第87話
異世界に来て、毎日の日課にしている事はいくつかある。
まず朝起きて身支度の間に魔法による広域探知で付近のモンスターやプレイヤーの存在の探知をする。
噂話や目撃情報も収集しているが、まぁ気休め程度にはなる。
私の『占い師』のレベルだと、高度な隠密まで看破することができないが、やらないよりマシというレベル。
朝食と毎日の仕事の合間に、元プレイヤー同士で集まってトレーニング。
コレは、プレイヤー全員でやると決めた日課だ。
毎日自分の武器やスキル、魔法の扱いをトレーニングする。
強くなるためというより、能力を使いこなすためという意味合いのトレーニングだが。
マーシャさんは高速移動の速度に順応するために走り込みやパルクール、弓による的当てと言った基礎的な物を淡々とこなしてる。
私は積極的に戦闘する気は全く無いが、魔法制御を重点的に。
こっちの世界では魔法の制御技術が存在するので、その教本を参考に魔法のトレーニング。
あと、アキヒト君との決闘で使った大鎌の扱いもトレーニング中。
アキヒト君は前科があるので私と同じく魔法制御能力のトレーニング。
「よっし!命中!だいぶ威力抑えた状態でも狙えるようになったっすよ!」
最近は制御能力が向上して、軌道が曲がる射撃形状魔法とか使えるようになったらしい。
で、最後にリッシュさんは基本的に素振り。というかそれ以外してない。
リッシュさんは機工技師系と重戦士系を組み合わせたビルドらしく、分かりやすくパワーファイター。
ギミックを仕込んでいる大剣の1撃は隙が大きい代わりにその破壊力はおそらく私達より上。
というかあんなデカイ剣をよく振り回せるな。
しかも振り降ろしてるのに剣先を地面に1回もつけてない。
試しに持たせてもらったが、重すぎて持ち上がらないし。
軽戦士系のアキヒト君も筋力値が足りずに、持つ事は出来ても使えなかったらしい。
「ギミック大剣とか筋力要求値がアホ高いロマン武器っすよ・・・」
「でも決まれば脳汁出て好き」
「まぁ気持ちは分ります」
重戦士は重量級の両手武器と重鎧系に適性を持つクラス。
回避よりも重鎧系装備の装甲と高い生命力で被弾を気にせずガンガン切り込む脳筋スタイル。
私もやったことあるから分かるが、重戦士のスキルは溜め系の物があり、最大まで溜めた一撃はゲーム内でも屈指の破壊力を見せつけてくれる。
で、このタイミングでベッティちゃんの修行も同時並行で見てる。
ついこの間、ベッティちゃんの魔女レベルが5になったため、今後の成長先で何を目指すか聞いてみたら、
「竜巻から村を護ってくれたあの魔法が使いたいです」
なるほど。となると・・・『薬学の魔女』かぁ。
まぁ、元から私の所に来たからには薬師になりたいという気持ちもあるんだろう。
って訳で、私みたいにならないように『秘薬の魔女』まで目指してもらおう。
『薬学の魔女』は戦闘使用を前提にした魔法薬の製造と使用に対応したクラス。
回復薬だけでなく、酸や毒を利用した攻撃魔法と魔法薬の生産補助魔法が習得できる。
ついでだし、『ポーションマイスター』も習得させて最上位の薬品を作れるようにして、製造特化型にすれば私も楽ができる。
って事で、今教えているのは薬の勉強。
初歩の初歩である『基礎溶液』の製造方法から教えている。
基礎溶液は中位以上のポーション類の製造に必須の材料。
材料は村でも手に入るありふれた薬草と水と魔獣の獣脂。
頑張ればその辺の素人でも集めて作れるような品だ。
失敗しても材料は安く手に入るし、品質は気にせず作りまくって欲しい。
「エリシア。この子何者?」
ベッティちゃんの修行途中でリッシュさんがそう聞いたので、ベッティちゃんを紹介したら、
「この子、もしかしたら『祝福』持ちかもしれない」
「ギフトもち?」
「こっちの世界の人間や魔獣とかの生き物の中で、稀に生まれ持った特殊な才能とか能力。
高額な賞金と異名を持つ強力な魔獣は必ず祝福を何か持ってる。
そして、稀だけど人間種にも祝福を持って生まれた人が居る
・・・って旅の途中で聞いた」
こっちの世界固有の能力か・・・
「どうやって調べるんですか?」
「こっちの世界にある専用の魔法で調べる。
大きな街の聖堂とか神殿に行けば、誰かしら習得してる。
この子、今8歳か9歳くらいでしょ?」
確か引き取ったのが去年の秋の終わりで7歳くらいだったから・・・合ってるな。
「この子はすごく賢い。異常なほど」
「・・・確かにそうですね」
確か、今もマイコニド達が家庭教師みたいな感じで数学を教えてたな。
私も魔法薬製造にかかわる化学や、知ってる限りの物理学とかを教えてたが、あっという間に覚えてしまっている。
「この数学の問題。日本なら中学2年くらいで習う範囲」
「いやぁ、物覚えが凄く良くて、詰め込んでるうちに・・・こうなりました」
最初は毎日『成長加速の薬(3時間)』飲ませてるからかな?とか考えてた。
レベリングに効果があるなら勉強にもあるはずと思い、毎日訓練前に成長加速の薬を飲ませていたので、その効果でめっちゃ賢くなったと思ってた。
「近い内に聖堂に行って調べてもらった方が良い。
祝福の効果は私達の想像より凄いのが有るらしいから」
「マジですか?」
「ん。聞いた話だと『どんな魔法でも習得できる』とか『見ただけで相手のスキルをマネできる』っていう反則みたいな祝福があるらしい」
マジか。こっちの世界の人間も大概チートだな。全員がそうとは言わないけど。
≪溜め斬り≫
種別:攻撃スキル/制限
制限:重戦士系斬撃武器限定
属性:物理/斬撃
射程:武器
形状:斬撃
力を溜めて、任意のタイミングで溜めた力を開放して、破壊力を増した斬撃を放つスキル
力を溜めている間は無防備になるが、最大まで溜めた状態で放たれた1撃は必殺技と言っていい威力。
ちなみに殴打武器版は≪溜め殴り≫という別のスキル。




