第43話
【???視点】
王城から脱走し、王都イデアに潜伏して一ケ月くらい。
市民に紛れ込んで情報収集してみたら・・・まぁ。この国は最悪だった。
実権を握ってるのは戦争狂のアホ王子で、侵略戦争にご執心。
アホ王子を囲んでる派閥は、議会を占有して敵対派閥に対して無茶な献金を要求。逆らえば王都に軟禁している親類縁者を人質に脅し取る。
市民の方でも暴利といえる税率を課し、払えなきゃ使い捨ての民兵として戦争に送り込むそうな。
さっさと物資とお金を集めてこの国から脱出しようと準備していると、ある夜に警鐘で叩き起こされた。
「んぁ・・・?うるっさいわね・・・」
今、私の宿は・・・えーっとなんて言ったかな。『ほにゃららの蛇』だとかいう小規模な犯罪組織のアジトを制圧して使っている。
情報収集の時に、私を人買いに売り飛ばそうとしてきたのでちょっと返り討ちにしてやり、何回かの夜襲だとか報復を全部片づけて、やっと落ち着いて寝られるようになったのに・・・
窓を開けて情報収集系スキルで様子を窺うと・・・『巨大モンスター』?
装備を整え、隠密スキルで姿と情報を隠蔽し・・・
今、誰かが情報収集の魔法使ったな。
≪生命探知≫の魔法かな。隠蔽も無しに堂々とそんな魔法使うとか、対人戦素人?
隠蔽スキルが間に合ったから、探知はされてないはず・・・。
スキルとステータスに任せて屋根の上に上り、状況を確認。
「・・・樹霊王?」
レベル80以上の大型クリーチャーじゃん。
自然発生・・・じゃない。デカすぎる。
誰かが使役してると考える方が自然か。
何処かの誰かの攻撃?怪獣映画みたいでウケる。
「・・・ってこんな事してる場合じゃないか」
巻き込まれたら大変だ。
樹霊王は倒せなくはないが、体力が多いしタフだし物理耐性も高いから、暗殺系スキルと相性が悪すぎる。
私のビルドは『奇襲による一撃必殺』を前提にした戦闘スタイル。
奇襲が成立すれば、大ダメージが約束されるが、デカすぎる相手や強大な相手には何度も攻撃を撃ち込む必要があり、1回限りの奇襲ではアレは倒せない。
矢も有限だし、ここは騒ぎに紛れてトンズラさせてもらおう。
そんなこと考えてたら、防衛戦線の上を飛ぶ飛行物を発見。
探知系魔法を隠蔽も無しにバンバン垂れ流してるし、おそらく魔法使い。
いったいどこの誰・・・。
「ブフゥ!?」
ちょ・・・ッ!反則でしょ・・・・ッ!魔法少女・・・ッ!!
エルドラド・クロニクルでコラボした魔法少女じゃん・・・ッ!
腹筋崩壊した私はその場で動けなくなったが、幸いにも隠密系スキルのおかげでその痴態に気づかれること無く、魔法少女の恰好をした誰かは上空を通り過ぎた。
「・・・プレイヤー・・・だよね」
たしか、コラボアイテムには認識阻害の効果を付与して魔法少女の姿に変身するアイテムがあった。
ネタアイテムだが、正体を隠すにはちょうど良いアイテムなのは確かだ。
あんなネタアイテム持ち込むのはプレイヤー以外は考えられない。
樹霊王を使役してる本人かどうかは知らないが、繋がりがあるのは確かだろう。
諜報員のスキルで調べてみたら・・・飛行してる魔法少女はLv100。
相手は隠蔽スキルでこっちが調べているのは認識できてないだろう。
認識阻害の効果で正体までは見破れなかったが、あのレベルは間違いなくプレイヤーだ。
? もう一人Lv100の反応があった。えーっと・・・
「ッ!!・・・ッ!・・・ッ!!!」
こいつ等は私の腹筋を暗殺しに来たのか?
もう一人も魔法少女で色違い・・・ッ!
直ぐ近くにもLv28くらいの色違い魔法少女がいた・・・ッ!!
昨日までの情報収集では反応が無かったし、多分ついさっき現れたんだろう。
腹筋が完全崩壊した私は、暫く動けなくなった・・・
「・・・ッスーーーッ!」
よしだいぶ落ち着いた。
探知スキルであの魔法少女の動きは常に把握している。
・・・二手に分かれたか。片方は貴族区画、もう片方は離れたエリアへ移動。
囮役か。狙いは・・・貴族区画か?人質救出?
・・・ここであの魔法少女に恩でも売れば一緒に脱出できると考え、貴族区画へ移動。
やはりというかなんというか、貴族を人質に見張っている連中(正規の兵士じゃなく傭兵)を叩きのめしながら救出をしている。
青い方の魔法少女は・・・おい嘘でしょ、声まで原作アニメとかどんだけ私の腹筋を攻撃すれば気が済むんだ・・・ッ!!
・・・ゴホン。とにかく、青い魔法少女はネヴァン伯爵の使いだとか言って、人質の貴族を解放しているみたい。
ネヴァン・・・ネヴァン・・・えーっと確か、あぁ奥さんが左腕切り落とされたって噂の貴族か。
「クソ! おい誰でも良い!女を人質にしろ!」
おっとチャンス到来。
傭兵が適当な屋敷から人質を引っ張り出そうと動いたのを弓で狙いをつける。
「≪三枚貫き≫」
1度に3本の矢を同時発射し、それぞれ別の対象へ同時攻撃する弓系スキルで魔法少女達が取り逃した傭兵3人を射貫く。
「ハァ!?」「狙撃!?どこから・・・」
「≪頭蓋貫き≫」
ついでに傭兵たちのまとめ役らしい指揮官には脳ミソに矢をプレゼント。
武器は脅しの道具じゃない。こうなるのは覚悟の上でしょ?
「今のは・・・!?」
「弓使いのスキル・・・狙撃手か!」
やはり赤い魔法少女もプレイヤーか。今の狙撃で何が起こったかすぐ判断できている。
インベントリ空間から≪通信≫のスクロールを出して、赤い魔法少女を対象に連絡を入れる。
「≪通信≫。 そこの魔法少女、援護してあげる。代わりに私も脱出させて頂戴?」
『誰だテメー?』
「・・・魔法少女 ブラック」
魔法少女にはこう伝えておけば良いか。
≪頭蓋貫き≫
種別:攻撃技能/専用
制限:狙撃手専用
属性:物理
射程:装備している投射武器に依存
形状:射撃
相手の頭を狙って投射武器を発射するスキル。
命中すれば絶対にクリティカルヒットが発生し、奇襲攻撃であればさらに奇襲ダメージが加算される。
命中率は低いが、奇襲攻撃で成功すれば格上の相手でも、状況が覆されるダメージが約束される。