第37話
ドッキドキの納税タイムが終わり、無事村人たちは収穫祭を迎えることができた。
収穫祭では村の共有財産から酒が出され、料理も出し合いながら宴会するらしい。
って訳で、私も栽培した野菜をつかった料理・・・したかったんだけど
「主様は座っているだけでいいんですよ」
マイコニド達に仕事を盗られた。
座っているだけで次々料理が出てくる。
全員の納税が終わった後も徴税官は何度も魔法の天秤で私が納めた薬草を計っていたが、結果は変わらず。
何か問題あります?って聞いてみたら、慌てて荷物纏めて帰っていったし、なんだったんだ?
まぁ良いか気にしないで。
◆
収穫祭の宴会が終わり、次の日。
村は冬支度に入る。
炭の増産をして、保存食の在庫を確認し、各家ごとに足りない品をリストに纏めて交易で仕入れる。
村の防壁は、もう7割程度完成している。
新年が明けた春の手前には完成する予定だそうな。
防壁建築が終わったら、村の道路整備に入ろっかな。
ぶっちゃけ雨降っただけで泥だらけだと、作業の邪魔だし効率が悪い。
泥の道じゃ人も荷車もスピードが落ちるし体力も無駄に消費するから、適当な砕石とかで舗装するか。
たしか沢なら建材にはならないけど小石が結構あったし、それ使えば良いか。
冬支度の合間に伯爵から依頼された良品質以上の低位治癒の水薬500本。
これをササっと造って箱詰めし、インベントリ空間へ放り込む。
冬が近づくのを感じると、出てくる妖精たちも顔ぶれが変わってる。
霜妖精、風妖精、氷雪系属性の妖精が多く見える。
嫌だなぁ・・・余計寒くなる。
ってか妖精の数も前見た時より多くなってるし・・・森の奥はどうなってるんだ?
冬支度の最中、保存食の燻製肉をマイコニド達と作っていた時の事。
「エリシアさん!」
村長に呼び出された。
「以前に仰っていた使用人ですけど」
・・・?・・・あー!
適当に条件つけてた時にそんなこと言ってたな!私!マイコニド達で事足りるし断って良いかな。
「この子を自由に使ってやってください」
そう言って村長に紹介されたのは、村の女の子ベッティちゃん(7歳)。
「村長、ちょっと」
手招きして村長をベッティちゃんから離す。
「なんです?」
「なんです?じゃないわよ!若すぎるわよ!児童労働させろっての!?」
「じど・・・?」
話を聞くと、この国じゃ小学生くらいの年齢でもどこかの職人とか商人の所に住み込みで働くのは当たり前だそうで。
児童福祉法とか・・・あるわけ無いか・・・
「がんばって働きます」
ベッティちゃんはそう言うけど・・・
えぇー・・・。小学生に働かせるとか抵抗あるんだけど。
来るとしても高校生くらいと思ってた・・・
「・・・アカネ」
「はい。主様」
最近は私が呼ぶとすぐに出てきてくれる。
「手が空いてる真菌の魔術師か神官でこの子に勉強教えてあげて。
店番を任せられるくらいには」
「畏まりました」
ベッティちゃんはアカネに連れられて、マイコニド達の宿舎へ。
「村長。あの子は預かるけど、二度と子供を差し出す真似はやめて」
「は、はい・・・」
ハァー・・・。この世界って色々不便も面倒も多すぎる。
・・・よし。とりあえず、切り替えるか。
今、私が書いているのは、ポーションのレシピ。
この世界のポーションの質はひど過ぎるので、とりあえず低レベルでも安定して品質を改善できるレシピを書いている。
高品質なポーションを作るレシピがあったとしても、それが機械的精密さを要求されたら量産なんて不可能だろう。
必要なのは、誰でも模倣できる程度の難易度で安定して作れるレシピだ。
最低でもポーションの価格をそのままに品質を上げられたら僥倖。
最良で全体のポーションや治療費が下がれば良いかな。
「っと。この手順だと安定性悪いから、この手順に変えて・・・」
≪薬学知識≫スキルは本来、調合の基礎難易度を下げるだけの自動発動スキルだが、知識と名の付くスキルは私が本来知らないはずの知識を与えてくれるようで、この世界に来る前なら薬剤師の資格も持ってない私でもこの世界では薬学の権威のような知識が頭に入っている。
このレシピを書き終えたら、伯爵にポーションを届けるついでに街にある『魔道組合』へこのレシピを公開する予定だ。
別に名声が欲しいとか、ちやほやされたいとは・・・ちょっとは考えてるが、このレシピが評価されないなら、この世界はその程度なんだろう。
本当に自由にやらせてもらうだけだ。
◆
季節は冬。
今、私は箒に乗ってパ・ブシカの街へ飛行している。
既に伯爵には完成の報告を使い魔で送ったので、ポーションをインベントリ空間に入れた状態で直接届けるつもりだ。
「さむ・・・」
マイコニド達が狩猟した魔獣の毛皮コートでも完全な防寒は無理か。
魔法付与師でもいれば、適当な材料で防寒の付与ができるんだけど・・・
この辺りでは雪がちらつき始め、積雪まではいかないが舗装されていない道では、溶けた雪が泥になって足を取られる。
なら、飛行した方がずっと速い。
アカネはついて行きたがったが、寒冷季節は植物系クリーチャーであるマイコニド達には堪えるようで、無理せず拠点に待機を言い渡してある。
飛行による直線距離なら、早朝に出ればギリギリ日暮れ前には街に到着できるのは使い魔文通で実証済み。
ほら、日没を知らせる聖堂の鐘を鳴らす鐘楼が見えてきた。
街の防壁を飛び越して直接入れはするが、不審人物と思われたくないし街の入り口前で着地。
「おわっ!?」
おっと番兵の目の前に降り立ったせいで驚かせてしまったか。
「伯爵の依頼で来ました」
伯爵から受け取った注文書を番兵に見せると
「あぁ。確認した。 ようこそパ・ブシカの街へ」
あっさり入ることができた。
さて、久しぶりにトールさんのラーメンでも食べるか。
≪天気占い≫
種別:情報魔法/占い師専用
制限:占い師Lv2
属性:情報
射程:自身
形状:文章
文字通り天気を占う魔法。
行使すると現在時間から1週間後の天気の移り変わりを把握でき、その精度は占い師のレベルに依存。
ゲイリーウッズ村ではエリシアの天気予報は貴重な情報なのだが、本人は『お天気お姉さん』かよと情報の価値を理解していない




