第31話
夏のある日。
今日は森の奥から魔獣型モンスターが出てきたと村の狩人から目撃情報があったので、マイコニド達と共に山狩りに向かう。
迷宮核破壊の影響で森の奥では異常な量の魔力が漂い、妖精の大量発生や魔獣の発生がマイコニド達から報告されていたので、いつでも準備は出来ていた。
「で、どんな姿なの?」
「猪に似ており、頭部に2本の鋭い角、あとかなり大きいと」
アカネから情報を貰い、狩人の狩場へ入る。
≪敵意感知≫で反応を探りながら、マイコニド達を斥候へ走らせる。
マイコニドが斥候に出て数十分ほどしてアカネに情報が伝わったようだ。
「いました。北東方向、距離300m。こっちに向かっているそうです」
「分かった」
杖を出して迎え撃つ用意。
「≪植物魔法:足刈茨≫≪植物巨大化≫」
敵対者に巻き付く茨を召喚し、巨大化の魔法で強化。
「きます」
アカネの言葉と共に現れたのは、体高3mはあるデカイ猪っぽい魔獣型モンスター。
こっちを見てお構いなしに突っ込んできたおかげで巨大化した茨の罠に引っ掛かって身動きが取れなくなる・・・が、暴れて引き剥がそうとしてる。
棘が刺さって血が出ているが、時間をかけたら破られそうだな。
「≪抹殺の呪い≫」
中途半端な魔法で肉と毛皮を台無しにしたくないので、即死魔法でトドメを刺す。
抹殺の呪いを受けた巨大猪モドキは、即座に生命活動を停止して倒れ伏した。
「では、解体を始めますね」
マイコニド達がナイフで解体を始めたので、後は任せて村へ戻る。
◆
村へ戻れば、他所の村から来た荷車を牽いたロバを見かけた。
ゴブリンの襲撃が無くなり、近隣の村同士での取引が再開され、村の経済活動が元に戻り始めたから、そのおかげかな。
私も暇なときは露店の真似をしてみたり、直接話しかけてポーションを売り込んでみたりしている。
一番人気の商品?除草剤と害虫駆除剤でした。
治癒の水薬は高いから最初こそ売れたけど、消費期限が無限なのでストック分だけ売れたら後は誰も買わなくなった。
あと、真菌の神官が怪我の治療を請け負うので、大抵の怪我や病気は魔法で治るし、最近では往診を始めたらしく、他数人の護衛と共に近隣の村へ直接出向いて治療もやってる。
最大の商売敵は身内だった・・・
「主殿ォ!」
拠点に戻り、野良仕事を再開しようとすると研究を担当させてた真菌の魔術師が声をかけてきた。
そう言えば、ダンジョンから持ち帰ったマジックアイテムの鑑定も頼んでたっけ。
「頼まれていたマジックアイテムの鑑定が全て完了しました。
ご確認くださいな」
そう言われて、研究小屋(危険な薬品とか使うので隔離用に建て増しした)に案内された。
「呪われた魔法の品というのは危険ですからな。
特にオーガジェネラルが持っていたという斧。
コレは一番の難物でしたわ」
「オーガジェネラルが仲間のオーガにトドメを刺したら、怪物に変貌したけど、どういう効果なの?」
「鑑定の結果、『悪魔将軍の処刑斧』と出ました。
効果はこの斧で他者を殺害した時、殺害された犠牲者の魂を糧に悪魔が斧の所有者に乗り移り、力を増大させる効果があります。
犠牲者が多くなるほどに、乗り移った悪魔はその力を増大させ、最終的に所有者を乗っ取り、悪魔が受肉されます」
「呪われた武器じゃないの・・・」
武器として使うにも、悪魔は混沌・悪属性だから、秩序属性のマイコニド達と相性も悪いし・・・なにより悪魔に乗り移られるなんてまっぴらだ。
「破壊しましょう。手に負える品じゃないし、ヤバいヤツの手に渡っても面倒よ」
「それが宜しいかと」
悪魔将軍の処刑斧、数値的性能だけ見れば良い物だが効果を見ればデメリットが強すぎる。
テーブルに置かれた悪魔将軍の処刑斧に魔法を行使。
「≪魔法効果破壊≫」
魔法効果を破壊すれば、斧はただの鉄くずとして砕け散った。
「他のアイテムは?」
「他は特に問題もありません。役立つかは別として、呪いの品はソレ一つです」
そう言って戸棚から魔法のアイテムを鑑定書付きで教えてくれた。
「こちらは『迅速の指輪』。身に着けていると僅かに身のこなしが素早くなります。
『暗幕外套』は内ポケットに物を入れると、他の誰も物が入っていると気づかれません。
『魔弾撃ちの髪留め』はこれ自体が小型の杖としての役割を持っており、手で持っていれば、杖を必要とする魔法を行使できます。
『縫い留め鉛筆』、コレで布や革に線を描くと魔法の糸で下にある他の物と縫い付けることができます。ただし、消耗品ですが。
『警笛の像』。荷物の近くで起動すると、荷物が持ち去られた時に大きな音を出して知らせてくれます」
うーん。どれもあんまりパッとしない品ばかり。
迅速の指輪は、マイコニドの誰かにでも持たせるか。
暗幕外套は・・・私の私服にしちゃお。
魔弾撃ちの髪留めは護身用としては便利そうだけど、性能なら私の杖が上だし、インベントリ空間には予備の杖もあるから要らないかな。
適当にアカネか真菌の魔術師の誰かに持たせよう。
縫い留め鉛筆は・・・仕立屋のユルデンス夫妻に渡そう。
あの夫婦なら有効活用するだろう。
警笛の像・・・まんま警報装置じゃん。
とりあえず銀の木や仙桃の苗があるエリアに設置して、盗人対策にする。
「思ったより・・・ショボい」
「まぁ、こんな物でしょう。他は銀のインゴット3本、鋼のインゴット2本、金の延棒が1つ、妖精銀で織られたタペストリー、鋼の剣が一振り。
宝石類や装飾品はこの国の相場を見てみないと分かりませんが・・・まぁ特に呪いや魔法はありませんでしたな」
宝石類は価値があるのもそうだが、魔法の素材として有用なアイテムだから、大粒で品質が良い物は緩衝材を入れた小箱に保管して、残りは売り払う。
鋼の剣もいつかは魔法付与を施してマイコニドの誰かに渡して良いかな。
タペストリーは・・・妖精銀でも正直いらないから、これも売却。
アクセサリー類も強力な魔法付与を施せたら有効活用できるんだけど・・・それもできないから全部売却かな。
「後で適当なキャラバンを組んでこれらを街に売ってきて」
「分かりました」
ダンジョンの戦利品はコレで全部か。
他はオーガソルジャーの鎧とかそういった鉄屑だから、溶かして再利用するか。
≪魔法効果破壊≫
種別:共通魔法
制限:Lv12以上の魔法系クラス
属性:破壊
射程距離:接触
形状:なし
魔法が付与されたアイテムを破壊する魔法。
破棄することができない呪いのアイテムや装備は、破壊する以外に逃れる術は無い。
この魔法は自身が所有する、もしくは誰も所有権を主張していないアイテムしか対象にできない。