第59話
リキュールを漬け終え、今夜の夕食は射撃実験にされたバロメッツの鍋。
「ごめんね。≪抹殺の呪い≫」
せめてもの情けで即死呪文で一息に終わらせ、マイコニド達が解体。
畜産は進めているが、肉の味がどんな感じなのかイマイチ知らないので、実食。
とりあえず、ジンギスカン風に調理してみた。
ただし、タレとか無いので味付けは塩とハーブで臭みを誤魔化してる。
「見た目は完全に羊肉ね」
「バロメッツは見た目も羊ですからね」
マイコニド達と一緒に鍋を囲んで、いざ実食。
「ん・・・?」
「カニ・・・とは違うわね」
なんだろう、カニっぽいと言えばそうだけど、なんか違う。
もっと食べ慣れたなじみ深い・・・
「あ、カニカマ!」
「あー!言われてみるとそうね!」
「かにかま・・・?」
コレ、カニカマの味だ!・・・分かると急に安っぽく感じてきた。
だけどまぁまぁ美味しいので食べる。
うーん、ジンギスカン風じゃなくてもっと美味しい調理法もあったかも。
バロメッツ鍋を食べきり、味は日本人の私達基準でも問題無く美味しいと判明したので、今後は牧場にも力を入れてもらおう。
昆布とか海産の乾物も欲しいな、輸送費とかでコスト高そうだから、バロメッツ繊維の売り出しも考えないと・・・
◆
春半ば。春の作付けが終わった頃、不穏な噂が耳に入った。
「山賊?」
「はい。どうやら他所から流れてきたようで」
行商人から山賊がこの近くに潜伏していると噂が流れてきた。
傭兵団には山賊などの略奪者の集まりで結成された組織が多く、敵地で略奪したり無法を働く連中は珍しくないらしい。
で、そんな連中がなぜ野放しなのかと言えば・・・『軍隊はコストが重い』からだ。
常備軍は給料やなんだかんだでコストが重いので数を揃えるのは難しく、平民を徴兵した民兵は大して強くないし、収穫時期で動員すれば収穫に大打撃だ。
しかし、金を積めば戦ってくれる無法者達は戦時には都合のいい戦力で、質の方はピンキリだが、矢面に立たせるにはピッタリな連中。
使い捨てても大した損失にならないどころか、普段は厄介者のような連中なので、鉄砲玉には都合が良いらしい。
それに、取り締まろうにも傭兵は無法者だけあって戦闘のプロだ。
傭兵を取り締まって大事に育てた正規兵達を失ったら大損害なため、取り締まろうにもできないのが現実らしい。
「規模は?」
「さぁ。そこまでは分かりません」
噂話程度じゃ、規模までの情報把握は無理か。
「マーシャさんに伝えて。この後すぐに話し合って、必要なら打って出る」
「はい!」
近くに居たマイコニドに指示を飛ばし、村にも指示を出す。
「今夜は外門を閉じて。今夜から見回りを増やします」
来るとは限らないが、夜襲に備えて村の警戒レベルも上げる。
「エリシア、山賊はどこ?」
「まだ、近辺に潜伏しているとだけしか。噂では他所の村が数か所襲われたそうです」
略奪者達が近くに潜伏しているなら、攻撃に備える必要がある。
「これから、占い師の魔法で敵の位置と戦力を探ります。
戦力分析した後、どうするか考えましょう」
「そうね。頼んだわ」
って事で範囲拡大した≪生命力探知≫で山賊が潜伏していると思われるエリアを探る。
「・・・動植物が多くてノイズになってますね」
「とりあえず、傭兵はLv10以上が多いから、レベル10以下は無視していいと思うわ」
確かにそうだ。とりあえず、下限値をレベル10に設定して探知してみると・・・
「それらしいのを見つけました。レベル17~20。
数は・・・14人。場所はここから西南15キロ先にある小山ですね」
マーシャさんが作った≪盗賊の地図≫に探知した場所を書き込む。
「小規模・・・というか少数精鋭かしら?こっちの世界基準ならだけど。
念のため、偵察して情報抜いてくるわ」
「お願いします」
マーシャさんが偵察に出ている間、探知魔法で観察しながら迎撃準備。
「作っておいた推進爆弾を櫓に運んで。取り扱いには注意してね」
「はい!」
推進爆弾。分かりやすく言えば原始的なミサイルで、陶器製の瓶で出来たロケットをニトロセルロースから作った推進剤を推力にして遠距離で炸裂させる。
原理はロケット花火と同じで、推進剤を使い切れば爆薬に着火し、爆発と共に陶器片を周囲に炸裂させる。
欠点は時限信管とか無いので、推進剤が燃え尽きなきゃ爆発しない。
あと、追尾機能なんて無くタダ真っすぐ飛ぶだけなので、精度も期待できない。
遠距離武器には弓が村にはあるが、大軍を相手するには手数が足りないのでこういう爆弾が必要となる。
手投げ爆弾だと距離が短すぎて防壁にダメージが入る恐れもあるし、誤爆する恐れもある。
推進爆弾なら遠くまで飛んで爆発してくれるので、アウトレンジから狙うにはピッタリ。
ニトロの推進剤は陶器の瓶であっても問題無く飛翔し、敵集団を攻撃してくれる・・・予定だ。
まだ実験で飛ばしただけで、敵に対して使ったことは無い。
日没になって門を閉じる前にマーシャさんが偵察を終えて帰ってきた。
「探知通り、敵は14人で全員略奪者。どうする?」
「そうですね・・・」
生憎、この村には刑務所なんて建ててない。
仮に捕えられたとしても、略奪者を更生させるなんて手間のかかる事をするだけの余裕も、この村には無い。
「・・・潰しましょう。戦闘準備してください」
「オッケー」
≪存在しない誰かさん/ジェーン・ドゥorジョン・ドゥ≫
種別:技能/専用
制限:諜報員Lv15以上
属性:隠密
射程:自身
形状:なし
自身の雰囲気や立ち振る舞いの違和感を消し、集団に紛れ込むスキル。
このスキルを発動している間は、周囲の人間には関係者と誤認され、即座に敵対することは無い。
ただし、攻撃する、物品を盗むなどの敵対的行動をするとこのスキルは解除され、周囲のキャラクターと敵対する。
男性の場合「ジョン・ドゥ」。女性の場合は「ジェーン・ドゥ」とスキル名が変化する。




