戸惑う魔王
この日はオーフェンの人生でも厄日として記憶される日になったかもしれない。
その時オーフェンはサルバと自室で話し込んでいた。
そこへ遠くから声が聞こえた。それは声というより罵声に近いものだった。
「こら! オーフェン出てこい!!」
「おらおら、責任取らんかい!」
そこへ衛兵が飛び込んできた。
オーフェンの前で跪き報告した。
「魔王さま大変です。冒険者のパーティが乱入してまいりました」
「なんだと? ここ最近は静かだったのに……それに今は保護期間ではないのか?」
「は!そうでありますが六人組のパーティが広間まで一気に到達して『オーフェンを出せ!』と息巻いております」
と衛兵は言葉を続けた。
オーフェンはサルバに視線を移した。サルバは目で頷くと無言で立ち上がって広間に向かった。
その後、オーフェンもおもむろに立ち上がって部屋を出た。
広場ではイツキ達六人が好き放題喚いていた。
「何事じゃ!」
サルバが広間に響く声で怒鳴った。
「おお、サルバ! 大人しく縄につながるが良い! 成敗してくれる!」
とイツキがサルバを睨んで言い放った。
「イツキ、お主、飲んでおるな。不埒者めが。魔王の御前なるぞ」
「うるさい!! 今日はそのイカ頭を叩き潰しに来てやったわ」
今度はカツヤがサルバに怒鳴った。
「ほほ~。誰かと思えばカツヤか。久しく会わなんだら脳みそが軽くなったようだの」
とザルバをカツヤを睨んだ。
それに怯むこともなく
「やかましい。魔王の腰巾着に言われたくないわ!」
とカツヤは言い返した。
その時、広間にひときわ大きな声が響いた。
「何事だ! 騒がしい!」
そこにはオーフェンとキースに率いられた闇黒槍騎士団がいた。
オーフェンは今の状態が理解できていないが、とても腹立たしい状況になりつつあるとはわかっていた。
キース達闇黒槍騎士団は数少ない生き残りだが、既に臨戦態勢に入っていた。
イツキが前に出た。
「オーフェン。この二人を覚えているか!」
座った目でイツキがオーフェンの前にアシュリーとアンナを押しやった。
「ほほぉ。死にかけのアシュリーとアンナではないか? それがどうした」
オーフェンは低い声でイツキに応えた。
「そうだ。お前のお陰で二度も死んだ爺さんにあの世で会ったアシュリーと、そんな男の嫁になり下がったアンナだ!」
「なんだ? この二人は結婚したのか?」
オーフェンが叫んだ。
同時に
「成り下がったってどういう意味だ!」
とアンナも叫んだ。
「そうだ! お前がアシュリーばかりいじめたお蔭で、この二人に愛が芽生えて結婚してしまったんだ!」
イツキは更にオーフェンに詰め寄った。
「何?」
「俺はいじめられてなんかいない……」
小さい声でアシュリーが反論したが、それは誰の耳にも届いてはいなかった。
そんな声にはお構いなしにイツキは
「オーフェン! お前は日頃、神も恐れぬ泣く子も黙る最強の魔王とかぬかしていながら、なんと! このニ人の愛のキューピッドなんかをしてやがったんだぞ。それも戦いの最中に……懐に愛の弓矢を隠してやがったのか?! この軟弱もんがぁ!」
と一気にまくし立てた。
「え? ちょっとまて! 意味が分からん! お前は何を言っている?」
オーフェンは予想を遥かに超える話に理解がついて行かなかった。