第78話
倉庫から余り気味な魔法薬の在庫を運び出し、売却した後。
私もキャンプの出店を見て回る。
せっかくだし蕎麦の種も買っておこう。
スキルに与えられた知識によると、蕎麦はこの辺でも育つし、乾燥に強いから救荒植物とある。
とりあえず、開墾したばかりの畑で試してみて、収穫できたらざるそばとかも作ろうかな。
醤油も手に入ったし、麺つゆを再チャレンジしたい。
他は・・・ここは魔法付与がされた装具の店か。
店主が魔法付与した本人らしく、白く長いあごひげを持つ老練な魔法使いっぽい男性。
ざっと見た感じ・・・うん。
エルドラド・クロニクル基準だと練習品扱いってレベルかな。
だが、こっちの世界だと高級品。
うぇ、この服こんな効果でこの値段するんだ・・・。
「お前さんも見たところ魔法使い・・・それもかなりできるな。
それに・・・その服。全身魔法の品か」
値札を見て引いてたら、店主に話しかけられた。
「分かります?」
「ワシはこの技で数十年以上やってきとる。
キャラバンに参加したのも、頭目の持つ魔法付与された品を研究するためでな。
なぁお嬢さん。後学のためにその付与を見せてくれんか?そしたら1つ付与した小物をサービスしてやろう」
うーむ。盗まれても困らない程度の品を見せておくか。
とりあえず、インベントリ空間にしまい込んだ付与が施された指輪を見せる。
指輪のようなアクセサリー系は容量を圧迫しないから、付与装備の付け替えに便利なんだよね。
「服とか杖は困るんで、これで我慢してください」
「いや、それでも構わんよ。≪魔法看破≫・・・なんと・・・!」
≪魔法看破≫で施された付与を見た店主はしばらく黙って観察に夢中になってしまった。
待ってる間、店に並んでる商品を眺めておくか。
・・・お。この付与はエルドラド・クロニクルでは見たこと無い効果だ。
【消化促進のピアス】
種別:装飾品/魔法付与品
ランク:☆
消化促進の魔法が付与されたピアス
【消化促進】
食べ物の消化吸収の効率が上がる。
これにより少量の食事でも無駄なく栄養を補給でき、普段より多くの食事も摂れる。
・・・食いしん坊にはピッタリだが、やっぱ要らないな。
他も【斬撃向上(小)】とか【作業補助(微)】・・・微妙な品ばっかりだな。
「驚いた・・・こんな小さな指輪に3つの付与が施されとるとは」
あーうん。エルドラド・クロニクルでは2つ3つ効果が付与されてるのが出回ってるのが当たり前だからなぁ。
店に置いてある品の効果は1つしかないのばかりか。
「勉強にさせてもらったよ」
指輪を返してもらい、インベントリ空間に収納。
「さて、返礼だが・・・なにが良いだろうか」
・・・そういえば、ダンジョンで手に入れた宝石類がまだ手元にあったな。
魔法付与できる人間が街に居なかったから、ずっと仕舞いっぱなしだったし。
確かこの辺に・・・あった。宝石付きの指輪。付与もされてない。
魔女見習い用の付与なら・・・この効果が良いな。
「コレでこの符に書いてある付与を転写してもらえます?」
大粒のエメラルドが乗った効果無しの指輪と一緒に出した符は、エルドラド・クロニクルでは魔法付与効果を保存し、他の物体に転写させるために使われるアイテム。
・・・ただし使い捨てだが。
魔法付与に使用される素材には制限時間が設定されてる物もあり、この符はその対策として使用される。
一度付与素材として使用して効果を保存すれば、元になった素材の制限時間は関係無いからね。
「見せてもらおう。これは・・・適切な術を行使できれば確かに可能だ。
だが、コレは相当貴重な品だぞ・・・!」
いや、符単体じゃ何の効果も得られないから、アイテムに転写してもらわないとただの素材にしかならないんだよね。
それにこの指輪に乗ってるエメラルドなら、この付与効果に耐えられると確信している。
・・・この店主が致命的なヘマをしなければだが。
「分かった。確認するが付与効果は【上位物理攻撃耐性】【精神悪影響無効】【上位魔法属性吸収】・・・だ」
「えぇ。それでお願いします」
【上位物理攻撃耐性】は文字通り物理攻撃に耐性を与える効果で等級は上から2番目。
受ける物理属性ダメージに一定数のダメージ軽減効果を常に与える。
【精神悪影響無効】は精神攻撃や魅了、恐怖、憎悪などの精神属性の悪影響を無効化してくれる。
しかも≪声援≫や≪勇敢≫のような精神属性の支援効果は無効化されないので、かなり使い勝手は良い。
【上位魔法属性吸収】は魔法効果を使用するたびに、属性を蓄積してその属性効果を向上させる。等級は上から2番目。
蓄積された属性と同じ属性の魔法を使うほど、魔法効果が高まると思ってほしい。
等級が高いほど、属性の蓄積効率と上限が上がるので、できれば最上位が良かったが、最上位を含めた付与だと指輪の方がアイテムの格が足りずに耐えられないかもしれない。
・・・弟子に対して甘いと思うが、エルドラド・クロニクルだとコレくらいの効果を持っとかないとすぐにやられる魔境だったからなぁ。
それに、魔女系は戦闘を前提とした魔法体系なので、レベルを上げるならやはり実戦を経験させる必要がある。
どんな成長をするかはあの子次第だが、私の劣化コピーにさせるつもりも無いし、戦闘するならこの程度の魔法の品は1つ、欲を言えば全身を固めてほしい。
店主が≪付与転写≫の魔法を行使し、無事に転写できた。
・・・うん、付与効果の劣化も無し。こっちでも転写はできるみたいだ。
「あぁもったいない・・・」
転写元の符は役目を終えて灰となったが、店主はそれを名残惜しそうにかき集めてる。
満足できる品は手に入ったし、私は指輪を受け取り、ついでに【斬撃向上(小)】が付与された小刀も買っていく。
切れ味のいい包丁が欲しかったんだよねぇ。
≪刺突撃≫
種別:刺突系武器専用スキル
制限:初期習得
属性:物理/刺突
射程:武器
形状:武器
刺突系攻撃が可能な武器種専用の基礎スキル。
戦士or剣士系のクラスを習得した状態で刺突攻撃が可能な武器を装備すれば自動的に習得可能。
目の前の相手に向かって素早く武器を突き出す。ただそれだけのスキル。




