南下するパーティ
話は少し時計の針を戻すことになる。
ナリスを中心に組まれたパーティだが、ロンタイル大陸を南下していた。
パーティを組んだ当初はまだまだパーティと呼べるような代物ではなかった。
特に皇太子リチャードが不満をためていた。
旅すがら毎日リチャードは思っていた。
「なんでこんな役立たずをメンバーに入れたんだ?」
と。
いや、思っただけではなく口に出していた。
王都を出てからこのパーティのリーダーのナリスに何度その言葉を吐いただろう……。
基本的にリチャードは気が短い。浅慮な人間ではないが、思った事は直ぐに口に出さないと気が済まない性質なんだから仕方ないともいえる。
彼が言葉に気を遣うのはただ一人、国王しかいない。逆にそうやって直ぐに口に出すから、御付きの者たちとっては分かり易い主人となるのであろう。
もっともそう言われたナリスはいつもは笑って聞き流しているだけなので、それ以上の会話にはなることはない。
役立たずと言われたのは吟遊詩人のスチュワートだった。
なんせ動けない。動いても遅い。歌は下手ではないが上手くもない。
持っているはずの回復系の魔法効果もそれほどでもない。
全てにおいてまだ未熟なのである。
「まあ、そう目くじらを立てないでも良いでしょう。殿下」
と今日はナリスが笑って聞き流すのではなく、アルカイルがリチャードをなだめた。
「そうそう。彼が初心者なのは最初から分かっていたんですから」
それにナリスも同調した。
「まあ、そうなんだが……」
とリチャードは納得できない素振りで言った。
「それに彼がいるから、魔獣に遭遇できるんですから」
ナリスはそう言ってスチュワートをかばった。
スチュワートもいつもの彼であればリチャードに詰められた時点で『動きたくない』だの『死んだ方がマシだ』だの言って駄々をこねてもおかしくは無いのだが、相手が皇太子、それも将来は国王になるリチャードに対しては貴族の息子として流石に弱音は吐けなかった。
将来の国王陛下の機嫌を損ねるという事は、自分一人の責任ではなく一族郎党にまで類が及ぶ事になりかねないと理解していたからだ。その程度の貴族の分別と意地と誇りは、彼もまだ持ち合わせていた。
旅に出て最初の一か月はこうやってリチャードに毎日のようになじられていた。その都度、いつもナリスが庇ってくれるか笑って誤魔化してくれていた。
そろそろ事前の予備訓練のような旅を終えて本来の目的地に進みたいのだが、なかなか魔獣に遭遇しない。
なのでこの頃は先頭をスチュワート一人で歩かせて、その少し後ろをナリス。その二人から少し距離を置いて、後方から他のメンバーもついていく形で街道を下って行った。
勿論、スチュワートは嫌がったが、皇太子命令なので逆らうわけにもいかず、この頃は居直って歌の練習がてらに声を張り上げて歩いていた。そのおかげか、ちらほらっと魔獣の類が引っかかるようになった。
特に呪いの歌は秀逸で、日々のリチャードの嫌味がそのまま呪いの言葉として蘇るようだった。
魔獣が現れた時に呪いの歌を歌っていようものなら、間違いなくその魔獣は呪いにかかった状態で登場する羽目になっていた。リチャードのお陰でスチュワートの呪いの歌はみるみる上達していった。
ひとことでこの状態を述べるのであれば、スチュワートは撒き餌みたいなもんだった。そうなるとナリスが釣り針となり、後はリチャード・アルカイル・モーガンが狩り、グレースが回復系の魔法を後方から支援していた。
とは言えそんなに大物の魔獣は釣れないが、あまりにもスチュワートが弱いので数少なくなった魔獣の類もそれにつられてちょこちょこ出没し経験値はそれなりに稼ぐことができた。
彼らはこの戦法を『スチュワートの愉快な釣り仲間作戦』と呼んでいたが、スチュワートだけは『鬼畜な撒き餌作戦』と呼んでいた。