第36話
収穫が終わって数日後。
見張りの真菌の弓兵が街道方面から誰かが来ることを発見した。
村長と確認したところ、旗の紋章から『徴税官』が来たとのこと。
「徴税官?」
「領主様の代わりに税を取り立てる者です」
村の税は商税以外は村の作物で物納している。
で、徴税官の役割は2つ。
『物納された作物から計算して税を取り立てる事』
製粉した小麦や野菜などを現金換算してそのまま税として持っていくらしい。
もう一つが
『税を支払えなかった人間に労役を科す』
要するに、足りない分は冬の間に公共工事の出稼ぎで強制労働と。
こっわ。この世界に労働基準法とか・・・あるわけないか
トールさんは・・・アレか。冒険者を副業にしてるから、モンスター退治の懸賞金で市民税とか払ってるのかな。
で、徴税官とやらが村に到着。
「ゲイリーウッズ村の皆さん。今年も税を納める時期がやってまいりました」
伯爵のサイン入りの書状を広げ、不正横領はしないだのどうのこうの宣誓をして、公的に徴税官である証を立てるのがこの国のやり方らしい。
長ったらしい宣誓が終わり、ようやく納税かと思ったら
「ゲイリーウッズのエリシア殿」
徴税官から呼び出された。
「なんですか?」
「伯爵様より、書状をお預かりしています」
なんだ?まさかアレか!?下手に断っちゃいけないタイプの方か!?
徴税官が巻物を広げると・・・なんだか難しい文章で書かれた書類。
えーっと・・・この国の文字は明るくないが・・・
長ったらしい上に何だコレ?装飾語か?
読みにくい文章で書かれた書類っぽいが・・・営業許可証っぽい?
大雑把に読むと
・ゲイリーウッズ村に店舗出して良いよ
・開業から3年間は商税は取らないよ
・アポ取ってくれたら商品を伯爵家に売り込んで良いよ
・商品開発にお金が必要なら伯爵家が貸すよ
・イデア王国で禁止してる物品は売ったらダメ(ご禁制品は別紙記載)
・権利関係で後ろ盾が欲しいときは伯爵家が力を貸すよ
・他の場所に2号店とか出す時は届け出を出してね
・廃業する時は届け出を出してね
・商税を払う時はちゃんと帳簿もセットで提出してね
・他の人にこの書類売ったり譲ったりしないでね
大体こんな物か。
「次に・・・」
まだあるんだ
営業許可証を渡された次は・・・なんだコレ『狩猟免状』?
こっちも大雑把に意味を読み解くと
・ゲイリーウッズ村より北の森で自由にモンスターを狩って良いよ
・村人の要請があったらモンスター退治を個人で受けて良いよ
・狩った獲物は自由に加工販売して良いよ
・領内で狩りを続ける限り、毎年狩猟手当に金貨6枚支給するよ
・この書類を別の誰かに売ったり譲ったりしないでね
「それと」
最後に渡されたのは・・・発注書か。
注文されたのは品質『良』以上の低位治癒の水薬500本
納期は来年の夏まで、着手金に金貨2枚、成功報酬で金貨3枚
納期に間に合わないまたは断る場合は手付金を返還すること・・・なるほど
材料は収穫したばかりだし、良品質の低位治癒の水薬500本なら本気を出さなくても1週間程度で作れる。
余裕で達成できるので引き受けておこう。
「分かりました。お引き受けします」
「では、こちらが着手金となります」
金貨2枚を受けとった後、納税開始。
魔法がかかった天秤に野菜や小麦粉が積まれ、金額換算が繰り返される。
あの天秤、どうやら重さではなく皿に乗った物品の価値を計る魔法らしい。
天秤の傾きで、納められた物品が税と等しいかどうか計る・・・と
贋金や嵩増しした袋なんて乗っければ一発でバレるらしい
またこの世界固有の魔法か・・・
待っている間に、貼り出された税金が書かれた表を確認。
えーっと・・・ふむふむなるほど。
商税はともかく人頭税と地税はえらく安いな。
「次」
私の番が来た。
えーっと人頭税が一人頭この額だから私+マイコニド総数分をかけて・・・
そこに地税が面積当たりこの額だから・・・大体こんなぐらいか
私が天秤にある物を乗っけると、天秤の皿がズドンと音を立てて地面に降りた。
天秤が示したのは、税と比べて私が乗っけた物の価値が『高すぎる』と・・・
「アレェ・・・?」
私が天秤に乗せたのは、エルドラド・クロニクルから持ち込み、この世界で最初にプランターで育てた薬草の束。
低位から高位の治癒の水薬を調合するための材料の1つとして常に必要な薬草だが、低位の調合なら現地の薬草で事足りるし、簡単に育てられるので物納しても問題無いくらい有り余ってる。
当然、農夫のスキルで品質は『優良』の状態で収穫したので、コレを材料にポーションを作成すると成功率がものすごく上がる。
エルドラド・クロニクルなら探せば簡単に買えるアイテムなんだが・・・しまったな。
エルドラド・クロニクルの価値で考えたらダメなヤツだ。
「や、やり直しってできます?」
「え・・・え!?」
徴税官は見事な二度見を披露したのを勝手にイエスと判断。
薬草の数を調整して・・・あぁダメだ。半分でも多すぎるのか。四分の一は・・・?よし!だいぶ近いぞ!1個減らして、後はこっちの世界のお金を積んで微調整すれば・・・!
「はい!どうぞ!」
ピッタリ納税額に合わせたぞ!
「あ・・・はい」
なんか呆然とした顔してるけど、無事納税できたぜ!
≪草刈り≫
種別:攻撃/生産スキル
制限:農夫Lv2
属性:斬撃/物理
射程:武器
形状:斬撃
手に持った斬撃武器で草を刈り取るように薙ぎ払うスキル。
植物系クリーチャーに追加ダメージを与える効果を持っており、斬撃属性武器を装備しないと使用できない。
畑などの生産エリアでは植物素材や農作物の採集が可能となる。