2話 前半「地獄の始まり/日常漂白」
不定期更新でございます。ご容赦を……
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──・・・・・・[1号]
俺が怪獣──正しくは魔獣というらしい──に食われてから数日経った。俺は今、悪の組織のアジト、その研究所の収容室に収容されている。
邪神から魔法の説明を受けた後、そのままこのほぼ白一色の部屋に案内され「今日からここが君のお家だよ!喜べ1号!」と幽閉され、毎日やってくる邪神の実験に付き合う日々。昨日までの実験で出た結論は「一時的な負荷だと能力がちゃんと発動しない」というものだった。
この数日の苦痛は無意味だったのだ。
生活についてだが、ご丁寧なことに、自動受け渡し口とやらに3食きっちり食事が届けられ、水は飲み放題でトイレも着いていて、数日ごとに風呂に湯が張られて綺麗な服が届く。生活に必要なものは全て揃っていた。実験施設でなければ完璧だ。
数日と言っているのは何度も俺が実験で気絶して正確な日数が数えられなかったからだ、もう数える気もない。
「ここから出られる日は来るんだろうか………。」
そんな日は来ないだろう、俺の無意味な独り言はこの白い部屋に消えた。
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──・・・・・・[1号]
かなり日が経った。邪神は俺の実験がすぐに結果を得られないものだと知ると、俺の前に姿を表さなくなった。
邪神の実験は拷問紛いの虐待だったから別にいいが。代わりに組織の研究者達がやってきて俺を色々調べている。
どうやら邪神は組織のボスのさらに上、裏ボスみたいな立ち位置らしく、そんな奴のお気に入りがどんなものかと研究しているようだ。
そしてここは直近で奴らが侵略した世界で、かなりの痛手を受けたそうだ。奴らは他の世界を侵略しては次の世界へとその支配を広げているらしい。
今度は俺たちの世界の番というわけだ。
何故こんなにも情報が集まっているかと言うと、俺の能力のおかげだ。ぼーっと耳を済ませ続けていたら聴力が向上し壁一枚程度なら壁越しでも聞こえるようになったのだ。
聞こえたところで何も変わりはしないが。
暇つぶしに懐かしむ記憶も朧気だ。
魔獣の胃袋のゲートを通る際──通常なら口に含まれた時点で気絶しゲートを通る際廃人になるらしいが──記憶に影響が出てしまった。記憶の抜け落ちはもちろん、思い出せる記憶も色が落ちたようにモノクロになったりモザイクがかかったりと、綺麗に思い出せることもほとんど無くなってしまった。
(ここから出られたとして、俺は元の日常に戻れるんだろうか……。)
そんな日は到底訪れないだろう。
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──・・・・・・[1号]
最近研究者連中が騒がしい。何日かいつも通り盗み聞きしていると、研究者連中が慌てる理由が分かった。
どうやら魔法少女なる奴らが増え始めたのみならず、人類が魔法を研究し始めたらしい。ここまでなら今までの世界でも起きた事らしいが、どうやら2つイレギュラーが起きているようだ。
1つは原初の魔法少女というやつが今まで以上に強く、なおかつ有象無象の魔法少女達を束ね始めたらしい。魔法少女達がこんなに早く団結するのは初めてのことのようだ。
1つは魔法少女以外に魔力を武装とする奴が現れたことだ。これはこれまでで本当に初めてのことらしく、研究者連中が情報漏洩の疑いをかけられたり、記録した映像からそいつの武装を解析したり対策を練ったりと、とにかく大騒ぎしている。
(とうとう本物のヒーローのお出ましか。このアジトまでたどり着くかも分からんが、少しぐらい期待してもいいのかな……)
その日は、真っ白な部屋もいつもより明るく感じた。
報告書No. S1-008 ─実験体1号の実験記録8─
1号が実験に抵抗する理由が判明。1号は重度の女性恐怖症だとわかった。研究をスムーズに進めるため、女性研究員は今後1号の実験から外れるように。
追記:数名の女性研究員から突然の移動に抗議の声が上がった。
この問題を解決するため、1号の記憶をある程度消すこととなった。1号は既に記憶をかなり失っているため、処置の際は細心の注意を払うように。
追記:1号は女性研究員に対して過度に怯えなくなったが、女性恐怖症は治らなかった。
実験のスムーズな進行のため、女性研究員は1号に対して細心の注意を払うように。