閑話8『とある戦士プレイヤーの話』
胸糞注意です
【???視点】
「んぁ?」
俺が目を覚ますと、そこは洞窟だった。
目を閉じる前まで、PCの前でゲームしてたはずだったが・・・
「なんだ・・・?ここ・・・」
起き上がろうとすると、ガシャガシャ音がうるさいな・・・いや、俺の恰好がうるさいのか。
手を見れば、ガントレット・・・!?兜に鎧まで!なんだよ!まるでゲームの装備一式みたいな恰好で寝てたってか!?
「出口は・・・!」
起き上がり、周りを見るとうっすらと光が見えた!
出口だと判断して向かうと、よかった・・・出口だ!
外に出ると・・・どこだココ。
今居るのは小さい山の中腹くらい。
麓に街が見えるが、日本の街並みじゃない。
・・・ここからなら迷うことなく行けそうだな。
とにかく情報が欲しかった俺は、山を下りて街に向かう。
街に近づけば、目の前の光景は、雰囲気が9~10世紀くらいのヨーロッパ?みたいな街並みにファンタジーをぶっこんだ世界だった。
何だコレ。人間がぱっと見多いが、犬耳とか猫耳ついてる人間とか、手足に鱗みたいなのがついてるヤツ、顔が完全にトカゲみたいなヤツまで居る。
「おい、そんなとこで突っ立ってないでどけ」
「あ、スンマセン」
あっけに取られてたら、俺と同じように鎧と武器で武装した数人の人間が街の外に出て行く。
・・・今、言葉通じたよな?どうなってんだ・・・?
とりあえずどこかに落ち着ける場所は無いかと探し、適当に目についた路地に入って色々と検証を始める。
「この装備・・・エルドラド・クロニクルのヤツか?・・・インベントリ」
インベントリを呼び出すと、目の前に黒い穴・・・コレがそうか?
普段からネット小説を読み漁ってるから、順応が上手くいきそうだ。
・・・一応持ってた武器もインベントリに入れておくか。
ゲームで出来る事は大体できると考えて良いヤツか?コレ。
持ってるのは、ポーション類が幾つかと予備武器、食糧に・・・あ!
「金貨。エルドラド金貨か・・・こういう世界ってとりあえず金貨使えるっけ?まぁ使えるだろ」
とりあえず金貨数枚を握りしめて、宿を探す。
街を歩いていくと文字も目につくが、ちゃんと読めるし意味が分かる。
アレか?転生特典的なヤツ。
しばらく通りを道なりに従って歩くと、大きな宿を見っけた。
ここなら金貨使えるか?と思って、入ってみる。
「いらっしゃいませ」
猫耳の受付が出迎えてくれたので、カウンターに金貨を置いて
「コレで泊めてくれ」
そう頼むと・・・急にいぶかしげな顔をして俺の金貨を摘まんだと思ったら・・・なんと目の前で金貨を齧った
「ちょ!?」
「お客さん。この金貨、本物ですかぁ?」
受付が齧った金貨を見せると、傷一つない。
当たり前だ。エルドラド金貨は破壊不可能なオブジェクト。
齧った程度で傷はつかない
「本物の金貨は齧れば傷が付きますよ。
お客さん、コレ贋金でしょ」
「ハァ!?」
いや、ゲームの通貨だから仕様で傷は付きません・・・とは言えねぇ!!
絶対信じてくれないだろうし!
マジかよ、いきなり金貨を齧って判定とかこの世界どんだけ通貨に信用ないんだよ!
それよりヤバいのは・・・!
「警備!この人捕まえて!」
ギャー!やっぱり!
慌てて受付から金貨を取り返して宿から脱出。
マジか!贋金を疑われるなんて!・・・いや、ゲームの通貨がそのまま使えるワケないよな!チクショウ!!
後ろから警備らしい武装したヤツが追っかけてきたが、何とか振り切った俺は、路地に入り裏通りで一息ついた。
「くそ!やっぱエルドラド金貨がこっちで使えるワケないか・・・!
あーマジか・・・どうする?」
当ても無くウロウロと路地裏を歩いていると、
「ねぇ、あなたプレイヤーでしょ」
路地裏で魔法使い風の女に声をかけられた・・・プレイヤーって呼ぶ事は・・・!
「もしかして、アンタも・・・!」
「やっぱりプレイヤーね。いきなり異世界に飛ばされて大変でしょ」
異世界ィ!?ベタなネット小説じゃあるまいし・・・
「とりあえず、家に来る?こっちの世界についていろいろ教えてあげる」
「あ、ありがてぇ・・・!」
そんな誘いに乗って、俺が案内されたのは路地裏の一角にある小さな家。
「待って、お風呂で体洗ってくれる?泥だらけだから」
そう言えば洞窟で起きたから確認してなかったが・・・泥だらけか。
「風呂場はそっち、汚さないでね」
「わかった」
指示された方に向かうと、カーテンの仕切りがあり、その奥の風呂場には、湯が張られた木樽の底に簀子が敷いてある湯船があった。
「なんかえらく準備が良いな・・・魔法か?」
装備を外して、インベントリに収納。
かけ湯と石鹸で体の泥を洗い落とし、湯船に入る。
「あぁ・・・マジか」
風呂なんて毎日入ってるが、風呂のリラックス中に異世界という単語に今更衝撃が走る。
「湯加減は大丈夫?」
カーテンの仕切りの向こう側で恩人がそう声をかけてきた。
「大丈夫です!ちょっと温めですけど」
「そう。良かった。
人生最後の入浴は満足できたみたいね」
は?
瞬間、カーテンの向こう側から巨大な剣が突き出て、湯船ごと俺が貫かれた。
今まで体験したことの無い、強烈な痛み。血もとんでもなく出ている。
え、俺、死ぬの?なんで・・・?
「ちょうどエルドラド金貨を補充したかったから、良いタイミングで来てくれてよかった。
あぁ。街の人間全員の『好感度』が下がるから、また≪おだいじん≫で好感度稼がないとね・・・」
真っ暗に薄れる意識の中、最後に見たのは俺が恩人と感じた女の本性だった・・・
≪エルドラド金貨≫
MMORPG『エルドラド・クロニクル』にて流通するゲーム内通貨。
ゲームストーリーの最終目的地である伝説の黄金郷「エルドラド」が実在する証拠であり、ゲーム内でも価値が保証されており、プレイヤーやNPC同士のゲーム内取引で使用されている。
エルドラド金貨は『不変の呪い』が施されており、高レベルのスキルや魔法の追加コストとして消費することはあっても、破壊する方法は無い。
この『不変の呪い』はエルドラド金貨を介して黄金郷は不滅である事を暗示しており、エルドラド復活の暗示でもある。
不滅の財宝は数多の勢力を招き、それらを取り込んで再び伝説の「エルドラド」が復活しようとしているのだ




