだ。戦うことでではない。生き残りさえずれば経験を積める。経験は力だ。その経験と努力が積み重なって始めて戦うという土俵に上がれるんだよ。まだ、あんたは土俵にも上がっていないよ」

とその都度教えていた。


「だから今は一生懸命逃げるんだよ。戦える時はこれから嫌というほど来るから。私がそれまではどんなことをしてもあんたを守ってやるよ。だから必死に逃げろ。私の後ろに隠れていろ。そして戦えるようになってから戦って死ね」


「そんなの単なる足手まといじゃないの!?」

とエリザベスは叫んだ。彼女は他人の迷惑になってまで生きていたくないと思い始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