閑話4『とある女狩人の話2』
【女狩人ジリア視点】
イチホを里で保護して3か月が経過しようとしていた。
魔法付与を施せるイチホはすっかり村の狩人たちに受け入れられ、私の家を増築してイチホ用の工房まで完成していた。
最初は人間達が住む南へ送り返すという話だったが、イチホがイセカイがどうのこうのと言って、この里に残りたいと言い出し、里長もイチホが魔法の武具を造り出せるという事で、話し合った結果・・・私の家に同居するという事になった。
「いやぁ。巨獣ってすごいですねぇ。
普通よりもはるかに高性能な素材でぇ、こんな簡単な加工でこれほどの性能になるんですからぁ」
「そうなのか?」
「そうですよぉ。魔法付与って普通は端切れでは足りませんけどぉ、巨獣の素材のポテンシャルは凄まじいですよぉ。
端切れだけで実用レベルの魔法付与が可能となっているんですぅ。
一流の生産者がぁコレを使えばぁ・・・ぶっ壊れ装備ができそうですよぉ」
「ぶっ壊れ?」
装備が壊れては意味が無いだろう。
たまにイチホは意味が分からない事を言う。
「ところでぇ、お願いした素材ですけどぉ」
「あぁ、コレか。何に使うんだ?」
私はイチホに頼まれて汲んできたバケツを差し出す。
針葉樹林に点在する『黒い湖』から汲んできた、黒い水。
正体は油のようだが、食用には適さず、獲物があの黒い湖に逃げられると毛皮もダメになってしまう。
火を近づけたら激しく燃えて毒気を放つため、誰も近づかない不吉な水だ。
「やっぱりぃ、原油ですよぉコレぇ」
「ゲンユ?」
「私の国ではぁ『黒い黄金』とまで言われたぁ万能素材ですぅ」
よく分らんが、イチホにとっては貴重な素材らしい。
「こんな物、役に立つのか?」
「そうですねぇ。ちょっと錬成してきますねぇ」
イチホは『付与術師』と『錬金術師』から派生した『錬成術師』というクラスとやらを習得しているらしく、物体を思いのままに造り替えることが可能だそうだ。
「本職に比べたらぁ、最高保証品質は下がりますけどぉ、大抵の品は作れますよぉ」
そう言って、彼女の工房で黒い水から錬成とやらで加工されて生み出されたのは・・・透明な液体。
「私の国ではガソリンと呼ばれた燃料ですぅ。
これだとぉちょっと危険なのでぇ、錬成した樹脂のタンクに詰めちゃいますねぇ」
イチホによると、黒い水は燃料や樹脂など様々な材料になる便利な素材で、黒い湖を持つ個人はその世界では巨万の富が約束されると言われるほど貴重な物なのだとか。
「しかし、コレがか・・・?」
陶器と比べたら羽のように軽い容器に詰まったガソリンとかいう液体。
「見ればわかりますよぉ」
そう言って、少しだけガソリンを暖炉に垂らし、火を近づけると・・・激しく燃えた。
燃料なら巨獣の油から作った燃料があるが、僅かな量でこれはそれ以上の熱量を発揮した・・・
仮に、このタンクいっぱいに詰まったガソリンが燃えたと考えると・・・寒気がする。
「気化しやすいのでぇ、この国でも燃料にはなりますねぇ」
「恐ろしいな・・・こんな物を何に使う気だ?」
「そうですねぇ。これらを燃料としてぇボイラーとかぁ。
技術があれば発電機も欲しいですねぇ。
単純に樹脂だけを取り出すのもアリですしぃ・・・」
使い道は多いらしいが・・・
「コレを汲んでくるのは手間だぞ?
重いし、なによりあそこは巨獣のテリトリーだ。
狩りで出向くことはあるが、住むことは難しいし・・・なにより危険だ」
数日程度なら狩人小屋で仲間と警戒しながら過ごすことは可能だが、あの黒い湖(イチホはユデンとか言っていた)に工房を立てるのは無理だ。
あんな毒の気に満ちた黒い湖の近くに住めば死んでしまう。
黒い湖は簡単には燃えないが、一度でも燃えれば誰にも消すことは不可能なうえに、近くを通るとたまに松明の炎が激しく燃えたり、息が苦しくなる時がある危険な場所だ。
それに何より、生活で火を使うのは当たり前だ。
黒い湖の近くでガソリンとやらが何かの拍子に燃えた場合、黒い湖は周りの物を全て燃やし尽くすだろう。
「そうですねぇ。地下にパイプを引いてぇ、ポンプで里の近くまで汲み上げるのがぁ現実的ですかねぇ」
「そんな大工事、誰もやらないぞ・・・里の人手はいつも足りないくらいだ」
「はいぃ。なのでぇ自前でやろうかとぉ・・・」
なんだと?
次の日の朝。
「≪5倍魔法範囲拡大≫≪地割れ≫」
イチホの魔法で永久凍土の北地の大地が裂けた。
「≪5倍連続魔法≫≪土人形作成≫からのぉ≪5倍連続魔法≫≪土人形作成≫」
裂けた大地から土の人形が次々と這い出て、大地の裂け目を崩して整備を始める。
「馬鹿な・・・」
あんな大魔法を連続行使して、全く平気だと・・・!?
「ん~。やはりMP消費はバカにできませんがぁ・・・装備の性能でゴリ押しできますねぇ。
≪地均し≫≪掘削抗≫」
裂けた大地になだらかな斜面が生まれ、地下坑道を魔法で掘り始める。
「土砂の回収をお願いしますねぇ。後で配管の材料にするのでぇ」
ゴーレムにそう指示を出すと、せっせとゴーレム達が掘削工事で出た土砂を外へと運び出す。
村を護る狩人としてイチホを監視していたが・・・彼女をもう侮る事は出来ないな。
イチホがその気になれば、あの大魔法で里を崩すなど容易い事だろう。
異常なほどの大魔法使い。大地を砕き、無数のゴーレムを使役し、巨獣の端切れから魔法の武具すら造る。
だが、彼女の気性は非情に穏やかだ。
ならば、友として里に被害が出ないように、彼女の隣に立たねばならない。
「イチホ!どれぐらいで完成する予定だ!?」
「障害物次第ですがぁ・・・半年を予定してますぅ!」
半年か・・・
「待っていろ!手伝いを呼んでくる!」
まずは、あの異常な強さの秘密から教えてもらうか。
≪地割れ≫
種別:攻撃魔法/制限
制限:錬金術師派生もしくは上位クラスLv10以上
属性:魔法/地
射程距離:5m~200m
有効範囲:最大100m
形状:エリア指定
指定したエリアに地割れを引き起こし、地の底へと落とす魔法。
攻撃範囲がかなり広く、地上生物であるならばダメージと共に地割れの中に閉じ込める。
ただし、地面を起点に発動するので、飛行手段を持っていれば脱出や回避は可能。




