第71話
通常の2倍のMPを支払って≪天魔失墜≫が発動。
空が急に陰り、私が指定したエリアに光の雨が降り注ぐ。
その光に地面や悪魔、その辺の草木に当たった瞬間・・・爆発。
≪天魔失墜≫は一言で言えば『指定した範囲内を一定時間無差別爆撃する』魔法。
見た目はすごく綺麗だからお気に入りなんだが、その破壊力は私が習得してる魔法の中で屈指の威力。
『≪暴虐の盾≫ッ!!』
伯爵級悪魔が何かスキルのような物を発動させた瞬間、周囲に居た配下の兵士級悪魔が身を挺して伯爵級悪魔の盾となった。
自分の配下を盾にするスキルか!
盾にされた兵士級悪魔達はひとたまりも無くやられ、大多数の雑魚はこの魔法で蹴散らせた・・・が、伯爵級悪魔に向かうはずの攻撃は盾となった兵士級悪魔が身代わりとなった。
残りは、生き残った騎士級悪魔が数体と本丸の伯爵級悪魔か。
「アカネ、騎士級は任せる。伯爵級は私がやるから」
「畏まりました。ご武運を」
マーシャさんの奇襲を成功させるためには、私が相手の注意を引かないといけない。
マイコニド軍団が騎士級悪魔を相手にしている横を通り過ぎ、通常魔法の射程まで伯爵級悪魔に近づく。
伯爵級悪魔の見た目は浅黒い肌に落ち着いた色合いのビジネススーツのような衣服、腰には鞘に納められた剣をぶら下げて、額に2本の角。
一見すると角が有る以外は人間のような風体だが、魔力感知してみれば人外の存在であるのは丸わかり。
『魔女。なるほど今の魔法は貴様か』
悪魔の言語らしい言葉で話しかけられたが、何故か通じる。
うーむ、今まで疑問に思わなかったが言語翻訳の能力でも付与されているのか?
でも固有名詞とかは意味が通じない時もあるし、ゆっくり検証を進めればいいか。
「そうだけど。そっちも探知した瞬間にいきなり爆撃してきたし、文句は無いでしょ。
伯爵級悪魔、召喚者は何処の誰?」
『なるほど。あのお方は観察に留めておけとご命令されたが、接敵したとあっては、話が変わるな』
伯爵級悪魔はそう言うと、身体からオーラのような物を出し、腰の鞘から剣を引き抜く。
あの剣、これで見るのは3度目の悪魔武器か。
『あのお方の障害となる物は排除しなくてはならんな』
あーはいはい。血の気が多いな・・・言葉で言いくるめるのは無理か。
ぶん殴って聞き出すしかないか。
マーシャさんがどのタイミングで仕掛けるかは任せてある。
私は、奇襲を悟られないように、全力で囮を遂行するだけだ。
「≪茨の繁茂≫≪茨の従僕≫」
今の私に接近戦されても困るので、盾役である茨の従僕を出現させ、前衛を張ってもらう。
『やはり情報通り植物使いか!焼き払ってくれるわ!≪ファイヤーボ__!』
伯爵級悪魔が魔法を使おうと左手でこちらを狙って魔法を行使しようとした瞬間。
悪魔の左腕が弾け飛んだ
『ガ___ッ!?』
何が起こったかさっぱり分からないという顔だが、その隙を逃すほど私も鈍間ではない。
「≪茨の絡み付き≫!≪植物巨大化≫!」
地面に展開した茨で伯爵級悪魔を捕縛し、茨を巨大化させて引きちぎられないように補強。
マーシャさんの奇襲攻撃で失った悪魔の左腕は・・・うへぇ、まるでミンチだ。
地面に刺さった矢を見れば、普段使ってるこっちの世界産の矢ではなく、エルドラド・クロニクル産の特注矢。
『お、おのれェ・・・!既に狙撃手が・・・!どこから・・・!』
マーシャさんの情報もあったらしいが、姿を見ていないので居ないと考えてたか。
コイツ実はアホだな?マーシャさんを相手に、姿が見えない時って一番ヤバいんだが?
あの人、村に来たばかりの時に能力把握で色々とテストした結果、パッシブスキルだけで直線距離1km以上離れた標的も射貫いた人だ。
あの時はマジで人間か?って思った。
ハイレア装備の弓とはいえ、狙撃銃並の射程で狙える隠密弓兵なんて悪夢以外の何でもない。
私の最長射程魔法の2倍以上の射程から、しかも特定の部位をピンポイントで狙える機械的な精密射撃技術、しかも射程と威力が高い弓って相応に高い筋力値ステータスを要求する武器種なので、あの人実はものすごいゴ・・・いやこれ以上はなんか背中から射貫かれそうなのでやめよう。
『クソッ!離せ!≪眷属召モガッ!?』
何か召喚系の魔法か何か使おうとしてたので、追加の兵士級悪魔とかの取り巻き呼ばれても困るということで、ガラス温室で自家栽培したエルドラド・クロニクル産のハバネロっぽい激辛食材を伯爵級悪魔の口に突っ込んでおく。
『か、辛ッ!! み、水!!モガッ!!』
はい。お代わりもあるよ~。
このハバネロ、当然ながら魔法植物の1つで、生のまま食べると魔法の行使を封じる≪沈黙≫の状態異常を引き起こすほど超辛い。
そのおかげで乾燥させたコレを食糧庫とかに吊るしたりしておくとネズミや害虫が寄ってこないんだよね。最近知ったけど。
『~~~~ッ!!』
ほら、悪魔は香辛料を作るぐらい大好きってどっかで聞いたし、お話しするためにはまず親睦を深めないとね~。
あ、ハバネロばっかりじゃ飽きるかもしれないから、インベントリ空間から鉢植えに埋まった状態のマンドレイクを見せる。
『ま、待て・・・!』
待たなーい♡
伯爵級悪魔の制止の言葉を無視して、鉢植えからマンドレイクを引き抜く。
引き抜かれた瞬間、響き渡るは周囲の生物の精神をぶっ壊さんとするマンドレイクの叫び。
おー。元気に育ったなぁ、すごい叫び声。
私はマンドレイクの叫び声を聞いても平気なようにアイテムで耐性を獲得しているが、流石にマンドレイクの叫びをガードできるマイナー装備を転移前に持ち歩いているのは少数派だろう。
思った通り、今のマンドレイクの叫びを至近距離で浴びた伯爵級悪魔は、やはりマンドレイクの叫びに耐性を持つアイテムや能力を持っていなかったらしく、色んなところからいろんな物を漏らして気絶した。
よし。勝利。
≪精神破壊の叫び≫
種別:マンドレイク専用
制限:マンドレイク
属性:精神/音
射程距離:育成状況に依存
形状:音波
魔法植物マンドレイクが持つ能力。
引き抜かれた瞬間、天敵から種を守るため短時間の間、周囲の生命体の精神を破壊する特殊な音波を放つ。
未成熟な場合は耐性無しでも失神程度で済むが、完熟した個体の場合、至近距離で何の対策もせずに聞くと精神崩壊を引き起こし、廃人化する。
当然、耐性を与えるアイテムも存在するが、完熟したマンドレイクの個体と遭遇するのは非常に稀であり、人為的に育成しないかぎり滅多に必要としないため、需要がほぼ無い。
ちなみに、マンドレイクは有毒なので食材には適さない




