第67話
箒に乗った私と、高速移動スキルで並走するマーシャさんが丘の麓までたどり着くと、向こうもこっちに向かっているのを≪生命力探知≫で把握。
・・・滅茶苦茶速いな。相手の移動速度、時速90キロ以上は出てるだろう。
数分もしないうちに接敵するな。
「マーシャさん。向こうもこっちに来てます」
「良いよ何時でも射貫ける」
≪生命力探知≫では相手はマーシャさんから受けたダメージが回復している。
多分だが、手持ちの最高級ポーションでも使って回復してから来たんだろう。
土煙を上げながら、目視距離に相手の接近を確認。向こうもこっちを認識したらしい。
「≪通信≫。 そこの風使いプレイヤー、止まりなさい」
一応射程距離に入ったので、≪通信≫で停止を促すと、反応が停止し、返事がきた。
『いきなり何するんだ! 覚醒スキルで不意打ちしやがって!』
「それはこっちのセリフです。いきなり竜巻出すなんて何考えてるんですか。
下手したら私達の村が壊滅する所でしたよ」
そう言い返すと、
『・・・マジ?』
一拍置いて、相手も冷静になったのか静かになった。
『・・・えっとぉ。推定俺が出した竜巻の範囲内に村が有った。で、そっちは村を護るために覚醒スキルぶっ放して、俺に攻撃した・・・ってヤツ?』
「はい」
『・・・っスー。ちょっとそっち行って良いです?』
「どうぞ」
しばらくして、丘の森から赤い騎士風の礼服っぽいバトルクロスアーマーの男が出てきた。
薄い紫っぽい髪に、赤と白で統一された衣服・・・見た目はギルドメンバーじゃないな。
腰には鞘に納められたレイピアのような剣がぶら下げてあり、左手側はバックラー。
典型的な軽戦士系剣士って装備かな。
「私達の後ろ、800m先に見える丸太の防壁、見えます?」
「・・・見えますね。マジかー・・・あんな近くにあったのか」
騎士風の男はそう言うと、
「すんませんでしたーーーーッ」
私たちの前で土下座した。
「とりあえず、マトモそうだから、話だけ聞きましょうか」
「ウス。あ、俺は『アキヒト』って呼んでください」
「え?」
「え?」
騎士風の男、アキヒトと名乗ると、マーシャさんがちょっと困惑。
「あぁ、ゴメン。私が看破したプレイヤーネームと違ってたから。リアルの方?」
「そうっすね。アバターネームはちょっと・・・」
「それで、アキヒトさん。こんな所で何を?」
「あぁ、ハイ。実は俺、昨日目が覚めたら森の前で寝てて・・・二人も異世界人っすよね?」
とりあえず、肯定で頷く。
「ウス。話戻すと、エルドラド・クロニクルで遊んでる途中で寝落ちしてて、気が付いたら森の手前みたいな所で目が覚めてて、ゲームのアバターのままで、とりあえず、飯とか探すために森に入ったんすけど・・・道に迷って」
どうやら探索系のクラスを入れてないので、食べ物を求めて森に入ったら出られなくなったらしい。
「それで、道に迷ってたら妖精に出会って、人間のいる村まで案内してくれるって言ってくれたんすよ。で、一晩中歩いて丘を越えて、水辺で休もうとしてたら・・・スライムっぽいのが出て来て」
あー。
「多分、妖精に利用されたんですね。アレ、人の迷惑とか考えないから」
「で、動きが鈍いから避けるのは簡単だったんすけど、斬っても突いても全然ダメージ入んなくて、昨日から何も食ってなくて、寝不足でイライラしてて。つい」
竜巻で何もかも吹っ飛ばしたと・・・
「こっちの世界のスライムは物理攻撃がほぼ通じないらしいんで、斬っても突いても無駄らしいですよ」
「マジかー・・・。スライムって序盤の雑魚じゃないんか。
それはそれとして。ホント、マジで迷惑かけたみたいで」
「で、コレどうすんの?」
マーシャさんが指差した惨状は。うん
竜巻でなぎ倒された木々、水辺も竜巻でグチャグチャだろう。
まさに天災と言える惨状、土砂崩れしないように植林とか指示出さないとダメだなコレ。
魔法で無理やり木々を成長させて補強してもいいが、土地の寿命が削れるから整備も並行させないと森が枯れる。
あの丘は時々危険な魔物も出てくるが、村で山菜取りとか林業で計画的に伐採してて村の生活に根付いた場所なのだが、ここまで荒れたら危険だから立ち入りは制限しないとダメだな。
「ホント、マジすんませんでした」
「まぁ身を護るためだから仕方ないですね。知らなかったとはいえ、今後はこの近辺で≪大竜巻≫とかデカい魔法は禁止です」
「ウス。あと・・・厚かましいんですけど、飯とか無理っすか?もう、腹減ってて・・・」
あー・・・仕方ないか
「良いですよ。村も人手が足りてないんで、損害は働いて返してください」
「え!?あ、ハイ。がんばります」
悪いね、でもここまで森がダメージ受けてるし、割とシャレにならない損害出てるんだよね・・・
天災みたいな物とはいえ、プレイヤーが暴走しただけでここまで被害が出るのか。
「ところでマーシャさん。看破したアキヒトさんのアバターネームって何だったんです?」
「え?・・・『♰穢れ無き罪悪♰』だけど?」
「ゴハァッ!」
マーシャさんがそう言うと、アキヒト君が精神ダメージを受けた。
うーむ。
「これから借金返済頑張ってくださいね?『♰穢れ無き罪悪♰』さん」
「まぁレベル100なら簡単よね『♰穢れ無き罪悪♰』さん?」
「勘弁してください・・・ッ」
まぁ私も鬼ではないので、無利子無利息で気長に待ちますけど。
≪三光の矢≫
種別:覚醒スキル
制限:狙撃手の覚醒
属性:光/必中
射程距離:視界(見える範囲であるならば無制限)
形状:射撃
狙撃手の覚醒スキルの1つ。光速で飛来する矢を3つまで放つ。
矢は使用者の視界に捉えた対象へと光速で飛来し、ほぼ全ての耐性と防御効果を無視してダメージを与える。
光速で飛来するため回避、迎撃は不可能であるため、物理的に視界から消えるか覚醒スキルを打ち消せるだけの効果を持った「何か」が必要。




