第79話
「エリシアさん……俺と決闘してほしいっす……!」
祭りの途中だというのに、♰穢れ無き罪悪♰ことアキヒト君が決闘を仕掛けてきた。
「どうしたの? 村で何か不満でもあった?」
「あ、いやそう言うんじゃなくて・・・」
アキヒト君がちらりと視線を向けた先を見ると・・・近所ではヤンチャで有名な子供グループが居た。
・・・もしかして、
「私に負けたとかなんとか煽られたヤツです?」
「・・・ウス」
それでプライドが刺激されたか。
アキヒト君との出会いはまぁ・・・ちょっと『アレ』だったが、あんなの無効試合でしょ。
勝負ついてないし、不意打ちだったし。
「・・・それなら先にマーシャさん相手にしてくれます?」
「マーシャさん相手には・・・もう負けた!」
負けてんのかい!!しかも堂々と言うな!!
「あれは今日の昼前の事だった・・・」
なんか回想始まったし・・・
【アキヒト視点】
そう。アレは昼前の事だった。
俺が毎日のように井戸で水汲みをしてた時だ。
「よいしょ・・・っあー。エリシアさん早く上水道完成させて欲しいぜ。
日本の水道って、凄かったんだな。毎日井戸から水汲みしなくても水が飲めるんだからよォ」
「おーい!ヘボ剣のにーちゃん!」
そう、俺は悪ガキ共に不本意なレッテルを張られていた。
この世界の人間基準では、モンスター討伐には肉厚で大きな剣がよく使用されており、細い刀身の剣は弱いイメージが持たれていたらしい。
俺はレイピアを主武器にしてるから、そんな小さい武器を使ってて、しかもエリシアさんとマーシャさんとやり合った事は村中で知れ渡ってたこともアリ、俺がエリシアさんとマーシャさんにボコられて舎弟にされたとか勘違いされてるのだ。
細い剣の使い手で細身の外見の俺は、悪ガキ共にとって『ひょろがりのみすぼらしい剣士』というイメージが定着し、いつの間にか『ヘボ剣』とか呼ばれてた。
「おいクソガキ共、俺はともかく、俺の剣を『ヘボ剣』呼ばわりすんじゃねぇ!」
「だーって」「細くてすぐ折れそう」「二人に負けたんでしょー?」
「負けてねーよ!まだ!」
あの時はいろいろあったが、村では二人が俺の事を弁護してくれて、家も仕事も貰って、しかも割と過ごしやすい。
竜巻の件はアレからちょくちょくマイコニド達を通じて返してた。
・・・完済する見込みはまだ遠いが。
エルドラド・クロニクルで持ってた金貨はこっちじゃスキルとかのコストで使いにくいが、時々は猟師に混じって弱い魔獣討伐とか護衛とかを引き受けて、小遣いも増えたし、たまに2人が日本の製品を再現する時に一緒に混ざったおかげで、周りから受け入れてくれてる。
だが・・・!俺はこれでも元はギルドでもエースアタッカーとして張ってたメンツってのがある!
いつまでも弱いだの言わせておくのは、我慢ならなかった。
「分かった。見てろガキ共!今からマーシャさんに挑んでくるから俺の実力を見て腰抜かすなよ!?」
「どーせすぐ負けるでしょー?」
見てろよクソガキ!!
丁度キャラバンが来てお祭り騒ぎだ。
自警団を指揮してたマーシャさんはすぐ見つけた。いつもは半隠密状態で訓練させてたり、サボってるヤツをシバいたりしてたが、今日の俺は一味違うぜ!
「マーシャさん!1手俺と勝負してください!」
「ちょっと今忙しいんだけどね・・・。1手だけで良い?」
「もちろん!・・・で・・・す」
もちろんと言った時点で俺の首元にダガーナイフが突きつけられた。
「はい1手。これで良い?」
「ウス・・・アザッした・・・」
ま、負けた・・・完敗だった。油断とかもあったが、アレはそういう次元じゃーねぇ。
こっちの世界で狩りによって命のやり取りしてるから分かる、本気の殺気ってヤツを浴びて、ゲームで伸ばした実力じゃー足りねぇ『ヤバさ』を痛感した。
そういや、エリシアさんから聞いたが、あの人は仲間と合流する前に王都で犯罪組織との夜襲奇襲を片付けて、逃げる時には傭兵をダース単位じゃ足りない人数を仕留めてたマジモンの殺し屋だわ。
実力以前に・・・精神力で負けた。
流石の悪ガキ共も、あの人が一瞬出したマジの殺気にビビったらしく、
「兄ちゃん、アレはヤバいわ」「負けて仕方ないよ」「相手が悪い」
慰められた。
だが、まだ俺はもう1人、証明する相手が居る!
弱い者虐めするつもりじゃ無いが、生産型の魔法使いエリシアさん。
せめて片方より強いくらいは証明しておかないと、俺の立場がねぇ!!
「お前ら、次はエリシアさんだ。行くぞ」
「マジ?」「もう兄ちゃんが勝てないって事で良いと思う」「お祭り行きたい」
お前ら自由だなオイ!
【エリシア視点】
「・・・ってワケっす」
す ご く ど う で も い い
元エースアタッカーなのはわかる。
クラス構成見れば速度と手数を重視した高速戦闘型魔法剣士。
ぶっちゃけ戦うまでも無く、クラス性能から私が負けてる。
こっちは上級クラス積んでるとはいえ生産型ビルドだよ!?純粋戦闘型ビルドに真正面から決闘挑まれて勝てるか!!
マーシャさんは上手くあしらったな・・・私はどうするか。
うーん・・・ただ決闘してもなぁ・・・よし。
「条件付きで受けましょう」
「・・・条件ってなんすか?」
「決闘中は自動発動型以外のスキルと魔法、能力の禁止、リングアウトあり、降参あり、消耗品アイテム使用禁止、HPが半分近くになったら負け、武器自由、開始時間は・・・」
そうだな、確か夜は予定開いてたな・・・よし
「日没30分前に私が指定した場所で執り行います。審判はマーシャさんにやってもらいます。あと、万が一相手を死亡させたら蘇生アイテムは死なせた人が自腹切ってもらいます」
「・・・ウス!あざっす!」
完全蘇生薬はまだ余裕あるし、死ななきゃ安い。
自動発動型オンリーなら、いい勝負ができるはず。
このルールなら私が負けても誰も文句言わないし、彼の株は落ちないでしょ。
・・・まぁちょっとズルはさせてもらうが。
≪幻惑破壊≫
種別:防御魔法
制限:僧侶・神官系or魔女系or幻術使い系Lv5
属性:防御
射程距離:0~10m
形状:発声
変身魔法や幻術を打ち消す魔法。
≪魔法解除≫と似た効果を発揮するが、こちらは幻術や変身魔法の解除に特化している分、成功率が高い。
変身の解除に成功すれば、変身によって得られた能力値向上や能力は解除される




