第81話
先制攻撃であるストンピングは、流石に今のを避けられないほどじゃないらしい。
重量級クリーチャーの攻撃で発生する地揺れも、≪浮遊≫で受けてないらしく、滑るように私の足元に入り込む。
そうはさせるかと拳を突き出して、ある事に今更気づいた。
大きくなり過ぎた。
屈まないとパンチが届かない!!
パンチは全然アキヒト君に届かず、そのまま素通りされた。
「隙アリィ!!」
足元に入り込まれ、脛を剣で突かれた!痛ァ!!!
マジで痛い!しかも何回も突いてくるし!
振り払うために足を上げて蹴り出すも、私の動きが遅すぎてその時には離脱されたし・・・
この身体、頑丈でパワーは有るけど重くて動き難い!!
しかも体格差は約17倍。つまりアキヒト君の大きさは今の私の1/17しか無いし、速度で勝ってるから足元をチョロチョロ動かれると狙いが定まらない!
仕方ないので膝立ちの状態になって、腕を振り降ろして攻撃するも、全然速度についていけない・・・
あ!こら!後ろに回り込もうとするな!イタタタ!!!??
背中を何回も突かれた!
「最初は面食らったっスけど、デカくて頑丈なだけで、速度は大したこと無いっすね!これなら削り勝てるっすよ!」
腕を薙ぎ払う、叩きつける、殴ってみるも全部ハズレ。
というか相手が小さすぎて時々見失う。
この戦術、ゲームの時はレイドボス戦で出現する超大型の敵によく使うのだが、私はあまり対人戦闘をやらなかったので知らなかった。
『コレ、人間一人狙うのには効率悪すぎ!!』
「最初に気づくヤツっすよ!?拠点破壊とか対巨大生物ならともかく、人間単体相手ならデカ過ぎてただの的っすよ!!
巨大レイドボスと思えば、攻略の方法は幾らでもあるっすよ!!」
がーーーん!!
「デカくなるにしても相手の5倍程度まで!それ以上はリーチ差のアドより隙だらけ!対人戦の常識っすよ!?」
『ゴメン、対人戦闘やったことはあんまり無いんだ・・・』
「挑んでおいてアレっすけど、なんで受けたんすか!?」
なんか可哀そうに思ったから・・・
しかし、パワーと頑丈さは強化と巨大化させただけあって、アキヒト君の連続突きを受けてもダメージは軽微。
薙ぎ払いなどで引き剥がせば、自動発動の回復能力で問題無いレベルまで回復できる。
ただ、痛い!こればっかりはどうにもならない!!
しかし、こっちの動きは遅すぎて完全に読まれてる・・・攻撃が当たらないと話にならない。
人間の状態との体の動かし方にギャップ差が有り過ぎて、上手く操作が追い付かない。
能動使用できたら範囲技で薙ぎ払えるけど、自分から封じたからなぁ・・・えーっと後できる事は・・・
あ!あれがあったな!!
「そい!」
アキヒト君の突きに合わせて、体内のMPを一点放出!
「ッとォ!?」
MPの放出を突きの運動ベクトルと相殺させる!!
コレはスキルでも魔法でも能力でもない、この世界固有の技術なので、縛りの外!
でもコレ、MPの消費が普通の防御魔法より燃費悪いんだよなぁ!!
攻撃威力を相殺して、動きが鈍ったチャンスに腕を振り上げると、
「!! ッショォ!」
振り降ろしに合わせてアキヒト君は左手の盾で私の振り降ろしを受け流した、と同時に私の体が動かなくなった・・・!?
『ジャストガード!?』
「正解っすよ!」
自動発動型スキル≪ジャストガード≫
盾による防御行動にジャストガード判定を加えるスキル。
ジャストガードに成功すると、ガード時のダメージを無効化して相手を一瞬だけ硬直させる・・・だっけ!?
「≪戦乙女の声援≫と≪台風の目≫は自分に関わる確率判定を有利にする支援魔法!
ジャストガード猶予が伸びて、発動確率もアップ!さらに!」
レイピアの突きと組み合わさるように左手の盾による殴打攻撃のコンビネーションラッシュ!
