第70話
夏の時期、毎朝の日課として発動させた探知魔法に、探知範囲ギリギリのエリアで悪魔の反応を検知した。
ついに来たかと思った瞬間にカウンター型の魔法が飛んできたのも検知した。
やばい・・・今度のはデカイ!
「≪身代わりの贄≫発動ッ!!」
魔法で作ったデコイを身代わりにする魔法を発動させて、村はずれに隠した身代わりに受けてもらう。
その直後、村の外で爆発音。
・・・上手く身代わりが発動してくれたようだ。
「主様!今のは!?」
アカネが慌てて駆け込んできた。
「敵のカウンター魔法。検知対策はしてたんだけど、バレたみたい」
見ればゲームで使ってた検知除けのアミュレットが焼き切れていた。
多分、攻勢防壁か何かのセキュリティに引っ掛かったか。
身代わりとアミュレットが防波堤の代わりになったおかげで、私と村は無傷だが、あの威力だと家ごと吹っ飛ばす気だったな絶対。
「星3のそこそこ効果あった品なんだけど・・・これじゃダメか」
NPCショップで扱ってる品程度では通じないとなると、マジで対人ガチ勢かな。
焼き焦げたアミュレットをゴミ箱に捨てて、マーシャさんに連絡を入れる。
「≪通信≫。マーシャさん、来ました。多分前回のヤツです」
『分かった。外ですごい音したけど、またカウンター来たの?』
「前より殺意高いヤツが来ました。村の外に隠した身代わりで受けましたけど、念のため何人か自警団派遣して様子見をお願いします」
『了解。すぐ向かうから』
≪通信≫を切って、こちらも戦闘準備。
検知した悪魔は複数体。しかもマイコニド軍団と同レベルくらい。
検知範囲外にはアカネと同レベルの指揮官クラスが控えているのは間違いないはず。
「アカネ。作業を中断させて軍団を招集して。戦闘準備」
「はい」
身代わり1つの被害に済ませたとはいえ、今のは直撃すれば村に被害が出る威力だった。
流石にもうプレイヤーだろうが許す気は無い。
今回は私とマーシャさん、そしてアカネとマイコニド軍団全軍で戦う。
検知した悪魔たちのレベルは自警団では勝つのは不可能。
足手纏いになるので留守番してもらう。
アキヒト君は、ぶっちゃけもう巻き込まれただけって分かってる。
「あの、自分もLv100なんで一緒に戦うっすよ・・・!」
って言ってくれたが、村の防衛側に回ってもらう事をお願いしておいた。
魔法剣士系とはいえ、風魔術師系は範囲攻撃が得意なクラス。
いざとなれば覚醒や竜巻という切り札もあるし、全戦力で向かって行って村を空っぽにするとそれはそれで危険だ。
「なら、一番エリシアが敵陣に行っちゃダメな気がするのよね。リーダーだし」
「まぁ、それはそうなんですけどね」
ただコレ、私に売られた喧嘩なんだよね。マーシャさんやアカネ達に頼ってるけど。
「こればっかりは、自分の手でぶん殴ってやらないと気が済まないんです」
正体を突き止めて、できるなら1発ぶん殴ってやりたい。
「そぅ。なら止めないけど」
マイコニド全軍を連れて、探知した場所を共有しながら目的地へ移動。
真菌の弓兵やマーシャさんが途中で斥候に出て、戻ってくると、
「連中、軍団単位で居るわね。指揮官クラスも見つけた」
流石。敵の位置を特定してくれた。
「指揮官は『伯爵級悪魔』。階級持ちで多分アカネ達と同じネームドよ」
悪魔は強さや能力に応じて階級が与えられる。
末端の兵士から従士、騎士、男爵、子爵、伯爵、侯爵、大公の順で強さと能力が強大になる。
大公の悪魔は数千の軍団を息をするかのように呼び出し、しかも本人もデタラメに強いという高レベルレイドボス。
しかも元の世界では誰もが知ってるレベルの知名度の高い悪魔が名を連ねている。
伯爵級はプレイヤーが召喚できる悪魔の上から2番目。
十分に大戦力に数えられるレベルの強さ。
確かLv70後半くらいだったか?
2桁の軍団を指揮して戦えるし本人もそれなりに強い。
「どうする?覚醒スキルで暗殺してこようか?」
マーシャさんなら覚醒使えば暗殺できるレベルらしいが・・・
「できれば生け捕りにしたいです。あぁ、慈悲とかじゃなくて・・・どこの誰が召喚主か聞き出したいんで」
「分かった。なら陽動は任せて良い?その隙に無力化して捕まえるから」
雑魚散らしなら私でもできる。
「お願いします。あ、コレ『聖油』です、武器に塗布すれば悪魔特効入ると思うんで」
こんな日のために、真菌の神官達がこっちの世界の儀式を参考に聖別した聖油を渡しておく。
高レベルのダンジョンでは兵士級の悪魔に遭遇することもあるらしく、聖堂で悪魔特効のアイテムも販売されていたので情報交換で作り方を教えてもらったのだ。
「サンキュー。まぁ生け捕りにできるかは向こうの出方次第だけど、最低でも情報だけは抜いて来るから」
そう言ってマーシャさんは隠密スキルで目の前から消えた。
・・・よし。こっちも先制攻撃するか。
日頃の恨みも込めて、会心の1撃を初手からお見舞いしてやる。
こっちの世界で魔法制御技術を覚え、魔法の威力をある程度コントロールできるようになった。
・・・つまり、MPを余剰に支払い、魔法の威力と範囲もブーストできるようになった!
「200%・・・≪天魔失墜≫ッ!!」
≪身代わりの贄≫
種別:防御魔法/魔女専用
制限:前提魔法≪身代わり作成≫の習得
属性:呪い
射程範囲:身代わりの位置
形状:任意発動
予め≪身代わり作成≫で作成した身代わりに、自分に対する遠距離攻撃を引き受けさせる呪い。
使い捨ての身代わりが術者を1回だけ守ってくれる。
ただし身代わりは使用するまで1つまでしかストックできないうえ使い捨てで、物理的な直接攻撃までは身代わりになってくれない。
そして敵の遠距離攻撃の射程内に身代わりを設置する必要もあるため、ぶっちゃけ戦闘中には使いづらい。




