閑話6『とあるダークエルフの話2』
私はメッチュ。
北大陸からの侵略者達を撃退した我々連合軍は、解放戦線にて共闘した各種族との同盟を締結のために奔走。
近辺の里や集落が次々に同盟に参加し、北大陸からの脅威に対抗するため、同盟を組んだ各種族の新たな国家、『自由種族連合国』を建国することになった。
そして、私は・・・
「総大将ジャコウ。次の書類なんだが・・・」
「またか――――ッ!!」
自由種族連合軍総大将「ジャコウ」の秘書官として、日々を送っている。
本拠地は旧ベエルサロ王国の首都、ゼラリス。
自由種族連合発足で大きく問題になったのが、大勢の貴族諸侯の戦死だった。
先の戦いで、多くの貴族や豪族が戦死し支配者不在の地を治めるため、自由種族連合は貴族制を廃止し、君主は各種族の代表にして象徴。
異世界人流に言うと「君臨しても統治せず」というらしい。
代わりに我々自由種族連合軍が一時的に国内を安定させるため内政を行っている。たしか「グンジセイケン」とか言っていたな。
とにかく、先の戦いで政治や法律を司る機関も麻痺してしまった以上、軍がその役割を補う必要ができた。
生き残った長や王侯貴族は、その位階と功績に応じた軍の階級が与えられ、貴族としての地位や特権は事実上消滅。
そして、自由種族連合国建国に大きく貢献した魔女「ジャコウ」には自由種族連合軍全軍総大将という地位を押し付けられた。
「あんのクソボケ兄妹ィ・・・!
なんでウチが総大将でアイツらが中将やねん!大将やっとけや・・・!」
「仕方ないだろう。大将は各里の長が務めることになっている。
元帥アメリアはまだ19で若すぎて、亡国の姫。信頼がまだ低すぎる。
一番に活躍したジャコウが元帥代理である総大将を務めなければ、連合がバラバラになってしまう」
「ウチは英雄になりたかったんやなくて、平和に暮らしたかったんよ。
あのクソボケ共が「ジャコウ姐さんが四天王で最強」とかほざいたせいで・・・!」
「・・・気持ちはわかる。が、これも誰かがやらなければ・・・」
「・・・分かっとるよ。ただなぁ・・・アイツら好き勝手やり過ぎや。
なんやねん『巨大戦艦建造計画』とか。
インフラが先に決まっとるやろ!アホか!
政治経済ボロボロで何が大戦艦や!道路と水道が先やろがァ――――ッ!!」
「まぁ・・・確かに。この計画は擁護できないな・・・」
「金無いっちゅーねん!略奪と戦争でどこもボロボロや!戦艦作れる金がどっから・・・金か」
「・・・ジャコウ?」
「・・・よし。紙幣つくろか。北大陸の貨幣は硬貨やったな?」
「・・・あぁ。確かにそうだ。だがシヘイとはなんだ?」
「簡単に言えば紙のお金や。金貨とか銀貨より軽いし簡単に作れる」
「そんな物、信用されるのか?」
金貨や銀貨の含有率は国家の信用の証。
信用のない粗悪な金銭ではどこにも取引されないはずだが・・・
「担保が有れば、商人は使うはずやよ」
「担保って・・・なにを担保にする気だ?」
「砂糖」
砂糖・・・南大陸で我々ダークエルフが栽培する植物「ムーンロース」からは砂糖が採れる。
北大陸では砂糖は貴重品らしく、北大陸の商人が大金を出し、そして侵略者達が我々を奴隷にしてまで生産させたがった、我々ダークエルフの里の収入源。
「各地域で生産した砂糖と香辛料を軍が確保して、それを担保にする。
仮に「砂糖切符」って呼ぶで
軍が蓄えた砂糖や香辛料類は軍から砂糖切符を買ってから交換。
砂糖も香辛料も消耗品やから上手く調整すれば常に一定の価値が出るはずや。
砂糖切符を買うって事は、貨幣と交換できて、後は上手く回せば紙幣として信用を勝ち取れるやろ。
いきなり金資本の紙幣は信用ならんし、資本になる黄金も数無いからなぁ」
「待て、それだとダークエルフの経済はどうなる!?
ダークエルフの収入源だぞ!?」
「いや、砂糖切符は「切符分の砂糖と交換できる」ツールや。
砂糖切符が取引されれば、砂糖切符の交換レートが出来て、普通の金銭と変わらん取引ができるようになるはずや。
そして、砂糖を独占するために軍が生産された砂糖を先取りで買い占めるから、ダークエルフにとっては・・・というか香辛料生産者には得しかないで。
砂糖を作り続ければ、常に一定の収入が軍から得られるんや。
砂糖切符の価値を維持するために、生産量とかに口出しするけど。
むしろ砂糖を作り続けて貰わんと、砂糖切符の信用が崩壊する」
「なるほど・・・」
「まぁいつかの未来ではこの砂糖切符がゴミクズになるかもしれんけど、その時までに経済を立て直せれば、別の資本に乗り換えられるやろ」
こうして発行された『砂糖切符』は交易商人達の間で爆発的に普及した。
紙だから軽く、切符に書かれた砂糖の量は連合軍に保証され、必ず取引された。
砂糖は貴重だが、船旅の出発までに倉庫で保管するにも金がかかる。
だが、砂糖切符をは薄くて軽く小さな金庫で保管でき、持ち運びやすく、そして肝心の砂糖は交換するまで軍が守ってくれる。
商人が砂糖切符を備蓄しておくことは、すなわち砂糖の在庫を意味する事となった。
交易組合では砂糖切符の値段が毎日更新され、砂糖切符の値段そのものが、交易商との取引に使えるようになった。
そして、副次効果として砂糖切符の値段に目を付けた大商人達が砂糖や香辛料を生産する農園に投資まで始めた。
「砂糖切符作戦は大成功だ。景気が上がって、国全体に金が集まり始めたぞ!」
しかし、ジャコウが何か浮かない顔をしている。
「なにか・・・不満なのか?」
「なんでこの砂糖切符、ウチの横顔が印刷されとるんよ・・・」
砂糖切符開発者だから当たり前だろう・・・?
≪金属変成≫
種別:魔法/錬金術師専用
制限:錬金術師Lv10以上
属性:金
射程:至近
形状:対象指定
卑金属を貴金属に、あらゆる金属を任意の種類の金属へと変成させる魔法。
ただし希少性が低い鉱物から希少性の高い鉱物へと変換する場合、その差に応じてペナルティを受け、その質量が減らされ、そしてその逆は発生しない。
基本的に不要な金属鉱石を処分するために使われる。