第66話
スライム発見の報告を受け、その日の内に討伐作戦会議が始まった。
時間を置けばスライムはどんどん巨大化して手が付けられなくなるらしいので、討伐隊を編成し、すぐに作戦会議と連携確認を行う。
物理攻撃が主軸のメンバーではスライム討伐は難しいので、今回は留守番。
報告後の作戦会議の時点で夜だったので、次の日の朝、魔法部隊による一斉攻撃でその日のうちに討伐することが決定。
スライムは半透明のゲル状生物なため、夜見通しが悪い中で強襲されたら大変な事になるからだ。
作戦の打ち合わせを終え、就寝して次の日の朝。
日の出頃に起きて朝食を済ませて、私を筆頭とした戦える魔法使い全員で討伐隊を招集。
さぁ討伐にと丘を向くと、猛烈に嫌な予感がした。
そのすぐ後、急に風が強くなり、私の≪天気占い≫とは違う空模様。
「天候が変わった・・・!?」
私の『占い師』はLv10。天気占いはそうそう外れないはずだが・・・例外もある。
『天候を変える魔法』なら、天気占いの結果など関係なく気象が変わっても不思議じゃない。
天候を変えるほどの魔法は、こっちの世界では大魔法に分類され、数十人の魔法使いが数週間かけて準備と儀式を執り行うレベルらしい。
「≪魔法知覚≫ッ!」
とっさに丘に≪魔法知覚≫でサーチしてみると・・・居た。
Lv100相当、おそらくプレイヤーの反応を検知。
場所は・・・スライムが発見された水源地!?
「マーシャさん!プレイヤーです!」
「マジ!?」
その後すぐ、そのプレイヤーのMPが大きく減って、魔法が発動した。
大気が渦を巻き、旋風・・・いや、アレは『竜巻』!?
「≪大竜巻≫よ!風系統の高レベル攻撃魔法!」
マジか!?
「全員丘から離れて!アカネ!村人全員を村から退避させて!」
「畏まりました。警報!」
≪大竜巻≫はその場に竜巻を発生させた後、暫く竜巻の進行方向を操作して竜巻に巻き込まれたすべてをなぎ倒す広範囲攻撃魔法!
アカネの指示で村の警報が鳴らされ、村人たちは大騒ぎで家々から飛び出してきた。
「≪大竜巻≫の前じゃ木で作った民家なんて盾にもならないわ!範囲から逃げるしかないわよ!」
「マーシャさんは自警団と一緒に撤退の指揮をお願いします」
「エリシア、アンタはどうすんの!?」
「できるか分かりませんが、アレを相殺してきます」
≪大竜巻≫を相手に半端な防御魔法では文字通り吹き飛ばされる。
ならせめて、村人たちの撤退ルートから外れるように、それが無理でも時間を稼がなければならない。
「風系の魔法使いは空中戦もできる高機動型が多いんで、飛行できる私が足止めします。最悪死んでも、蘇生薬で後から何とかなるんで・・・」
「おバカ!蘇生薬がこっちでホントに効くか試したこと無いでしょ!
それより、覚醒スキル2人分で迎え撃つ方がまだ勝ち筋が有る!」
そんなことをしている間に≪大竜巻≫は水源地の何もかもを巻き上げ、ゆっくりとこっちに向かっているのを確認。
「攻撃系覚醒スキル2人同時発動で術者ごと押し返す!返事は!?」
「・・・分かりました!」
これ以上グダグダ言い合いしてる時間も無いので覚醒スキル発動の準備
「覚醒:薬学の魔女・・・!」
「覚醒:狙撃手・・・!」
攻撃系の覚醒スキルの1撃なら、生産型の私でも戦闘特化型の攻撃魔法に押し負けることはおそらく無い。
覚醒スキルの発動代償に目をつぶれば、村より安いッ!
「≪千王毒蛇の毒≫ッ!!」
「≪三光の矢≫ッ!!」
私が発動させた≪千王毒蛇の毒≫は『毒蛇の祖』と呼ばれた蛇神の毒をそのまま召喚し、巨大な蛇の形状にして目標とする方向へ突っ込ませる覚醒スキル。
覚醒スキルと銘打っているが、魔法攻撃扱いなので最大火力で発動できる。
超巨大な毒の塊が超巨大な蛇になって相手を追い回し、僅かでもダメージを与えたら最後、『神性毒』という状態異常を付与、通常の毒状態とは比べ物にならない継続ダメージを与え続ける。
ちなみに『神性毒』は重複するため、直撃すれば耐久型の盾役であっても秒でHP全損するレベルの継続ダメージを受け続ける。
マーシャさんが発動させた≪三光の矢≫は文字通り『光速の矢』を3本同時発射するスキル。
地味って思うかもしれないが、このスキルは「貫通」と「必中」特性を持った攻撃なため、いかなる回避効果も許さず、あらゆる障害を無視して射貫く。
狙われたら最後、覚醒スキルかそれ以上の防御方法で防ぐことしか許されない。
回避スキルの効果や身に着けている鎧や防具の効果すら無視して必ず当たるし、当然光速で動く矢を≪飛来物迎撃≫等で撃ち落とすなど不可能。
私達の覚醒スキルと大竜巻が激突。
神性毒の蛇神が竜巻に巻き込まれた何もかもを溶解させ、その質量で竜巻を押し留めた所に≪三光の矢≫が竜巻を射貫き、術者に迫る。
「三射全弾命中・・・ッ」
マーシャさんの『弓使い』系スキルによる遠見で命中も確認したらしい。
三発の矢を撃ち込まれた術者は、HPが大きく減った。
純粋な魔法系だったら今ので即死していると思うので・・・恐らく戦士系とかが混じった『魔法戦士』とかか?
そこに竜巻を突き破った≪千王毒蛇の毒≫が追撃。
口を大きく開けて、敵術者を土地ごと飲み込んだ所で・・・恐らく相手もとっさに何かの覚醒スキルを発動させたのか≪千王毒蛇の毒≫が弾けて消えた。
「追撃!」「はい!」
私達は、攻撃可能な距離まで術者に近づくため、丘へと急行した。
≪物品鑑定≫
種別:スキル/制限
制限:盗賊系、学者系、商人系
属性:情報
射程:至近
形状:対象指定
物品の詳しい性能や資産的価値を鑑定するスキル。
鑑定で得られる情報量は習得可能なクラスのトータルレベルに依存。
広い範囲の物品を鑑定できるが、詳しい製法などの情報は開示されない。




