第46話
王都の救出作戦から次の日の朝。
トールさんのラーメン屋奥の座敷に泊めてもらい、朝起きれば隣で寝ていたはずのマーシャさんは居ない・・・先に起きたのかな・・・
「ふぁ・・・」
寝ぼけながら、水でも貰おうと店に出ると、何か踏んだ。
「ん?」
踏んだものを確認しようと足元を見ると・・・人
「うぇ!?」
「あー。エリシアちゃんおはよー」
カウンターで呑気にマーシャさんが朝食してるけど・・・
って床に転がってる人、ロープで縛られてるし!
「ちょ!?コレ!」
「あー。バカ王子が飼ってる密偵ってヤツ。
明け方くらいに伝書鳩みたいなの飛ばしてたから、鳥ごと狩っといた」
狩ったって・・・そんな野生動物みたいな・・・
「大丈夫。伯爵邸まで引っ張って情報聞き出すから生きてるよォ。
・・・ちょっと手首切り落としたけど」
「切り落としたァ!?」
よく見れば片手が無い!出血はしてないみたいだけど!
「やり過ぎですよ!」
「だって、でっかいナイフ出してきて、ついうっかり・・・。
やっぱ弓の方が加減利くわね、ナイフだとつい切っちゃうから。
弓なら狙った所に当たるし・・・。
威力次第で死ぬけど」
ダメじゃん!
「あー。こっちの世界の粗悪ポーション使って傷だけは塞いだし、感染症とかも大丈夫でしょ多分。
伯爵にもってけばボーナス貰えると思うし、拷問は専門外だから投げ渡せばいいでしょ、証拠も押さえてるし」
そう言ってマーシャさんが広げて見せたのは・・・王都から救出した貴族たちがこのパ・ブシカに居ることを伝える文書。
縛られてる人は猿轡とかされてるし・・・
「朝から物騒すぎますよ・・・」
「ごめんって。でも情報封鎖は大事でしょ~。
バレたらせっかくの魔法少女も台無しだし、最悪は伯爵が王都襲撃の黒幕って事にされかねないしねぇ~。
相手にバレる前に先手必殺は戦争の常識ィ」
「私、基本は非戦闘要員でしたけどね。
領土戦とか大体、本拠地で留守番ですし」
「あ~・・・確かに。エリシアちゃん読み合いとか下手だし、狩りとかもデイリーでくっ付いてくるだけのPVE(非対人戦)専だよね」
二人で話していると、更に奥の間からトールさんが出てきた。
「あ~ねっむ・・・ってオイ。誰だコイツ」
「バカ王子の密偵。狩っといたから引き渡しよろしく」
「俺の店は汚してねぇよな?この店、まだローン払いきってないんだ」
ローンとかあるんだ・・・
「大丈夫。表でサクッと片づけて、パパっと処理してひっ捕らえたから」
「ならヨシ」
「良いのかなぁ・・・?」
朝食と身支度を済ませ、マーシャさんがスマキにした密偵を連行しながら伯爵邸へ移動。
夜だし、なんか色々疲れたから報酬の話はまた明日って事でアポは取ってある。
◆
伯爵邸に到着し、マーシャさんが密偵を証拠と共に伯爵の配下へ引き渡す。
「まぁ多分、下っ端の下っ端だから大した情報持ってないと思うけどね」
対人戦コワイ・・・モウ、オウチカエル・・・
哀れ密偵さんは伯爵の配下にどこかへドナドナされて、報酬の話に入る。
「この度は、心から感謝する。まず、これだ」
伯爵に差し出されたのは・・・権利書っぽい書類。
「ゲイリーウッズ村を含めた我が領の北部開拓域の自治証明書だ。
これに記入すれば、我が伯爵家がイースリー領のゲイリーウッズ村とそこから北の未開拓地域の自治開発を認めることが書かれている。
この書類によってゲイリーウッズ村と北部の未開拓地域は、エリシア殿が権利を持つ事ができる。
ただし、自治を認めるという事は私の支配から離れることを意味する。
要請してくれれば対価と引き換えに支援や援軍を出すが、基本的には権利を持つ君が管理してくれることが望ましい」
つまり、もう国や伯爵が税金を持っていくことは無いが、もうタダで軍隊は動かさないよ、困ってもタダじゃ手を貸さないよ・・・って事か。
内容から見て・・・独立した小国の主じゃんコレ・・・
まぁまともに福祉やインフラ管理とかされてないし、私が好き勝手やっても伯爵はもう文句は言わないから、もう良いか。
「それと・・・妻の腕なのだが・・・」
「あー・・・」
伯爵の奥さん、片腕を切り落とされたんだっけ・・・
「私から提案できるのは3つですね。
1.放置する。
腕を無くしたのは残念ですが、私が見た感じ傷はポーションか治癒魔法で塞がっているので、感染症にだけ気をつければ元気には過ごせると思います。
通常の義手などで穏やかに過ごしてもらうのは1つ。
2.真菌の神官の治療を受ける。
配下の神官は≪損傷治癒≫の魔法が使えるので、遠出できる春まで待ってもらえれば、料金次第で腕を再生させることも可能です。
ただ、この魔法はこっちの世界では超高額って聞いてるんで安くはなりません。
私は聖堂と揉め事は嫌なので、聖堂が定めた料金を基準にする予定です。
3.魔法の義手にする。
私の習得してる魔法で義手を作ります。
ただ、この魔法はこっちの世界で試したこと無いんで、どうなるかは保証しません。
一応、魔法の説明だけは事前にしますけど自己責任になります」
義肢を作る魔法。≪植物の部位≫。
効果は欠損を受けた部位に、魔法で創った寄生植物を意図的に植え付けて、宿主の義手や義足として操れる魔法。
ぶっちゃけ、損傷治癒の方が効果が高いが、植物の部位は破壊されてもダメージにならない・・・という利点が一応ある。
「・・・いや、有難い申し出だが、これからやることが多い。
腕の再生や特殊な義手でこれ以上は君たちに迷惑はかけられない」
「そうですか」
「これから、国内は大きく揺らぐ内乱に発展するだろう。
君たち異世界人にこれ以上、我が国の痴態を見せるわけにはいかない。
だが、状況が落ち着いたら・・・君の配下に私の妻を診てもらいたい」
「分かりました。連絡をくれたら最優先で行かせます」
「あぁ。では、これにサインを」
内容をよく読んで・・・うん。変な事は書かれてないな。
これで、ゲイリーウッズ村は私の国となった。
≪キュート・コズミック・デコレィション≫
種別:変身/専用
制限:限定イベントアイテムの所持
属性:変身
射程:自身
エルドラド・クロニクルでタイアップコラボをした、とある魔法少女系アニメの変身呪文。
期間限定のイベントクエストの報酬で引く、ボックスガチャの景品である変身アイテムを所持すると自動的に習得できる。
この呪文を唱えれば、変身アイテムの効果が発揮され、変身バンクと共に誰でも魔法少女になれる。




