第30話
夏の暑さが続く日々。
イタズラしに来る邪妖精の退治を繰り返しながら、拠点で新たな実験を開始した。
「主様、コレは・・・?」
「バロメッツ」
「メェ~」
バロメッツ。植物系クリーチャーで、戦闘力は皆無。
太い茎に支えられているのは羊の頭と胴体で足は無い。
羊の部分は周りの植物を食べて成長するが、足が無いのでその場から動けず、いずれ飢えて枯れる・・・という、なんでこんなのが生まれたのか分からない謎植物。
ナイフで毛を剃ってやれば羊毛が手に入り、絞めて解体すれば肉も手に入る。
味は羊肉ではなくナゼかカニの味がするとか。
除草剤の効果は高かったが、生き残っている雑草を毎回収穫の鎌で刈り取りをして繊維は獲得していた。
しかし雑草から採れる繊維では、やはり品質に限界があるらしく、タオルや肌着を作ると、どうしても質の悪さが目についてしまう。
かといって、自前で私が求める品質を買うとなると・・・この世界じゃ天井知らずだ。
せめて素材だけでも自前で用意しようと召喚してみた。
「周りの雑草は勝手に食べるし、世話は簡単だから水やりと毛刈りだけすれば良いんじゃない?狩りが出来なくなったら、絞めて食料にできるし」
「メェ!?」
「そうですね。そう考えると、有用ですね」
「メ、メェェ・・・・」
リアルでは伝説の植物なので、実際に育ててみないと分からないが、上手くいけば村の名産になるかもしれない。
綿花農場に取って代わる、バロメッツ農園。食べられる商品作物だ。
とりあえず5株ほど距離を離して育成を開始。
雑草と一部は鶏の家畜用飼料を実験的に与えてみる。
干し草も食べるかな?まぁ羊っぽいし食べるだろう。
次に、プランターを作ってエルドラド・クロニクルから持ち込んだ高難易度な植物を育てていく。
これらは高級ポーションの材料になり、単体で使用しても強力な効果と副作用を持つ植物だ。
まずは『アスフォデルス』。
高難易度を誇る『冥界』の特定エリアでしか入手できない花で、どんな不死者でも耐性を無視して昇天させる効果を持つ。
不死者は神官や僧侶が相手するのが一番良いが、都合が悪い時もあるだろう。
冒険者相手にコレを生成したポーションを売り込むのも良いだろう。
次に『仙桃』の苗。
ぱっと見は桃の木だが、仙桃1つでも美味で高い効果を持つ高級アイテム。
西遊記の孫悟空が盗み食いして不老不死になったのは有名な話だが、ゲームでは蘇生用ポーションの材料。
大量に食べても不老不死にはならないように設定では弱体化されていた。
ただ、コレの成長には物凄い時間が掛かるので気長に育てる。
『銀の木』の苗。
文字通り銀でできた木の苗。
成長速度はものすごく遅いが、この木の枝を炉で溶かせば『妖精銀』になる。
妖精銀の装備はファンタジーのド定番と言っていいアイテムで、この世界じゃ超高級素材。欲しい人間は大金を積むだろう。
これは薬にならないが、銀の木の枝は妖精たちの楽園に通じる扉を開けるキーアイテムにもなるため、高レベルの妖精使いには必要な素材だ。
『花咲くシダ』。
幸運を呼び込む花を咲かせるシダ植物。
本来はシダ植物は花をつけないが、この植物だけは例外で花を咲かせる。
高級回復ポーションの材料で、コレは結構成長が早いので、量産の準備も並行して進める。
他にも植えたい植物はあるが、開墾も全て完了していないし、時期を逃した植物もあるので気長に準備を進める。
邪妖精達にイタズラされないように、マイコニド達の見回りも強化してもらい、私も見回りには参加する。
次の日見回りをしていたら、邪妖精たちが銀の木の苗を囲んでなんか崇拝してた。
「じょおうサマ~」「われラノはは~」
あぁ、妖精たちの楽園を支配する妖精女王も、あの銀の木の枝を使えば会うことができたっけ。
邪妖精も妖精の分類に入るから、妖精女王を崇拝しているのか。
銀の木が十分に成長するまで何年もかかるが、妖精たちにとって時間の経過など気にもしないだろう。
とりあえず、崇拝している間はイタズラとかもせず大人しいのでそのままにしておいた。
その次の日、銀の木を植えていた鉢植えは邪妖精達が勝手に世話を始めた。
動かさないように見張ってはいるが、妖精の楽園に向かいたいのは妖精達が持つ帰巣本能?
妖精達の楽園にはゲームで行った事があるが、そこはキチンとした帰り道は無く、時間軸も滅茶苦茶な世界。
遠い過去からはるか先の未来まで連続した世界で、迷い込んだ人間は正規の方法で戻る手段を見つけなければ、未来永劫時間の外側で彷徨うことになる。
オマケにかの地では妖精たちは不滅の存在となっているため、1回妖精たちと敵対的になれば勝ち目が無くなる。
シナリオ内では妖精を怒らせた迷い人が、楽園の中で妖精たちの『遊具』にされるシーンもあった。
とりあえず、邪妖精が作業の邪魔をしないなら、枝の1本程度なら分けてあげるのも考えておこう。
妖精達の楽園には特に用事も無いし、私の目的は妖精銀だけだ。
数日ほど邪妖精たちが銀の木を世話していると、邪妖精の中に別種の妖精が混じるときがあった。
風妖精か。他にも土妖精や水妖精も世話に参加している。
魔力の影響で妖精種が増えたのか・・・丘向こうの森の奥はどんな魔境になってるか想像したくないな。
風妖精は邪妖精と同じくイタズラ好きだが、土妖精と水妖精は比較的穏やかな気質の妖精。
まぁ、人間については無知で好奇心旺盛なのは変わらないので、遊びに誘う感覚で土に埋めたり水に沈めたりしてくるけど。
銀の木は妖精を大人しくしてくれる意外な活躍を見せてくれた。
≪妖精召喚≫
種別:召喚/専用
制限:妖精使いクラス習得
属性:召喚
術者と契約した任意の妖精を召喚する魔法。
一定時間、召喚された妖精は術者の代わりに魔法を行使して戦闘を行う。
高位の妖精との契約には特殊なアイテムを使用する必要がある。