ギルドにて
ギルドに戻るとイツキは何気なく、レストラン脇の壁にある掲示板を見た。
そこには冒険者たちへの仕事の依頼がところ狭しと張り付けられているはずだった。
しかし今はほとんど何も貼っていなかった。
張ってあったのを見るとカラク王国までの道中の護衛の案件で、それも魔獣や魔物相手ではなく人間の……それも山賊からの護衛の依頼だった。
山に入っても魔物に襲われないと判ったら、そこに山賊が住み始めたらしい。
「本当に冒険者はロクな仕事がないな」
今この国は街道沿い以外は魔物魔獣の退治は禁止されている。
山の中に入っても魔獣を動けなくする魔法をかけることまでは許されているが、退治することは原則的には禁止されている。
山に入るときは魔法を主体としたガードを雇うことになっている。
ま、今のところ山でも森でもこの国では魔物に会うことは少ないが……。
今、自治団も山賊狩りと山に仕事で入る人のためのコースガード的な仕事が主な仕事になりつつある。
――昔はこの掲示板の前に冒険者の人だかりだったのになぁ……――
と昔を懐かしむようにイツキはその掲示板を見ていた。
受付でヒマそうにしているマーサが目に入った。
イツキはマーサに声を掛けた。
「ヒマそうだな、マーサ。昼飯はまだなんだろう? 一緒に食わないか?」
「え? 奢ってくれるんですか? 行きます!!」
マーサはそう言うと後輩に受付業務を引き継ぎ、イツキの元まで走ってきた。
二人は話しながらギルドのレストランに向かった。
「この頃は本当に暇です」
「まあ、そうだろうな。これだけ魔物が減ったらな」
いつもイツキが座る受付に一番近い席に二人は座った。
「それは平和になったっていうことですか?」
とマーサはイツキに聞いた。
「マーサはどう思う?」
イツキは敢えてマーサに聞き返した。
「確かに今なら隣町にも馬車に乗って安心して行けます。だから平和になったんだなあと思います。でも、このギルドに活気が無くなって寂しいです。ギルドが無くなったりしませんよね?」
「それはどうかな? 冒険者がいなくなったらこのギルドの存在価値はなくなるからな。このままでは厳しいだろう」
「え~! じゃあ、私も今から職探しをしていた方がいいのでしょうか?」
「まあ、うちのギルマスは賢いからそんな事にならないように手を打ってくれるだろうから、慌てて職探しはしなくていいよ」
イツキは笑いながらマーサにそう言うと、注文を取りに来たマリアにランチセットとワインを注文した。
「それを聞いて安心しました。でも少しは魔物も増えてきたんですかねぇ?」
「若干だな。まだまだだな。冒険者もこの大陸は魔物が居ない上に退治が禁止になっているから他の大陸へ行ってしまったからな」
その上、イツキはこの大陸で増えた魔獣を他の大陸へと持っていくようにオーフェンに頼んでいる。その話はこの場でマーサには言わなかった。
「あ、そうだ! エリーは元気にやってますか?……というかまだ生きてますか?」
マーサは思い出したようにイツキにエリザベスの事を聞いた。
イツキにしてもエリザベスの事は1日も忘れた事が無いほど気にかけていた。
「この頃は連絡ないな。でも大丈夫だろう。もし何かあったらジョナサンが一番に連絡を寄越すだろうから」
と言ってイツキはマーサを安心させた。
「そうですよね。何かあったらすぐに連絡がありますよね。少しは強くなったかぁ」
マーサは早く一人前になったエリザベスに会いたい様だった。
「まあ、もう少ししたら様子を見に行ってくるよ。今頃はキースがどれほどサディスティックな男であるかが分かった頃だろうしなぁ」
とイツキも笑いながら言った。しかしイツキ自身も気にはなっているので、来月位は顔を出そうと思っていた。
「本当にイツキはキース様と馬が合いませんね」
「合うわけないよ」
とイツキは笑いながら言った。
そんな話をしているうちにマリアが料理とワインを運んできた。
「今日は遅いランチですね。ワインは先に持ってきた方が良かったでしょうか?」
「いや、一緒で良いよ」
イツキは笑いながら応えた。
軽くワインで乾杯して二人は遅めのランチを食べ始めた。