リチャードの想い
ナルスやグレースのようにいつも優しく接してくれるのも嬉しいが、リチャードのように頭ごなしで押さえつけるような接し方も、アルカイルやモーガンのように余計な事は言わないそれなりの距離感を持って接してくるのも理解できるようになり、それなりの対応を覚えていった。
今ではリチャードの高圧的な態度も、それは彼の個性であると思えるようになってきた。
ただそれを彼がそれを自己の成長とは思っていないのがナリスには歯がゆかった。
周りからは未だにオドオドしているだけのスチュワートにしか見えなかった。
ナリス達は暫くロトコの村をベースに近隣でモンスター退治を行う事を決めた。
勿論、夜は酒場の舞台にナリスとスチュワートは上った。
二人の舞台を見ながら他の四人は毎日食事とお酒を飲んでいた。
「いつもながらナリスの舞は美しいのぉ……」
とリチャードはアルカイルに言った。
「殿下、口調がオッサンになってますよ」
アルカイルはリチャードに笑いながら言った。
「え? そうかぁ?」
リチャードは苦笑いしながら、
「アル、それにしてもスチュワートのハープも上手くなったと思わないか?」
と珍しくスチュワートを褒めた。
「そうですな。確かにこの頃のスチュワートの成長は目を見張るものがありますな。イツキの言葉を借りるなら『男子三日会わざれば、括目して待て』ですな」
「男子三日……なんだそれは? どういう意味だ」
「イツキの居た世界では、スチュワートのように日々鍛錬する者は、気が付くと見違える程成長しているという意味で使うそうです」
「う~ん。成る程。わしもそうやって良き臣下を得たいもんだな。その言葉忘れぬようにしよう。それにしてもイツキはそんな難しい言葉をよく知っていたな」
「彼はああ見えても勉強家ですからな。それに彼には師匠がおりますからな」
「師匠?」
リチャードは聞き返した。
「ええ、彼と同じように異世界から来た人間ですが、博識な男でイツキに色々と知識を授けていたようです」
「そうなのか、そんな奴が居たのか。アルはその男に会った事があるのか?」
リチャードはその男に興味がわいた。
「ええ、ありますよ。物静かな良い男です。歳は六十になりますかな」
「結構、いい歳だな。その者の名は何と申す?」
「シドと申します」
「ふむぅ。俺も一度会いたいもんだな」
リチャードはそのシドと言う名前の男に興味が湧いたようだった。
「帰ったらイツキに段取りして貰いましょう」
「そうだな」
リチャードは酔った勢いで参加したこのパーティだが、それなりに後付けだが彼なりの目的を持っていた。
それは良き臣下を見つける事だった。
いつかこの国を治める事になる自分には腹心と呼べる者がいない。幼なじみで信じられる友人はいるが、あくまでもそれは友人でその能力も大体分かる。
彼は渇望していた。本当の腹心を。帷幕に在って千里を謀るような逸材を、参謀を、彼は欲していた。彼は己の限界というものも分かっていたが、それよりも自分が置かれた立場とそのためには何をすればいいのかという事を理解する能力が高かった。
その彼が一番欲しているのが参謀格の人材だった。
リチャードがそんな事に思いを巡らせていると、ナリスとスチュワートが席に戻ってきた。