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イツキの頼み


「なんだ? 何かあったのか?」

オーフェンの目が妖しく光った。


「いや、これから何かが起きるかもしれないのさ」


「ほほ~。人という生き物は難儀な生き物の様だのぉ」

オーフェンは口元を少しゆがめて楽しそうに笑った。


「ああ、ある程度魔物が居て魔獣が居た方が、人は平和で幸せなのかもしれない」

イツキは自分にも言い聞かせるようにオーフェンに向かって言った。


「魔獣よりも魔人よりも人の方が残酷な事が出来るかもしれない。僕はその瞬間に立ち会わなければならないような気がする」

イツキがそういうとオーフェンが意外そうな顔をして応えた。


「お主の口からそんな言葉が出るとはな。よっぽどの事だろう。人の世の事はワシには関係ないが、お主等とは長い付き合いだからのぉ。いつでも黒騎士にしてやるぞ」


「ああ、その時は頼むよ」

とイツキは笑って応えた。


「あと、一つ頼みがあるんだけどいいかな?」

イツキが少し険しいか顔をしてオーフェンに言った。

「オーフェンのところはこれから保護期間に入るから、基本的には魔獣の類は増えていくと思うんだけど、その増えたのを他の大陸に回すことってできるかな?」


「他に回す?」


「そう。他の大陸の魔王のところへ回すって可能なのかな?」


「出来ん事はないが、どうしてじゃ?」

オーフェンは怪訝な顔で聞き返した。


「うん。もう少し他の国には魔獣達と戦っていて欲しいんだ。その間だけでもうちは平和だからね。色々と今は少しでも時間が欲しいんだ」

魔獣との戦いのように個人的あるいは小集団での戦い方は慣れていても、国対国の本格的な戦いはここ数百年無かった。


 国境での小競り合い程度は何度かあったが、その程度だった。

魔獣魔物が少なくなって、何もする事が無くなった超人的な戦闘能力を持つ勇者があぶれた今、その力を自国の戦闘力へと吸収し活用する事を考える国が出てくるのは容易に想像ができた。


 そんな流れが、世界的にチラホラと見えてきた今、ナロワ国だけがのんびりと指をくわえて見ている訳には行かない。そう、『魔獣が全くいなくなった時が来れば、他の国との戦いも視野に入れておかねばならない」と、イツキはヘンリーに聞かされていた。


「なる程。時間稼ぎをすればいい訳だな。分かった。できる限りの事はしてやろう。ただどれほど回せるかはやってみないとワシにも分からんぞ」

とオーフェンはイツキの顔色を窺いながら全てを察していた。


「それはありがたい。まあ、杞憂(きゆう)で終わればそれで良いんだけどな。よろしく頼むよ」

イツキはホッとした表情で笑った。


「具体的に相手は分かっているのか?」


「いや、万が一だよ。何もなければそれでいいんだけどね」

とイツキは首を振った。イツキにも具体的に国名が浮かんでいるわけでは無かった。


「ふむ。お主も大変じゃのぉ……おお、そうじゃ! 後でお主の元へ一人遣わすかもしれん。そやつをちょっと面倒見てもらうことになるかもしれん」

オーフェンは急に思い出したようにイツキに言った。


「何をするつもりだ?」


「何もせん。まあ、お主の悪いようにはせんから安心しておれ。兎に角、ワシの紹介だと言ってきたら少しの間面倒を見てやってくれ」

オーフェンはそういうと笑ってワインを飲んだ。

イツキはそれを見てオーフェンのグラスにワインを注いだ。


――兎に角、オーフェンが願いを聞いてくれて良かった――

イツキは少しだけ気持ちが楽になった。


 周りを見渡すと昔命の取り合いをした暗黒槍騎士団の連中と和気あいあいに飲んでいるカツヤやアシュリーの姿が目に入った。

それを見ると不思議な気持ちにもなるが、分かるような気もする。しかし誰がこんな世界を想像したであろうか?


 人間は魔人と分かりあえても、本来分かりあえるはずの人間同士が分かり合えなくなるものだ。

イツキはそんな事を考えながら、この広間での集まりを見ていた。


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