第60話
道中でアカネと合流し、マーシャさんと防壁外の訓練場へと向かう。
「集合!」
自警団が訓練に使っている防壁近くの空き地にて。
マーシャさんの号令で、自警団9名が整列した。
「さて、アンタ達。今日は楽しい楽しい対人戦よ。
毎日訓練とモンスター退治でそろそろ人間相手に力試ししたくなったでしょ?」
『YES!YES!YES!』
マーシャさんの言葉に団員達の息の合ったYESの返答。
「ちょうど他所から来た山賊共が近くでキャンプしているから、挨拶ついでに薙ぎ倒してやりなさい」
『YES!YES!YES!』
ナニコレ。数か月の間でなんかマーシャさん率いる自警団が戦闘狂の集まりになったんだけど
どんな教育したの?ちょっと全員の目が怖い・・・
「じゃ、作戦だけど・・・」
アカネと自警団の面々と作戦を打ち合わせを開始。
今回はマイコニド達の半数は村の防衛に置いておき、戦力は私とマーシャさん、アカネとマイコニド軍団20名、そして自警団9名。
作戦会議を終え、日没と共に山賊達のキャンプ地を目指す。
数時間ほど歩いて、山賊キャンプが近い麓まで来た。
道中もそうだったけど、ここからは木々が月明りを覆うので、真っ暗で何にも見えない。
「エリシア、明かりは点けちゃダメ。この距離なら見えるヤツはもう見えるから」
「えぇ・・・」
正直、手元も見えないくらい暗いが、先導するマーシャさんは暗視系スキルで見えているらしい。
仕方ないので暗視効果を付与する魔法薬を服用して視界を確保。
・・・よし、よく見える。
「この辺で始めましょうか」
「はい」
山賊のキャンプ地から離れた麓の林の中で、魔法発動の準備に入る。
大がかりな魔法を使うので、詠唱時間も結構かかる。
その間は私は無防備なので、全員で守ってもらう必要がある。
3分を超える詠唱時間を終え・・・魔法発動の準備ができた。
「準備できました」
「よし、始めて」
マーシャさんの合図で杖を地面に突いて魔法を行使する。
「≪魔法範囲極大化≫≪森林迷宮化≫!」
私のMPを全部消費し、山賊キャンプ周辺の木々が蠢き地形が書き換わる。
「グゥ・・・ッ!」
こっちの世界で一度にMP全部を消費して魔法を行使したことは無いな・・・!
けっこうキツイ・・・!脂汗が噴き出て一気に倦怠感と僅かな頭痛が襲う。
MP回復ポーションと賦活系ポーションを飲んで、MPを補給。
回復中も私が行使した魔法が発動し、目の前の景色が恐ろしい速度で変わる。
木々が密集して通行不能の壁となり、道が複雑に書き換わり、枝葉が登攀を阻止するネズミ返しのように反り返り、草花が棘や毒性を得て凶悪な罠のように姿を変えて配置され、山賊キャンプは私が作り出す『迷宮』に封じ込められた。
≪森林迷宮化≫は文字通り『森を丸ごとダンジョンに書き換える』魔法だ。
と言っても、作成できるのは1層だけで、しかも『森』か『密林』『ジャングル』などの植物が豊富なエリアでなければ発動できないという縛りがあるので、使いどころが微妙な魔法でもある。
一度発動してしまえば、この変化は誰にも止めることはできない強大な魔法だが・・・コレは何回も使いたくないな。ぶっちゃけ使いどころ無いし、凄く疲れる。
森の大変動が収まり、迷宮化が完了したのを感覚で察知。
迷宮化の魔法は必ず『出入口を1つ以上設置しなければならない』ルールがあるので、目の前に出口を設定した。
「出入口を固定しました」
「よし。キルゾーン設置急ぐわよ!」
マーシャさんの声と共に、全員が丸太を積み上げて即席のバリケードを設置。
迷宮化された森の中から悲鳴や怒声などの大混乱した山賊たちの声が聞こえる。
「≪千里眼≫」
インベントリから水晶玉を出して、千里眼の魔法を行使。
水晶玉に迷宮化された森の様子を映し出して、相手の動向を探ってみる。
「えーっと・・・この辺かな」
視点位置を調節して・・・よし見えた。
山賊たちも流石に周囲が迷宮化して呑気にしているわけではなかったようで、武器を持ってダンジョンからの脱出を目指しているようだ。
何か言い合っているようだが・・・この魔法は音声まで拾えないからなぁ。
あ、一人落とし穴に落ちた。底には槍衾のような棘の根がズラリと並んでる。
迷宮化の罠がえっぐいな。このレベルの魔法だと制御に集中するから、ゲームの時のように気軽に編集とかできないんだよなぁ・・・
他にも毒草が放つ毒の花粉が霧のように漂うエリアだとか、剣山のような有刺植物が群生してるエリア、毒キノコが爆発して毒をまき散らす地雷エリア等の凶悪エリアが勢ぞろいしている。
流石にモンスターまで召喚する余裕は無いので、罠と迷路だけだから、山賊側もあの手この手で罠を避けたりして着実に進んでいる。
迷路の道順も結構単純だったかな・・・?
まぁ時間稼ぎとルートを制限させるために迷宮化させたし、出口では私達がバリケードによるキルゾーンで待ち構えている。
「篝火を焚いて!持ってきた弓とか投擲武器も全員に配る!
迷宮から出てきたヤツは大体敵よ!」
マーシャさんのインベントリからは大量の手投げ爆弾や弓矢、投石紐と山積みの小石まで出てくる。
ちなみに持ってきた手投げ爆弾の殆どはメイドイン私だ。
弓矢を扱えるのは自警団でもマーシャさん以外は2人だけ。
他は真菌の弓兵が使い、弓が使えない戦士系は投石紐による投石で攻撃してもらう。
「マーシャさん。あと5分くらいで山賊団が出口に来ます」
「けっこう速いわね・・・攻撃準備!」
マーシャさんの号令で各自が投射武器を構え、私も魔法の準備をする。
≪千里眼≫
種別:情報系魔法/占い師専用
制限:Lv3以上
属性:情報
射程:約1㎞
形状:視野
指定した座標上に視点を置いて、遠隔から情報収集する魔法。
得られるのは視覚情報のみであり、指定した座標に建造物や密度の有る物体が存在する場合は失敗する。
また、空間座標入力が不正確だと別の景色を映し出してしまうため、非常に正確なな座標位置の把握が求められる。
建造物の中を見ることはできないので、風呂場や更衣室を覗き見るような行為はできない。




