第38話
街に到着して最初の行動は伯爵へアポをとりに行く。
箒は乗用馬以上の速度で移動できるが、道行く人や馬車にぶつかって、怪我でもしたらつまらないので、ほどほどの速度で通り抜け、伯爵邸の番兵に都合のいい時間に面会したい旨の言伝を頼む。
門の前で少し待ったら、今すぐ会いたいと返事がきて、屋敷に通された。
伯爵邸の前庭を通るが・・・違和感がある。
これは・・・『庭師の魔女』の感覚か。
植木や芝が伸びすぎて、荒れている。貴族の庭ってもっと手入れされているものじゃないのか?
正面入り口のドアを開けると、家令らしい人が出迎えてくれた。
「こちらへ、ご案内します」
魔女帽子をインベントリ空間に放り込んで、家令の後についていくが・・・貴族の家ってこんなに質素な物か?
調度品の1つも無い・・・
使用人らしい人と一人もすれ違うことはない。
静かすぎる、がらんとした屋敷だ。
まぁ創作の中の勝手なイメージだし、こんなものなのか・・・?
「こちらでお待ちください」
部屋に通されると、応接室かな?
向かい合った4つのアームチェアにローテーブルと果物が盛られた器。
とりあえず一番手前のアームチェアに腰かけて待つ。
数分もせず、伯爵とティーセットが置かれたワゴンを押した老齢な使用人が入ってきた。
「待たせて済まない」
伯爵が対面の席に座り、目の前にお茶が出された。
伯爵は一口飲んで、私も勧められたので飲む・・・お茶の良し悪しは分からないが美味しいとは感じた。
「では、品を見せてほしい」
一息ついて、インベントリ空間から注文された500本のポーションをテーブルに置く。
「どうぞ。確認してください」
伯爵がポケットから片眼鏡を出して、観察。
多分アレも分析系の魔法の品なんだろうな。
「全て、優良品質か・・・問題ないな。すぐに残りの報酬を用意しよう」
「その前に聞いて良いですか?」
「・・・なんだね?」
「なんでこんなに商税が高いんです?」
この際だから、ズバリ聞かせてもらおう。
商税が高すぎる。他の税と比べるべくも無くだ。
「ドゥッチ村長から聞いた話だと、数年前から突然上がったって聞いてます」
数年前までは、商税は商店の純利益から1割半程度だったらしい。
しかし、今は4割まで引き上げられている。
「・・・情けない話だが、聞いてくれるか」
伯爵はお茶で口を湿らせてから語り始めた。
「もう5年近く前になる。
王太子であるイェルハルドが南方への征伐遠征を実行したのだ」
「征伐遠征?」
「お前たち異世界人に伝わるように言えば、侵略戦争だな。
当時はそれらしい大義名分があり、計画では1年で終わる・・・はずだった。
しかし、イェルハルドは何をトチ狂ったのか、5年も南方への遠征を実行し続けたのだ。
当然、戦費は嵩み・・・ヤツは我々貴族からも戦費の徴収を始めたのだ。
最初は南方から兵を取り戻すためなどとそれらしい事を言っていたので、私費で援助したが、だんだんと要求する金や物資が多くなり・・・
妻に娘を連れて領地に戻るよう手紙を送った後、もう援助はできないと断った・・・。
だが、ヤツは他の援助を断った貴族たちの見せしめとして、王都に住む私の妻の左腕を切り落とし、私に送り付けたのだ・・・!」
「ハァ!?」
マジ!?暴君かよ・・・
「切り落とされた左腕に添えられた手紙には、援助を断れば命はないと・・・。
貴殿から買い取ったこのポーションも・・・ヤツの無謀な遠征の支援に渡すことになっている・・・。
情けない話だが・・・私は・・・」
やーっぱこのポーション買い叩かれてたか・・・
「・・・上級王はどうなってるんです?」
「イェルハルドの反乱を受け、後宮へ幽閉されているらしい。
戴冠の儀には聖堂から受ける必要がある。
聖堂から戴冠を受けた上級王を殺せば、他の貴族が離反する大義名分になるからだろう」
うげー・・・最悪な国に定住決めちゃったよチクショウ。
「・・・伯爵。奥さんと娘さんを取り返せたら、どうです?」
「・・・なんだと?」
「伯爵が援助を断れないのは、二人が人質にとられているから・・・ですよね?」
「そうだ。だが、このパ・ブシカから王都まで何日の道のりだと思う。
それに、王都に近づこうとするだけでヤツは2人に何をするか・・・」
「とりあえず、二人を取り返せたらと仮定して考えてください」
私の言葉に少しだけ考えた後
「ヤツの要求は跳ね除けられる・・・。
欲を言えば、他の貴族たちの縁者も王都で人質になっている可能性がある。
それらを王都から脱出させることができれば・・・他の貴族と連携して、ヤツを倒せる」
「商税も1割にしてくれます?」
「い、一割は流石に行政に支障が出る・・・1割半に戻すのは約束する」
「ついでに救出に成功したら、ゲイリーウッズ村を私に下さい」
「 ・ ・ ・ ハァ!?」
「おや、奥さんと娘さんに対して開拓村1つ。どっちが大切です?」
どうせ統治がマトモにできてないなら、私がもらっても良いよねぇ?
「いや、無位無官の貴殿にそんな要求は」
「たしか、この国って『荘園制度』ありましたよねぇ?
聖堂とか豪商に領主が土地を貸して管理を代行させる制度」
暇なときにドゥッチ村長から借りた本の中に、法律関係のヤツもあった。
村長は簡易裁判官みたいな役割があるから、法律を知ってないとダメな立場だそうな。
いやーエリシアの身体ってちょっと勉強すると物事がすぐ覚えられて超楽だわ!(そこ、頭が空っぽだから詰めるスペースがあるとか考えるな?)
「いや、確かにあるが・・・!・・・えぇい分かった!
成功したらゲイリーウッズ村を貴殿の荘園と認めよう!
だが、成功するプランはあるのか?」
「私、Lv100ですよ?」
少なくとも、この世界ではそこらへんの兵士には負けるつもりは無い。
「Lv100が2人。それだけで勝算はあります」
いい加減、あのラーメン屋にも借りを返してもらおう。
≪属性狩り:悪≫
種別:強化魔法/専用
制限:僧侶系or神官系Lv7以上
属性:強化/付与
射程:0~15m
形状:対象指定
悪を打倒すると誓いを立てて、その誓いの下に対象へ強化を施す魔法。
付与された対象は悪のカルマ属性を持つ対象に対して追加ダメージを与えることができる。
ただし、悪属性を持つキャラクターにはこの魔法の対象にはできない