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スチュワートの能力

 そこにはハープを抱えて、右手にハープに仕込んだ刀を持ったスチュワートが泣きそうな顔をして立っていた。

ケントはスチュワートの存在に全く気が付いていなかった。


「な、なに奴?」

とケントが声を出した途端、リチャードが小さな声で笑った。


「こいつは俺と一緒に旅をしてる吟遊詩人のスチュワートだ。だが、まさかお主の後ろを取るようになるとは思わなかったが……」


「不覚です」

ケントは悔しそうに言葉を吐いた。


「く、く、空気が……流れが……いつもと少し変わったので、み、見に来ました」

リチャードは半分失神しそうな気分になりながらそう答えた。長年ヒキニートの彼は他人との関りを極力避けて来た。そのため彼の存在感はほとんど無きものに等しい、影の薄い人間となった。それが今回は幸いした。その影の薄さが、存在感のなさが彼の個性となり武器となった。ただ本人にはその自覚も何も無かったのが残念で仕方ない。


 今回の場合ヒキニートだった男でも、皇太子に何かあると思った瞬間、貴族の誇りが恐怖感に打ち勝った。

スチュワートは僅かな廊下の空気の流れを察知して、様子を見ていたら見知らぬ男がリチャードの部屋に入るのを見たので、様子を見ようと慌ててこの部屋に忍び込んだようだ。


「スチュー、安心しろ。こいつは俺の友達で、俺の事をいつも見守ってくれるありがたい奴だ」

リチャードは笑いながらスチュワートにケントを紹介した。


「そ、そうでしたか。失礼しました」

スチュワートは胸をなでおろしながらも慌ててケントに謝った。


「吟遊詩人に後ろを取られるとは……」

ケントは相当ショックだったようだ。顔に悔しさがにじみ出ていた。

それをリチャードは見て子供の頃のケントを思い出していた。


――こいつは本気で悔しがっているな。昔から分かり易い奴だ――


「だから用心しろと言ったんだ。貴族にはこういう特技を持った奴もいるという事だ」

リチャードは笑いながら言った。


「は、肝に銘じておきます」

そういうとケントはスチュワートをひと睨みしてから部屋を出て行った。


「それにしてもスチュー、お前はよく気が付いたな」

リチャードはケントが部屋を出て行くのを目で見送った後、視線をスチュワートに移して言った。


「は、はい。部屋でハープの練習をしていて、そろそろ寝ようかと思っていたら……。廊下に出たらなんだか空気が動いていたので気になって見に行ったら、ちょうどさっきの人が殿下の部屋に入るところでした」

スチュワートは慣れてきたとは言え、まだまだたどたどしい口調で一生懸命に話した。


「ふむぅ……お主がそんな事に気が付くとはなぁ……。職種を間違えたか……」


「い、いえ。なんだか、空気の振動が分かるようになったんです。後は人の息遣いとかが……舞台に立ったらナリスの息遣いが分かるようになって、それから観客の息遣いが見えるようになりました」


「なるほどねえ……吟遊詩人も無駄ではないという事だな」

リチャードはスチュワートを見直していた。

アルカイルに言われた『男子三日会わざれば括目(かつもく)して待て』という言葉をリチャードは、心の中で反芻(はんすう)していた。

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