第75話
≪目印≫の魔法は付与系統の呪文で初歩の初歩。
出力できる量に縛りは有るが、短い文や簡単なイラスト、記号を書き込むことができる。
ゲームではダンジョン攻略でマッピングの為の目印にしたり、敵拠点への落書きに使ったり、あ。面白い使い方だと複数人で協力して巨大イラストを作ってたな。
イラスト作り専門のギルドとかあって、≪目印≫とか塗装系アイテムで拠点デザインやストリートアート風な事やってた。
まぁ≪目印≫は効果時間が長いとはいえ一定時間経過すると消えるから、落書きでも可愛い程度だったな。
魔法で書くからインク跡も残らないので、紙に短い伝言を書いて、読んだ後は燃やして廃棄することで誰にも読めない手紙とかの使い方もあった。
さて、どうやって教えるかだが・・・
ゲームシステム的に教えるコマンドなんて無いからなぁ。
とりあえず、私が実践して手本を見せよう。
「≪目印≫」
指先にMPが僅かに集中し、指で文字が書けるようになった。
後は適当な・・・ふと資材置き場にあった小さい板が目についた。
この板で良いか。
板にMPを集中させた指をなぞると、文字が書ける。
「まぁ初歩の魔法で最初はこれで良いと思うかな。やってみて」
「はい。≪目印≫!」
気合入れて指に力を込めてる所悪いけど、不安定だなぁ・・・
書ける?お、書け・・・て無いな指を押し付けてるだけだ。
うーむ。このレベルだったら発動体無しでも発動できる魔法だけど、補助輪くらいは必要かな?
しばらく練習させることにして、その間に私はベッティちゃん用の発動体を用意することにした。
魔法使いの装備『発動体』は杖や指輪のような装身具の形状をしてるのが一般的。
魔法戦士系は近接武器を改造して『発動体』の機能を与えている場合もある。
発動体は魔法を発動させるときに種類によってボーナスを与える装備だ。
詠唱速度を速めたり、単純に魔法の威力を増幅させたり、発動成功率を上げる、その他いろいろ、効果は品によって多岐にわたる。
高レベルの魔法は発動体無しでは使用できない制限を持つ魔法が多く、発動体を失った魔法使いは・・・まぁ悲惨の一言だ。
故に『発動体を作る魔法』も存在する。
と言っても、性能はゴミで「とりあえず習得してる発動体必須の魔法が使えるようになれる」だけの装備管理を適切にしていたら必要のない魔法。
まぁそれでも使うタイミングがあったし、結果オーライっと。
資材置き場を漁り、適当な材料からベッティちゃんの体格に合わせた発動体を作成しよう。
どうせ練習用だし、性能より材料の集めやすさとかを重視して・・・形状はどうするか。
・・・魔法使いらしく短杖で良いか。片手で使いやすいし。
装飾品とかセンスに期待されても困るし、シンプルなデザインで誤魔化しが効く短杖ならちょっと木の枝とかですぐ作れる。
「≪木材加工≫。≪機能付与≫」
≪機能付与≫は片手で持てる小さな道具やアイテムに1つだけ『機能』を付与する共通魔法。
と言っても大した機能は与えられない。
せいぜいが『握りやすくなる』とか『投げる時に少し狙いやすい』とか『特定の物だけ切りやすくなる』とかそんな程度だ。
≪木材加工≫で成形した杖に発動体の機能を付与して、即席の杖が完成。
軽く分析してみれば・・・
【素人の短杖】
種別:杖/発動体
ランク:-
発動体の機能を付与しただけの短杖
・・・うん知ってた。
性能はゴミだが、練習に使うにはちょうど良いだろう。
なにより、壊れても材料は簡単に手に入るので、手荒に使ってもすぐに替えが用意できる。
発動体である杖ができたのでベッティちゃんの所に戻ったら、≪目印≫を使えるようになってた。
何度も何度もやり直して魔法を行使して、10分足らずで習得したのか・・・
とりあえず、発動体の杖を渡して使い勝手を試してもらう。
シンプルなデザインだが、上等な機能付きはレベルが上がったらって事で。
・・・え?これで良い?一応言わせてもらうけど本職の人から見たらゴミだよ?
まぁ大事に使うならそれでも良いけど、コレ練習用だからね?
さて、≪目印≫が使えるなら、次の魔法を教えておくか。
魔女のレベルは・・・まだ1のままか。レベルアップ条件は何だろ?
エルドラド・クロニクルと同じ感覚でレベルを上げさせるべきか?
そうなると手っ取り早いのが戦闘経験になるが・・・こんな小さい子に護衛付きとはいえモンスターの前に出すのはダメでしょ。
とりあえず、今日のところは≪刃引き≫まで教えて、後は現地語の練習をさせながら初心者用の魔導書を読み込ませておこう。
≪刃引き≫は指定した刃物の切れ味を落として刀剣類の攻撃力を下げる初歩的な弱体化魔法。
ハンマーみたいな殴打系武器には効かないが、槍や剣といった刃が付いた斬撃/刺突系武器には効果的で、武装弱体化系の魔法はゲーム序盤ではそこそこ役立ってた。
ただ・・・ゲーム後半になると『弱体化無効』とか『素手でやたらと強い』とか言うヤツが出てくるけど、こっちの世界でそんなバケモノが出てくることは稀だろうし、刃物を封じれば自衛の助けにはなるはず。
で、肝心な教え方は・・・この村、そもそも刃物や金属武器が足りないんだった。
仕方ないので、自警団が訓練で倒したモンスターの牙を相手に練習してもらう。
え?刃物っぽくない?鋭くて切れるなら牙も刃物だって。
≪目印≫と同じように見本を見せてから、何度か練習してもらう。
勉強や手伝いもあるし練習時間は限られてるから、数日くらいかかるかなー?
とか考えてた。
3日で習得してた。ちょっと成長速くない?
≪恐怖の一言≫
種別:魔女/幻術使い専用
制限:Lv3
属性:精神
射程:0~20m
形状:言葉/音波
声に魔力を込めて叫んだり脅迫することで、相手を恐怖させる魔法。
聴覚を有する生物であるなら、本能的な恐怖が呼び起され、正常な判断ができなくなる。
ただし欠点として正常な判断力を失わせるだけなので、相手が何をするか予想できない。




