第57話
雪や霜の妖精が姿を隠し、本格的な春の時期。
村には新たに加わった人が畜産家として活動するというので、小さい牧場を村の東側に設置。
「羊とはちょびっとちげぇますが、頑張って世話してみます」
畜産業に名乗りを上げた彼、名前は「アルノー」。
聞けば実家は南の方で家族と羊飼いをしていたらしいが、兄弟達の末っ子だったため、家を継げなかったのでパ・ブシカの街で仕事を探していたら、ゲイリーウッズ村の移住募集を聞いて来たらしい。
動物の世話は慣れているらしいので、半分動物みたいなバロメッツもうまく世話してくれるだろう。
レンガ焼き工房や陶器工房も人が入って稼働を開始したので、レンガ生産が開始。
マーシャさんに任せた自警団は・・・
「はい、あと3周!」
「はい!」
完全武装状態で村の外周を走らされている。
自警団のメンバーは春まで募集して9人ほどメンバーが集まった。
人数は少ないが・・・まぁ今後に期待しよう。
全員には革鎧と槍が支給されており、毎日マーシャさん監督の下で訓練に励んでいる。
村の防衛や治安に関わる組織なので給金も税金から捻出。
今のところは近隣の村へ売り出しているポーションや農薬の売り上げで支払っているので、まだ大丈夫だが・・・税金を徴収しないと赤字は免れない。
さて、そんな感じで春が始まり、村中で農作業が再開される。
当然、私の拠点でもそれは例外ではない。
「えーっとこっちが豆、ここが麦、こっちが秋蒔きの畑だから手入れだけで・・・」
マイコニド達に指示を出して畑の種まきや手入れの指示を出す。
一人でこんな大作業はできるワケ無いでしょ。
あー。誰か農業用機械を造ってくれないかな・・・トラクターとか。
結局、冬の間では資材が足りずにボイラーの開発は出来なかった。
金属類は他所から取り寄せないとダメだな、交易所で金属類の買い取りを優先させる指示も出さないと。
やる事が多すぎて1日じゃ作業が終わらない。
夜はアカネや交易所からの報告書と睨み合いしながら財政計算。
月光百合の輝きを頼りに、机に向かって本日の売り上げなどを計算しながら帳簿に纏める。当然、インクによる手書き。
くっそぉ、誰か!パソコンも作って!インターネットは無理でも表作成とか表計算とかめっちゃ便利だから!
・・・無いモノは仕方ないので、≪木材変形≫で『ソロバン』を作って計算作業。
アカネの方はキレイに書式が整えられており、凄く見やすい分かりやすいので助かる。
うーん、アカネに村で提出する書類の書式を統一させるよう指示も出さないとな・・・
他の村人の書類は、ちょっと雑で見にくいし書き方もバラバラだから見にくいんだよな。
全部の書類に目を通し、計算チェックした後ダブルチェックして、帳簿に纏めた後、ようやく就寝。
あー・・・疲れる。デスクワークできる人材も探さないとなぁ。
アカネだけに丸投げじゃ負担が大きいし、信頼出来て計算できる人間・・・いや、もう人間じゃなくて良いや。
次の日、私はデスクワーク専門として深緑霊を召喚することにした。
戦闘力はアカネ程ではないが、単純な計算や書類仕事なら深緑霊に任せられる程度には頭は良いはず。
私とアカネで書類をダブルチェックすれば、問題は起こらないはず。
一応、アカネにも召喚に立ち会ってもらう。
「よし、≪植物召喚:深緑霊≫」
拠点の家の中で深緑霊を召喚。
起点として土を詰めた大きな鉢を指定したので、根を張っても問題ないはず。
魔法陣から深緑霊が召喚され、私に恭しく頭を下げる。
「召喚に応じ、参上しました。お久しぶりです私の主」
「あ、もしかして王都攻略戦の深緑霊?」
よく見たら、王都で召喚した深緑霊だ。
「はい。元の次元に戻った後、再召喚されるのをお待ちしておりました」
元の次元ってドコだよ。
・・・まぁ、それは後で聞くとして、名前も与えておこう。
「とりあえず、名前を与えておくから何か希望はある?」
「名を戴けるとは、感激の極みにございます」
そんなに感激することかな。召喚される存在には何か特別な意味でもあるのかな?
「希望といたしましては・・・そうですね、私の元となった植物の名前から戴けますか?」
元となった植物か・・・えーっと
名前を付けるため、改めて深緑霊を観察する。
背はそんなに高くない、人型で色白。
髪は緑のミディアムカットで、頭に白いヴェールのような物を被っている。
これは・・・花か。小さい花の集まりがヴェールのように髪を覆っているんだ。
「アナベル。今日から貴女はアナベルよ」
「ありがとうございます。アナベルは誠心誠意、我が主にお仕えします」
アナベルへの命名が終わり、さっそく仕事に取り掛かってもらう。
彼女は拠点の会計士として収支計算と帳簿の整理を担当してもらう。
「このソロバンという道具を頼りに、計算すれば良いのですね」
「えぇ、使い方はさっき説明した通りだから、先ずはこの書類から計算してちょうだい」
手始めに優先度と難易度の低い書類から任せてみたら
「終わりました」
速い。私が書類を1つ片づける前に計算して帳簿に纏めてある・・・しかも字が綺麗。
自信失くすなぁ・・・まぁ有能だから良いか。
「ところで、アナベルは後どれくらいこっちに留まれるの?」
「そうですねぇ、名を与えてもらえたので、主が望む限り永続的に留まれますよ」
名前パワーやべぇ・・・。今後は軽々に名前を付けるのは控えた方が良い感じかな。
≪召喚:深緑霊≫
種別:召喚魔法
制限:庭師の魔女or精霊使いLv9以上
属性:召喚
深緑霊を召喚する召喚魔法。
深緑霊は森神官系、召喚士系の魔法を行使できるサポーター系精霊クリーチャー。
召喚するためには前提として≪植物召喚≫か≪精霊召喚≫の魔法を中級まで習得する必要がある。
その場から移動できず、接近戦闘は不得手だが、強化系の補助魔法や回復魔法を行使できるため、ゲーム中盤においては便利な支援キャラとして召喚される。




