宴会
「『え!?』 じゃない! ほら受け取れ!」
そう言うとイツキはオーフェンにワインボトルを放り投げた。カツヤもサルバとキースにワインボトルを渡した。
「サルバ! グラスをもってこい」
イツキは座った目で右手から何やら青白い炎を出しながらサルバに命令した。周りからはイツキはすでに完全にキレている状態に見えていた。
「あやつがあの状態になったら言う事を聞け! サルバ……」
とオーフェンはあきれ顔でサルバ耳元で囁いた。
「左様でございますな」
サルバはやれやれという顔をして、一気にテーブルとグラスを目の前に登場させた。
「ほれ、この軟弱魔王にワインを注いでやるが良い」
その声でアシュリーが何故か腰を低くしてオーフェンのグラスにワインを注いだ。
「ほれ! オーフェン。この二人の前でいうことがあるだろう」
オーフェンはまだ理解できないでいた。いや、理解したくもなかった。
しかしキースもサルバも大体の状況は理解してきた。
要するに七年前の戦いで、この二人はそれがきっかけで結婚したと。
で、何か知らんが魔王が恋のキューピッドの役をしたというのを理由に皆で酒を飲みに来たと。
それを唐突に突きつけられて困った魔王を肴に飲むという事か……キースはそう理解した。
――それはそれで一興だ――
オーフェンは二人を前に少し考えていたがおもむろに
「なる程のぉ……」
と目を細めて呟くと
「二度も黄泉の国へ身内に会いに行った先祖思いのアシュリーと、そんな男に連れ添う事を決めたアンナ。健やかなる時も病めるときも戦う時も共に喜びも悲しみも分かち合う事を誓うか?」
と二人に聞いた。
「誓います」
二人は声を揃えて誓った。
「ここに魔王オーフェンの名の元に於いて二人を夫婦と認める」
と宣言した。
イツキ・カツヤ・ジョナサン・シラネが剣を抜いて頭上に突き上げ歓声を上げた。
キースとサルバそして闇黒槍騎士団状況がイマイチ理解できていなかったが剣を突き上げて声を発した。
イツキは笑いながらオーフェンに
「付き合ってくれてありがとう。オーフェンなら期待を裏切らずに乗ってくれると思ったよ」
とお礼を言った。
「前もって言え」
そう言ってオーフェンは苦々しい顔でワインを飲んだ。
「いやぁ。さっき飲んでいて思いついたからなぁ」
とイツキは頭をかきながら言い訳をした。
「悪ふざけが過ぎますな」
サルバが横からイツキを諫めた。
「まあ、まあ、サルバも飲めよ」
そう言ってサルバの持っていたグラスにイツキはワインを注いだ。
サルバは無言で飲んだが、飲み終わった後は美味そうな顔をした。
「これから愛の魔王キューピッド・オーフェンで売り出したらどうだ?」
イツキはまだ酔っぱらってオーフェンに軽口をたたいた。
「馬鹿なことを言うな」
多分この世界でオーフェンにこんなことを言って、これで許してもらえるのはイツキぐらいだろう。
オーフェンはイツキに乗せられた事で少し悔しい思いを感じていた。
ただそれは同じくらいの嬉しさがあったのも事実だ。
どんな形であれ真剣に命のやり取りをした者同士だ。それなりに思いがあるのは事実だった。
結果オーフェンは負けたが、それが遺恨に残ることは無かった。どうせ復活するし。
それどころか心地よい思い出とさえなっている。
カツヤが持ってきたワインと料理をテーブルに並べた。
キースがカツヤに話しかけた。それをカツヤは笑い顔で受けていた。
この二人が数年前に命の取り合いをしていたというのに、それはもう過ぎ去った思い出になっていた。