第73話
お待たせしました。例のあの人が登場です
【???視点】
イースリー領に偵察に出した『監視役5号』の≪強制自爆≫の発動を確認し、ベッドから起き上がる。
北東方面の例の場所を調査させるために派遣したけど、やっぱりプレイヤーが介入していた。
≪視角共有≫で途中まで見た光景では、数十のマイコニドといかにも魔女っぽい恰好の人間しか見えなかったけど、おそらく金髪の女プレイヤーも近くに隠れていたんだろう。
ワザと弱体化させた状態で偵察に出し、情報を得られたら御の字。
発見され捕獲されても≪強制自爆≫に引っかけられる、良いプランだったと思ったんだけど・・・上手くいかなかったな。
自爆する直前で、必殺の距離から引き離されたのが痛いな。
恐らくあの自爆は誰も巻き添えにできず失敗に終わるだろう。
ま、良いか。≪強制自爆≫の効果で自爆させたキャラクターは蘇生効果を受けることができない。
相手が蘇生アイテムや何らかの方法による蘇生を試みても、監視役5号が蘇ることは無い。
悪魔使役者であるという情報以上の事は、向こうにも伝わることは無い。
『主よ。出立の準備が整った』
「あぁ、お疲れ」
≪通信≫でお気に入りのクリーチャーから出発準備完了の知らせを受け、宿からチェックアウトする。
いい加減、藁じゃなくて快適なマットレスのベットが恋しいな。
良い宿かもしれないだろうけど、僕の基準では不潔で不衛生だ。
「残念です。行ってしまうのが」
「ははは。そろそろダンジョンに挑もうと思いまして。それじゃ」
宿屋の女の子(名前は忘れた)に自分への好意を感じるけど、全く好みじゃない。
さっさと残りの金を支払って、待たせてるクリーチャー達と合流する。
「主よ。積み荷はこれで全部だ」
「よし、さっさとこの国から出ようか」
合流場所には僕のお気に入りの悪魔系クリーチャー『レアーテ』が人間の冒険者に擬態した姿で馬車の留守番をしてくれていた。
留守番を任せた課金アイテムで購入した馬車には既に荷物が積まれ、出発準備は完了している。
僕はレアーテと共に馬車へ乗り込み、レアーテ配下の下っ端悪魔(人間に擬態済み)に御者を任せて出発。
「しかし良いのか?あの地の迷宮核を暴走させてまで魔力を集積し、あの森はこの世界でも屈指の魔力溜まりとなった。
それを諦めるなど・・・」
「あの森が魔力溜まりになったのは偶然だよ。
本来ならダンジョンを十分に成長させてから、迷宮核を刈り取る予定だったけど、あのプレイヤー達が攻略しかけてたからね。
面倒なことになる前に、迷宮核ごと排除したつもりだったけど、意外としぶといし、もう面倒になってね。
あの場所1つに拘り続けるより、他の候補を見つけて魔力を回収したほうが効率も良い。
悪魔武器のテストも一通り終わって、問題点や改善点も見つけたし、もうこの国でやりたいことは無いね」
正直言えば、あの迷宮核を破壊したのは惜しいと思ったけど、他の誰かに横取りされずに済んだし、悪魔武器の取引で資金は十分集まった。
「それに『聖域』から招集がかかったし、撤退には良いタイミングだよ」
「むぅ。例の『ぷれいやー』共か」
『聖域』。僕らエルドラド・クロニクルプレイヤー達がある1つの目的のために結成した、ゲーム内のギルドや派閥を超えた組織。
そのための迷宮核。そのための資金。
「最近はプレイヤーの転移も増加しつつあるし、多分その件だろう!」
嫌なタイミングで嫌なヤツに見つかったよ。
気づいた瞬間に馬車が激しく横転。おそらく馬車ごと吹っ飛ばされたんだろう。
インベントリ空間に馬車ごと荷物を収納し、レアーテも≪召喚解除≫で一時的に避難させた。
ここは・・・まだイデア王国東部、ヤハルタ首長国の国境手前か。
周囲は隠れられそうな森は無く、温暖な湿地帯。
課金アイテムの馬車の移動速度は、こっちの世界の馬車とは比較にならない。
それに追い付けるのは、プレイヤーだけだろう。
そして、僕をしつこく追跡するようなヤツは1人しか思いつかない。
「やれやれ。もう見つかったか・・・久しぶりだね最多数連撃記録」
「・・・」
目の前に立っているのは、黒髪長髪に赤のワンポイントが入った白のチャイナドレス。
顔立ちが整っている以外は日系人としか言いようのない容姿で、特徴が有るのか無いのか分からないこの女。
かつて全エルドラド・クロニクルプレイヤーに叩きつけられたエルドラド・クロニクル公式運営からの9種の偉業。
『最大威力記録』
『最大防御記録』
『最多数連撃記録』
『最長射程記録』
『最大効果範囲記録』
『最多数連続行使記録』
『最高性能生産記録』
『最高資産保有記録』
『最高対人成績記録』
の1つ、『最多数連撃記録』を運営から勝ち取った化け物プレイヤー。
『パラパラ@炒飯』。
どう考えても中華方面にふざけたネーミングだが、運営からの挑戦状を突破し、転移前までその偉業を称える称号を不特定多数から防衛し続けた正真正銘のガチ勢。
「要件は、言わなくても分かるでしょ」
「悪魔武器ならもう手元に無いよ。全部売っぱらったからね」
「聖域。 お前たちの本拠地を吐け」
やっぱりか。仕方ない・・・
「断る。いつもみたいに逃げ切らせてもらおうか」
「今日こそ吐いてもらう」
互いの覚醒スキルが同時に発動準備に入る。
この展開は何度目だっけな?勝てないけど負けることは無い。
「覚醒:悪魔の王」
「覚醒:神化境・拳帝」
互いの最高位クラスの覚醒技が激突。
インベントリ空間に荷物全部入れてて正解だったな、こんな事やってたらすぐに物が駄目になる。
そして、今日も勝ち負けも無く逃げ切る事に成功した。
≪最多数連撃記録≫
エルドラド・クロニクル公式運営が突如発表したゲーム内最高記録の1種。
同一のキャラクターがスキル、通常攻撃、魔法の使用無制限で指定されたターゲット相手にコンボヒット判定回数を最多数記録を更新することで獲得できる偉業。
ただし指定ターゲットは鬼畜な各種攻撃耐性を保持しており、回避も攻撃もするし、確率で防御、迎撃のパッシブスキルが発動するため、最多数コンボヒットを繋げられるのは通常では不可能。
当然、記録更新できず迎撃されたりしてコンボが途切れれば挑戦は失敗となる。
パラパラ@炒飯は運営が出した記録を上書きし、数年間防衛し続けていた




