ロトコの村
ナリスとモーガンは先頭にいた巨大なオオサンショウウオのお化けを狙った。
そしてスチュワートは絶叫しながらグレースの前まで逃げ、ハープをかき鳴らし呪いの歌を歌っていた。
リチャードとアルカイルは一刀両断で二匹倒し。返す刀で他の二匹を倒した。
ナリスとモーガンは余裕をもって真ん中の一匹を倒した。
このレベルのモンスターならこのチームの敵にもならない。
こんな感じでこのパーティは街道を南下しロトコの村にたどり着いた。
ここは村人が二百人ぐらいの小さな村だった。
ただ小さな村と言っても街道沿いにある村なのでそれなりに旅人も多く、宿屋や飲み屋は不自由することは無かった。
そんな宿場町のような村なので冒険者のパーティはそれほど珍しくもなく関心を引くことはないのだが、パーティメンバーのバランスが余りにも違うので冒険者仲間からはなんとなく目立つ感じになっていた。
リチャードの言葉を借りると『スチュワートが異様にアンバランスさを際立たせていた』という事だった。つい最近までヒキニートで尚且つ冒険者どころか社会人と言うのさえ危うかったような人間である、ある意味目立つのはやむを得ない事であったかもしれない。
しかし一番の理由はパーティに皇太子がいるという事にリチャードは気が付いていなかった。
宿屋に着いたナリスは一つの提案をスチュワートにした。
それは『酒屋でナリスと一緒に舞台に立たないか?』という事だった。
スチュワートのハープをバックにナリスが踊るというこの提案は、スチュワート以外のメンバーは大賛成だった。
ここにたどり着くまでにそれなりの経験も踏んだ分、スチュワートのハープも唄も上手くなってきた。
後は場数という経験が必要だ。それは踊り子としてやてきたナリスだからこそ分かることであった。
最初は嫌がっていたスチュワートだったが、ナリスの励ましと、アルカイルやグレースからも後押しされ、最後はリチャードからの命令でやむなく首を縦に振った。
本人もここにたどり着くまでの間で逃げ一辺倒の性格から、自己改革への微かな欲求みたいなものも生まれ始めていた。
『どうせ俺なんか』から始まり『このままではダメだ』に辿り着いたこの旅も、ここに来て『超えたい』という発想ができるようになっていた。
なのでスチュワートの目下の課題は『今日の自分を明日超える』だった。
ただこれはスチュワート自身が思っているだけで、決して口には出さなかった。出したら最後、この思いやりの塊みたいな人達は毎日スチュワートのために課題を与え続けてくれる事は想像に難くない事だったから。
彼らが村に到着した初日の夜から酒場で踊っているナリスの姿が見られた。
旅人や冒険者はそれを見て楽しんだ。勿論、スチュワートはハープと唄で一緒に舞台に出ているのだが、注目はやはりナリスだった。
『女性にモテる』というだけで選んだこの吟遊詩人だったが、このパーティに参加した時スチュワートは自分が『人見知りのヒキニート』である事を忘れていた。
旅に出る前にアルカイル・リチャード・モーガン野郎三人に引き合わされた時に、それを思い出した。
ここでそのまま家に帰ろうかと思ったが、パーティメンバーの一人が皇太子という事で諦めた。
将来の国王陛下に『ダメな奴』の烙印を押されては彼ら一族に明るい未来は全くないと言うことだけは、スチュワートにも想像できたからだ。彼はヒキニートではあったがバカでは無かった。