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閑話7『とある女狩人の話3』

【女狩人ジリア視点】


 イチホの計画するトンネル工事は大詰めとなり、今日は仲間と共にイチホを連れて、ノースプローガが牽くソリで、黒い湖のある針葉樹林を目指す。


「今日は現場の最終確認ですねぇ」

「気をつけろ。何度も言うが、黒い湖がある針葉樹林は巨獣共のテリトリーだ。

 絶対にソリから離れるな」

「わかりましたぁ」


 巨獣を積載することもある私達のソリは、巨獣の素材から作られており、非常時にはシェルターの材料にしたり、時として巨獣の攻撃から身を守る盾として使うため、頑丈さは保証されている。

 体の小さいイチホなら、ソリの中に隠れていれば、巨獣に踏みつぶされる恐れは無いはずだ。


「黒い湖近くに設置する基地はぁ、基本的には無人で稼働させる予定ですがぁ、整備は必要ですからぁ、自動人形(オートマトン)を置く予定ですぅ」

「あの動く人形か」


 イチホが木や陶器で作る、動く人形。

 確かにただの人形なら巨獣に目を付けられることも少ないだろう。


「ジリア!もうすぐ狩人小屋だ!」

「よし!そこで一休みしよう!今日は狩りではなく偵察だからな!

 巨獣との遭遇に注意しろ!」


 今年の狩りは十分な成果を得た。

 無駄な狩りは控え、イチホの言うユデンとやらの確保を優先する。


 針葉樹林の外れにある狩人小屋に到着すると、周囲に真新しい足跡を発見した。

 巨人族ではないな・・・この大きさは、人間か?


「誰か小屋に居るぞ」

「今年の狩りは終わっているはずだ。誰が居る?」

 まさか、密猟者か?南の山岳(ドワーフの国)を抜けて、人間が入り込んだ?

 ・・・いや、それにしては足跡が少ない。数は・・・恐らく一人か?

 イチホのサイズを基準にすれば、巨獣を相手にするには人間一人では無謀だろう。

 私達ですら4~5人の班に分かれ、巨獣を狩るのだ。


「もしかしたら、イチホのようにイセカイとやらから来たのかもしれん」

「ジリア。お前あの話を信じてるのか?ここじゃない別の世界ってヤツを」

「どうでも良い。あの小屋にいる存在を確かめるべきだろう。密猟者なら里長に突き出しておきたい」


 この場では最年長の狩人であるノーヴィッチがその場を窘め、私達は慎重に小屋に近づく。

 静かだが・・・誰かいるな。


「イチホ、ソリで待ってろ」

「わかりましたぁ」

 イチホをソリで待たせ、静かに仲間に合図をしてドアを開けて小屋に踏み込む


 一見すると誰も居ない。が、暖炉に火が付いている。

 何処かに隠れているな?


「誰だ!出てこい!」

「ジリア。小屋の食料が食われてるぞ」

 仲間が指した方を見れば、部屋の隅に非常食として置いていた漬物の壺やチーズの袋が転がっていた


「手分けして探すか」

「あぁ。もしかしたらイチホのように遭難して来たのかもしれん」

「ドワーフ共の手先なら、タダじゃ置かねぇけどな」


 仲間の中で血の気が多いカディーの言葉に、ヒィッとどこかで小さい悲鳴。

 ・・・そこか


 ベッドの下を覗くと、居た。人間の女が隠れていた


「ゆ、許してください・・・道に迷ってお腹が空いてて・・・」

「心配するな。狩人小屋の食料は遭難者のためにある」

「ジリア。見つけたか」


 人間の女をベッドの下から出す。

 ピンクの髪を長く伸ばし、丸眼鏡をかけた人間の女。

 随分変わった服装だな。黒と白の・・・なんだ?この服

「メイド服ですねぇ」

「・・・イチホ、ソリに居ろと言ったはずだぞ」

 いつの間にか私の近くにイチホが居た


「イチホ?・・・ってシャチョォーーーー!!??」

 シャチョォ?イチホの事か?

「あー。はい。この人、知り合いですぅ」

「アイエー!!シャチョウ!シャチョウナンデ!?」


 なんだか騒がしいが

「説明してくれ」

「えーっとですねぇ。私の居た世界のォ・・・ニックネーム?みたいな呼び名がぁ『社長0娘(シャチョウレイジョウ)』って呼び名でしてぇ・・・そこからシャチョウって呼ばれてますゥ」

「イチホの国では変な呼び名が流行っているんだな」

「言わないでくださいぃ」


 しばらくして、落ち着いたイチホの知り合いが改めて自己紹介してくれる事となった

「どうも!社長_「ん?」・・・ではなく、イチホさんの友人の『ミハル』と申します!」


 なるほど、ミハルか。


「アバターネームじゃあないんですねぇ」

「流石にアバター名は名乗れませんよ。ネタっぽいのにするんじゃなかったぁ・・・」


 何やら二人でコソコソ話してるな・・・


「それにせっかくの異世界転移ですし、ここは冒険者とかやってみたいですね」

 話の途中でミハルが冒険者になりたいなど言っていたので、一言教えておくか

「この辺りに冒険者組合など無いぞ。というか民家すらここには無い。

 魔物すら踏みつぶす巨獣の縄張りだからな」

「え゛」


「ついでに言いますとぉ。並の人間が住める環境ではないですねぇ。

 もうすぐ冬なのでぇ夜は気温がマイナス20度以下まで下がりますよぉ」

「毎年の事だな」

「どんな極地ですかココォ!?」

「北大陸の最北端。人間達が北の最果てと呼ぶ『北地(ノースランド)』だ」

「多分、地球基準だとぉグリーンランドとかぁそんなトコじゃないですかねぇ?」


 グリーンランドとやらがドコかは知らんが、過酷さはミハルに伝わったようだ


「ジリアさん。お願いですがぁミハルさんも一緒に里に置いてくれますかぁ?

 この人、凄く役に立つのでぇ」

「里長を説得すれば異存は無い。

 イチホは里での魔法付与で貢献しているから、里長に許可を願い出れば問題は無いだろう。

 だがユデンはどうする?」

「後回しでも大丈夫ですよぉ。流石に見捨てるのは忍びないのでぇ」

「まぁ。お前の付与には皆が助かっている。及ばずながら、説得は手伝おう」



 こうして、今回の偵察はミハルという新たな人間を加えて帰還する事となった


「・・・ところでミハル。お前は何が得意なんだ?」

「えっと。料理ですかね。今のクラスは『メイド』なので」


 ・・・めいどってなんだ?

巨人族ギガス

北大陸最北の地、北地ノースランドに部族単位で住む少数種族。

平均身長5mを超える巨躯と頑健で強靭な肉体が特徴。

高い戦士の適性を持ち、勇猛果敢な者が美徳とされている。

その代わり、魔法の素養を持つ者は極めて稀であり、治癒魔法より医学的方法の治療に頼る事が多い。

雷の氏族では18歳で成人と認められ、平均寿命は約90歳前後。最高で120歳まで生きた巨人族もいた

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― 新着の感想 ―
付与術師は村に欲しいけどめっちゃ遠そうだし本人もここから動く気はなさそうだな。と言うか広い世界の中でこんな最北の地に飛ばすとか殺す気かな?神様がやってるんだとしたら意地の悪い神様だな。
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