第76話
ベッティちゃんへの本格的な魔法指導が入って数週間。
真夏が過ぎたというのに、まだ残暑厳しい日々が続きながら毎日の日課である広域探知を行う。
探知範囲ギリギリにLv100の反応が出た。敵・・・と断定するつもりは無いが、こちらへ向かって移動してるのは警戒しないといけない。
随分とゆっくり移動してるな・・・随伴なのかその近くで何体かLv80前後の生き物の反応も複数体検知。
「≪通信≫。マーシャさんおそらくプレイヤーの反応を検知しました。
様子を見てきてください」
『了解。ちょっと行ってくる』
2階の窓からマーシャさんが飛び出して偵察に行ってくれた。
朝から頼もしい・・・っとそんな場合じゃない。
万が一に備えて私も装備を整えると・・・≪通信≫が入ってきた。
マーシャさんがスクロールを使った・・・?いや、この感じは違うな。
≪通信≫を繋げると、
『エリシアー!久しぶりー!覚えてるー?』
「その声は・・・ジャン・バラさん!?」
ジャン・バラさん。私と同じくギルド「マグナアゾット」に所属してた武闘派商人プレイヤー。
クラス構成は「商人」のクラスと一緒に確か「獣使い」とか「魔獣使い」を常に習得してて、超が付く動物マニアだった人だ。
リアルでは忙しすぎて動物が飼えないって言って、世話が掛からないゲーム内で色んな魔獣系モンスターをテイムしてたな・・・。
あと、テイムのために≪束縛≫とかで生け捕りにできる私がよくフィールドに連れ出された・・・まぁこっちも素材集めに魔獣系の力借りてるけど。
たしかリアルもアバターも性別は男性だったな。
『マーシャから聞いたけど、ホントに女の声になってるじゃーん』
「まぁ・・・アバターの性別になってるんで」
『そっかそっか。とりあえず、色々商品持って来てるから交易所にスペース開けててくれるかーい?』
あ、こっちでも商人やってたんだ。
「分かりました。また後で」
『じゃねー』
≪通信≫をアカネに切り替え、警戒を通常に戻すように指示出し。
あと交易所にいる人達にも連絡を飛ばして、広めのスペースを用意してもらう。
少ししてから、櫓の上で待っていたら、村の外で大型の魔獣系モンスターを確認した。
まず見えたのはジャン・バラさんが使役してるマンモスだ。
雪原エリアに生息している大型陸上生物で、元の世界でも良く知られてるヤツ。
他にも巨大な亀とか狼、恐竜っぽいのや巨大な猛禽類のような鳥まで飛んでる。
ちょっとした動物園だよアレ。
あ、マンモスの頭の上にジャン・バラさんを発見した。
焦げ茶色にまで焼けた肌に頭には紫のターバンを巻いてるアラビアンテイストの爽やかイケメン。服装もアラビアンな装いで統一されてる。
白いシャツに黄色いベスト、白いズボンが良く映える。
こっちに手を振ってるのでこっちも挨拶しておく。
「いやー久しぶりだねぇ!やっと会えたよ!」
村の外であいさつに出てくると、感激したのかハグされた・・・ちょっとフレンドリー過ぎないか?まぁ良いけど。
「トールの言う通り来てみたらマーシャが急に出てきてさ!
エリシアも無事みたいで良かったー!元気してたかい?」
「ジャン・バラさんも元気みたいで良かったです」
「冒険者組合からの情報を貰ってね、頑張って西の方からやっとたどり着いたよ!」
「西側ですか・・・この国の?」
「ううん。西側の大陸。海を越えて来たよ」
どえらい大冒険をしてきたようだ。
「あ、お土産もあるよ。はいコレ」
渡されたのは・・・なんだコレ?壺に入った何か。液体っぽいが。
「こっちの世界で作られてる醤油だよ」
「・・・え!?醤油!?マジっすか!」
「マジもマジ!醤油と味噌、米も積んできたよ!あ、マーシャにはお酒ね。日本酒っぽいの持って来たよ!」
うぉぉおおお!ジャン・バラさん超ナイス!アンタが神か!
心なしか後光まで見えたぞ!
落としては大変なのでお土産をインベントリ空間に入れて、ジャン・バラさんを村に案内する。
「実はパラパラも途中まで一緒だったんだよね」
「パラパラ・・・パラパラ炒飯さんもいるんですか!?どこに!?」
「いやーそれが、途中で逸れちゃってさ・・・。
誰かを追ってるみたいで、滅茶苦茶真剣そうだったから、途中まで手を貸しながら、パ・ブシカまで向かってたんだけど・・・いつの間にか居なくなっててさ。
僕の方の行き先は伝えてたから、途中で合流すると思ってたんだけど見てない?」
「少なくとも村には来てませんね」
「そうね。ただ・・・可能性として隣の国の国境近くでデカイ戦闘跡があったから、もしかしたら」
どうだろ。パラパラ炒飯さんって確か格闘家系主軸だからそんなデカイ痕跡を残すかな・・・?どうだろ。
「僕は今、貿易会社を立ち上げてね。
西大陸の貴族の援助で西大陸を中心に貿易を始めたんだ。
まだ小さい規模だけど、南大陸で面白い物も見つけたし、この国より北側の港も開拓して取引してるんだ」
貿易会社か。もしかして中世くらいに思ってたけど実はけっこう文明が進んでる?
「私はここでのんびりスローライフ・・・やってるんですかね?
全然スローな生活してませんけど」
「確かに・・・エリシアって毎日忙しそうにしてたわね。
農作業に書類仕事、薬屋の経営に弟子の育成で超忙しそうよね。
あ、私はこの村の自警団の団長ね」
農作業は指示だけ出してマイコニド達に丸投げしてるんだよなぁ・・・
アカネ達が居なかったら、多分忙殺してて死んでた。
「そっかそっか。こっちでも二人とも上手くやってるんだ。
・・・ところでさ、二人とも『聖域』って言葉に聞き覚えある?」
・・・聖域?・・・似たような名前の魔法なら知ってるが・・・
「私は聞き覚え無いですね」
「こっちも無いわ」
「そっか。パラパラはその聖域って組織を追ってるらしいんだ。
エルドラド・クロニクルプレイヤーが集まってる組織で、何かを企んでるって所までは教えてもらったんだけど、それ以外は教えてもらえなくってさ。
トールとも情報共有はしたけど、二人も聖域のプレイヤーには気を付けた方が良いよ」
聖域か・・・まさかあの悪魔武器か?・・・とりあえず頭の隅に置いておくか。
「さて。そろそろ交易を始めようか!また後で話そう!」
ジャン・バラさんがそう言って手を叩くと、使役されてる魔獣達があっという間に露店のような物を組み立てた。
「僕の「ジャン・グリラ貿易社」へようこそ!」
≪調教≫
種別:調教師系専用
制限:Lv1
属性:無し
射程:接触距離
餌などのアイテムを使ってモンスターを調教、使役するスキル。
成功率は対象の強さに対して使用者の調教師系クラスレベルの総和に比例。
自身より弱い対象ほど成功率が高く、強い対象にはダメージを与える等で弱らせる必要がある。




