資格持ち
松島の表情が少し和らいだのを確認してイツキは話を続けた。
「で、ここはそういった人達の仕事の世話をする施設です。ギルドと言います。ま、言ってみれば職安みたいなもんですかね」
「成る程……。私は異世界に飛んで来て、もう元の世界には帰れないという訳ですな」
松島は状況が飲み込めたのか、落ち着いた声で応えた。
「簡単に言えばそういう事になります」
「なる程……そうですか……」
そういうと松島武雄は肩を落として落胆した。状況は理解できていたが、それよりも落胆する気持ちの方が強かったようだ。
――まあ、五十三年年間も真面目に生きて来てこんな目に遭ったら気落ちもするわなあ――
イツキも同情の念を禁じえなかったが、話を続けた。
「松島さんは今まで何のお仕事をしていましたか?」
「仕事ですか。私は発電所で技師として働いております」
「え、そうなんですか? 何か資格はお持ちですか?」
「第一種電気主任技術者と第一種ボイラー・タービン主任技術者の資格を持っております」
「おお、そうなんですか……」
とイツキは明るい表情を見せた。
「ここは電気がついてますね。中世みたいな感じがしていたのですが……」
と松島は天井を見上げて言った。流石は電気技師である。よく見ている。
「実は、電気が通っているのは一部だけです。王宮とか国の施設とか貴族の屋敷とかです。ここも通ってますが、無理やり私がやらせました。一般的には魔法や魔石。あるいは普通のランプですね」
イツキは笑いながらそう言った。
「魔法? そんなものもこの世界にはあるのですか?」
松島は驚いたように聞き返した。
「あるんですよ。通常ならランプや明かりは魔法か魔力を込めた魔法石なんかを使うんですけど、ここは松島さんが言うように電気が通っています」
「なる程」
「ところで松島さんは異世界転生モノの話を知りません? あるいはアニメとかゲームとかやったことないですか?」
「RPGなら子供のころやりましたが……」
「あ、それです。そのゲームの世界に転移してきたと思えば分かってもらえるでしょうか?」
「そんな事が……」
と言って松島は絶句した。
「あるんです。私もここへ転移してきた口ですから」
と言ってイツキは笑った。
「え、あなたも……そうなんですか……」
「はい」
イツキはにこやかな表情で応えた。今まで何度こんな会話を繰り返しただろう。
「もう元居た世界に帰ることはないと……」
「はい。残念ながら……そういう人を僕は知りません」
とイツキは申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。
「イツキさんはここに来て長いんですか?」
と松柴は聞いてきた。
「そうですねえ……十年以上になりますか」
「え? そんなに……」
「はい」
相変わらずイツキの表情はにこやかな表情だ。
「で、今はキャリアコンサルタントのお仕事に就いていられると……」
「はい。ひとことで言ってしまえばそうなります」
「ほぉ……そうですか……」
そう言ってから松島は黙り込んでしまった。
何かを必死で考えているようだった。イツキはしばらく黙ってその様子を見ていた。
「じゃあ、私もこの世界で仕事を見つけなければなりませんね?」
年の功なのか松島は呑み込みが早い。
「はい。そのためにギルドがあり、僕が居ます」
とイツキははっきりとした口調で言った。
「そうですか。私の技術がここでも活かせられるでしょうか?」
「はい。勿論です。実は先程も言いましたが、何人もここに転移して来ていますから、技術者だった方も何人か来られてます。その人達と一緒に発電施設を作ったんですよ。私が」
と何故かイツキはどや顔で言った。