痛い!めっちゃボコボコに殴られてすっごい痛い!!
『いい加減。痛い!!』
えぇい!ここまでラッシュを食らうと、そろそろ残りHPが気になる値になってくる!!
痛みを押し殺して強引にパンチを繰り出すと、盾でガードしながら側面に飛ばれた!
ガード越しだから与えたダメージも全然大したことない!
「た、タフ過ぎっすよ・・・」
『これでもめっちゃ痛いんだからね!?』
ここで私に憑依してる樹霊王から思念が送られた。
・・・時間切れ?召喚持続時間・・・あ!!
今回、樹霊王を召喚し、追加コストの金貨で強化を図ったのだが、巨大化して踏みつぶせばすぐ終わると思って、強化を物理方面の攻撃力と耐久力に全部割り振ったんだ・・・
大型クリーチャーの召喚は、その能力の高さと引き換えに持続時間が短く設定されている。
金貨をケチったせいで樹霊王の≪憑依召喚≫が解除され、私は元に戻ってしまった・・・
「や、やばぁ・・・」
慌ててインベントリ空間を開く。しかしアキヒト君が突っ込んでくる!
えぇい!被弾は覚悟だ!通常攻撃1発くらいならHP値はまだ耐えられる!
レイピアの突きを左腕を差し込んでガードし、右手でインベントリ空間から武器を引っ張り出す勢いで薙ぎ払う!
「そぉい!!」「ットォ!?」
アキヒト君は屈むと同時に盾で上手く攻撃を受け流したようで、レイピアは私の腕から引き抜かれ、距離を取られた。
いったぁ・・・。左腕を刺されたが、まだ動く・・・
私の体は魔法系でも意外と頑丈なのだよ・・・『農夫』クラスは生命力ステータスに恩恵を与えてくれるから、最大HPは純粋な魔法使い系より高いからな!!
私がインベントリ空間から引っ張り出したのは、杖・・・ではなく、
「大鎌・・・っすか。魔法系は装備できない武器種のはずっすけどね・・・」
大鎌は両手斬撃武器に属する近接武器。
本来なら戦士系クラスでしか装備できないが、私は例外だ。
「農夫クラスは農作業に使用する『鎌』や『鍬』、『鋏』等のカテゴリは装備できるんですよ。
そして、私が習得してる農夫の覚醒スキルは常時発動型で、農夫系統のレベルで農具が元になった戦士武器全般を扱えるんですよ!」
これにより、私はやろうと思えば両手斧やハルペーのような武器も装備して戦えるが・・・やっぱり元は魔法系なので、魔法使った方が便利で強い。
生産系クラスの覚醒スキルは常時発動型の物が多く、生産でいちいちコスト払ったり、覚醒を発動させなくて済むから、手軽なんだよね!
左腕はまだ痛むが、比較的軽傷なようで、自動発動の回復能力がもう止血してくれてるので、大鎌をスキルの恩恵に任せて攻撃してみるが・・・ぜんっぜん当たらん!!
そりゃそうか!私は農夫系統のレベルで大鎌を扱えるけど、アキヒト君は剣士系と魔法剣士系クラスのトータルで接近戦闘できるから、生身の近接戦じゃ勝ち目ねぇーッ!!
「そこっす!」
がむしゃらに振り回したが、動きを見切られて、最後は大鎌の振り降ろしをレイピアで受け流され、アキヒト君の盾で顔面を強打された私のHPがイエローゾーンに入り、
「はい。勝負アリ。勝者アキヒト!」
負けた。
≪農民一揆≫
種別:覚醒スキル/農夫専用
制限:農夫の覚醒プレイヤー
射程:自身
形状:常時発動
農夫系統クラスを戦士系クラスとして扱う常時発動型の覚醒スキル。
戦士系武器全般は扱えないが、農具が元となった装備や農作業可能なアイテムを戦士武器として扱い、接近戦闘を農夫のレベルで行うことができる。
ただし、正真正銘の戦士系クラスとして扱うわけではないため、装備できる武器や発動できるスキルには制限が設けられる。




