第34話
夏の残暑が過ぎ去り、本格的に秋に入るころ。
ついに、私の家が完成した。
「なんとか、収穫時期の前に仕上げられたぜ」
「おぉー」
目の前には立派な2階建ての一軒家。
石造りの立派な家だ!
早速中に入ってみる
・・・家具が無い
「これから家具を運び入れるからな」
って事で、家具工房からベッドや机を運び入れる。
流石に大きな家具はインベントリ空間には入らないので、協力して運び入れたり、家の中で組み立てたりする。
クローゼットやベッド等の生活家具は2階。
1階は研究室と病室、売店として使う予定だ。
診療所&薬屋って所かな。
表口は村の中心へ続く道に面しており、裏口はマイコニド達の宿舎へ続く。
表口直ぐは薬屋、その右手のドアの先が診療所(私か真菌の神官が常駐する予定)。
薬屋エリアのカウンターを挟んだ奥のドアが研究室と調合部屋。
その更に奥が生活スペースにつながる廊下と階段であり、2階は完全に私の住居。
「村長の家より立派になっちまったんじゃね?」
「まぁ・・・そうかも」
村長の家、木造平屋だったなぁ。
でも、私の要望を出来る限り詰め込んだ結果がコレなのだ。
「じゃ、数日住んでみて、何か問題があったら連絡してくれ」
家具の運び入れが終わり、大工の皆は解散。
今日から宿暮らしから、持ち家だーーーー!
2階は土足厳禁で、自室はバロメッツから剥いだ羊毛で作った絨毯を敷いているので、ふっかふかだ。
ベッドも藁入りベッドではなくバロメッツ羊毛から作ったマットとかけ布団で夏も冬も快適・・・になると思う。
あと、洗濯物を干せるバルコニーまである!
バルコニーの真下は病室だ。
1階の研究室。
石でできた壁と床は何かあった時、最悪はこの部屋だけに収まるように特に頑丈にしてもらうよう頼んである。
私の調合する物は回復だけでなく、『爆薬』や『猛毒』も含まれる。
危険物を多く取り扱う予定なので、関係者以外立ち入り禁止を言い渡してある。
風呂・・・はサウナと水風呂。
村に公衆浴場なんて無い。基本は自前で沸かしたお湯とかを使って手ぬぐいとかで拭くとかそんなヤツ。
村人たちは慣れてるけど、日本出身の私はちょっと耐えられないので、後でお風呂を自前で作る。
キッチン・・・って言うかコレは土間と言うべきか?
電気やガスとか無いから炭火調理が普通だし、土間になるのは仕方ないか。
生憎と火属性魔法を応用して火加減調整なんて芸当は、以前に実験してみた結果ダメだった。
ずっと前に≪炸裂火球≫を発射せずに熱源として利用する実験をしたのだが、魔法の発動プロセス自体に発射が組み込まれているのでどうにもできず、実験用のカマドを吹き飛ばした。
結論として、攻撃用の魔法はそれ以外に利用すると暴発すると結論付け、以後は攻撃魔法を直接生活に組み込むのは諦めてる。
一応、氷柱を作って攻撃するとかの魔法は何もない地面をターゲットにすれば安全に氷を採取できるので、間接的な利用は検討中。
せっかく造ってもらった新居を吹っ飛ばしたくはないので、魔法の使用は慎重にしている。
村の灯りは基本は蝋燭とか松明。
インベントリにあるアイテムも、暗闇で行動できるようなアイテムは手持ちに無い。
暗闇を照らす魔法も私の習得しているクラスでは使えないので、代わりとなる植物で代用する。
「≪植物召喚:月光百合≫」
日光を貯蓄して、夜に月のように輝く植物。
ゲームでは普通の百合に混じって生息しているので、夜の時間帯しか見つけることができない。
ぶっちゃけるとオシャレ植物なだけでそれ以上の価値は無い。
単なるコレクション要素の1種なのだが、コレはコレでオシャレなので鉢に植えて飾る。
フレーバーテキストによると乾燥に弱いので、小まめに水やりしないと萎れてしまうらしい。
次に薬屋エリア。
空っぽの戸棚やテーブルにはこれから商品を詰め込む予定だ。
普段はインベントリ空間に押し込んでた商品をようやくココで放出できる・・・。
早速売れ筋商品である農薬類と肥料を店の奥の方に積む。
・・・ガーデニングコーナーかな。可笑しいな、ポーション売りなのに、いつの間にか花屋かホームセンターになってる気がする。
気を取り直して、虫除けや獣除けの香水型魔法薬、各種状態異常への対応薬、治癒の水薬・・・まぁ積んでおくのはこの辺かな。
湿布とか軟膏とかも、様子を見て商品に追加しても良いかな。
カウンター裏には店用の金庫を設置しており、運転資金を詰め込んでいる。
この運転資金は、7割くらいマイコニド達が稼いでくれた物だ。
往診で周辺の村落などを回って治療をした対価だったり、害獣退治の報酬だったり、まぁ色々とマイコニド達のおかげで思った以上の資金がアカネの元に集中しており、それを私が借りた。
アカネは献上するように差し出してくれたが、タダで受け取りたくないので、何か返したいと伝えたら・・・
「でしたら、祠のような物でも良いので、祈りの場所を」
マイコニドって信心深い種族だったっけ?
真菌の神官が居るから信仰心はあっても不思議はないか。
「オッケー」
って事で、要望を聞いたらご神体以外は様式は何でも良いらしいので、林の一部を切り拓き、木材を使って≪庭園作成≫で神社っぽいのを作った。
庭園って名の付く物なら洋風でも和風でも作れるからこの魔法は便利だ。
材料があれば枯山水庭園とか造れるし。
「で、ご神体はどうするの?」
「あ、はい。既に準備してます」
そう言って布に覆われた小さな像(?)のような物を本殿に収めて扉を閉じた。
「ところで宗派とか大丈夫?」
「あ、大丈夫です。主様の定めた通りのモノで」
「ふーん」
ご神体を覗くのは無礼になりそうだし、リアルで信仰がそのまま火力になる聖職者系クラスが実在するこの世界なら、神を怒らせたら降臨して天罰を下しそうなので、深くは突っ込まないでおこう。
≪天罰≫
種別:攻撃魔法/専用
制限:神官or僧侶系最上位クラスLv18以上
属性:神聖
射程:1~1000m
最大捕捉人数:数千人
形状:信仰する神格やイデオロギーに依存
神の化身を顕現させ、その神威によって地上へ罰を下す信仰系最上位の攻撃魔法。
効果や形状は信仰する神やイデオロギーの逸話や神話に沿って展開されるため千差万別。
ただし、この魔法の対象は術者以外は信仰から外れている存在全てであるため、ほぼ無差別攻撃。