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閑話2『とある女狩人の話』

本編のストックが尽きたので、番外編で許してください

【女狩人ジリア視点】


 私は北地(ノースランド)にある巨人族(ギガス)(いかづち)の氏族の狩人。

 私の務めは里長が定めた掟に従い、南にある針葉樹林で仲間たちと共に巨獣(メガ・ビースト)を狩り、里に持ち帰る事だ。

 北地は常に雪が溶けることが無く、過酷な環境だがモンスターも条件は同じだ。

 モンスターすら住み着くことができない極寒の大地だからこそ、我らはそこに定住し、過酷な自然の試練で技と力を磨き、試練を乗り越えた強者だけが、名誉ある狩りに参加できる。


 それは良く晴れた日の事だった。

 昨日の夕方から吹き荒れたブリザードを狩人小屋で一晩やり過ごし、獲物を積んだソリをノースプローガ(トナカイに似た大型の家畜)に牽かせていると、我々とは違う足跡があった。

 私達より小さい足跡。私達の共通認識で強欲なドワーフ共が真っ先に思い浮かんだ。


 狩場である針葉樹林のさらに南の山岳地帯には、黄金に目が眩んだ愚かなドワーフ共の国がある。

 奴らは南にある人間の国々との取引で金を集めるのに飽き足らず、先祖との盟約で取り決めた狩場にまで手を出し、巨獣が密猟される事件があった。

 また奴らが密猟しようと入り込んだのか。


 雪に残された足跡を追うと、黒いモノを見つけた。

 確かめてみると・・・黒い髪をした女だ。それも北地ではありえない薄着で倒れている。

「ドワーフか?」

「いや、コイツは人間(ヒューム)だ。ドワーフはもっと足が短くて背が低い」


「グ・・・ゥ」

 私達の声が聞こえたのか、倒れていた人間の女が僅かに呻いた。

「おい、生きているぞ!」

「急いでソリに乗せろ!凍え死んじまう!」

 仲間の一人が獲物を積んだソリに女を乗せ、毛布で包む。

「ヤァ!ヤァ!ヤァ!」

 鞭を入れてソリを急かし、里へ着いたら獲物を解体所に持ち込むより先に女を癒し手(ヒーラー)の家へ運び込んだ。


「冷気にやられてるね。安心しな、死にはしないよ」

 巨人族では数少ない魔法の使い手であるオババが、生命力増強の魔法を行使することで、女は手足を切り落とさずに済んだ。


 仲間の一人が女を見張り、私達は里長へ報告に向かう。


「戻ったか。それで、人間の女を連れてきたのはどういうことだ?」

 里長のエフライム。里のリーダーであり、我らの中では最強の狩人。

 その力の源である戦斧は、落雷の如き閃光の一撃を放つ魔法の武具。

 その自慢の戦斧を磨きながら私を待っていたようだ。


「凍えて死にかけていたため、見捨てるのは忍びなく・・・」

「そうか」

 里長はそう短く返した後

「だが、ドワーフ共の間者である可能性もある。

 しばらくお前の家で様子を見て、問題が無ければ南へ送り返してやれ」

「はい」


 里長との面会が終わり、様子を見に行くと女が目を覚ましたようだ。

「ここはぁ・・・どこですかぁ?」

 やや間延びした口調、長い黒髪に黒い瞳、身体も細く肌が白いな。

「巨人族、雷の氏族の里だ。どこから来た?人間」

「ぎがす・・・?えぇとぉ。日本の札幌ってぇ所に住んでたんですけどぉ・・・」

 ニホン?サッポロ?人間の国には詳しくないが、聞いたこと無いな。北地から遠い国かもしれん。


「ゲームの途中で寝落ちしちゃってぇ、目が覚めたら真っ暗な吹雪の中でぇ・・・。

 助けてもらってありがとうございますぅ」

「そうか。よく分からんが、これから私がお前の面倒を見ることになった。

 狩人のジリアだ。お前の名前は?」

「あ。はい。えーっと・・・」

 女は数秒だけ視線を彷徨わせ

「イチホってぇ呼んでください」

「イチホか。分かった」

「アバターの名前だと、ちょっと変な名前なのでリアルネームの方が自然ですよねぇ・・・」

 あばたー?りあるねーむ?何事かを呟いた後、再び眠ったようだ。


 イチホを保護して次の日。イチホを家に入れ、私の家にイチホの寝床を用意した。

「おぉー。綿のベッドですかぁ」

「綿ではなく家畜の毛を詰めた物だ。人間のお前なら小さくて済むからな」

「巨人族ってぇ、全員5m超えの身長ばかりですからねぇ。小人になった気分ですよぉ」

 気にした事は無いが、人間と比べたら私達はかなり大きいようだ。

 めーとる?というのは何が基準か知らんが長さの単位らしい。


「次の狩りまでは休みだ。その間にお前もこの里に慣れてもらう」

「助かりますぅ。できれば、助けてくれたお礼もしたいですけどぉ」

 礼か。そうは言っても、見るからに小さく細身で、狩りの役に立つとは思えん。


 魔道(マギア)の適性を持つ者が少ない巨人族は、どの氏族においても肉体的強さを尊ぶ。

 獲物を安定して狩る強者こそ誇り高い巨人族であり、姑息に獲物を掠め取る者や金銭で楽をする者は軽蔑される。

 魔道の適性を持つ者も極稀に生まれるが、軟弱な攻撃魔法などより、鍛え抜かれた巨人族の肉体から繰り出される一撃の方が、確実に巨獣を仕留められる。

 オババは治癒魔法を習得しているから、例外中の例外だな。


「細身で弱そうだが、イチホは治癒の魔法などが使えるのか?」

「あー。魔法は使えますけど治癒系は使えませんねぇ・・・。

 ただぁ、私にも狩りの間接的なお手伝いはできますよぉ」

「攻撃魔法か?巨獣の体力と生命力は、軟弱な攻撃魔法など何発受けても怯まないぞ」

「いえいえ~魔法付与(エンチャント)ですよぉ。巨人族のパワーに魔法の武器が加わればぁ、鬼に金棒ですぅ」

 オニというのは分らんが、魔法の武器だと?こんな極寒の地で魔法の武具が作れるのか?

「私、魔法付与師(エンチャンター)でしてぇ。付与する武器と素材が幾つかあればぁ、それなりの魔法効果を付与できると思いますぅ」


 物は試しだと、イチホは私が持っていた使い古した手斧と巨獣の素材の余りを幾つか使用し、魔法を発動してみせた。

「≪分解≫≪抽出≫≪付与効果構築≫≪安定化≫≪定着≫」

 何をしているかさっぱり分からんが、渡した巨獣の素材がイチホの手の中で溶けて手斧に降りかかり、手斧の中に染み込み、その後僅かに光って終わった。


「はい。手斧の付与が完了しましたよぉ」

 見たところ、大きな変化は見えないが・・・

 薪に手斧を振り降ろすと、すぱりと何の抵抗も無く薪台まで刃が貫通した。

「これは・・・!」

「斬撃効果を向上させましたぁ。基本ダメージに加えてクリティカル効果が向上してますよぉ」

 言っている事はよく分らんが・・・凄いのは分かった。

「鎧にもできるのか?」

「基本的な武具と装備品ならぁ、素材があればぁ」


 次の狩りでは、魔法付与された武具で身を固めた私が、最も多く巨獣を仕留めることができた事をここに記しておく。

≪付与効果構築≫

種別:付与魔法/魔法付与師専用

制限:抽出された素材1つ以上

属性:消費する素材に依存

射程:接触

形状:付与

抽出の効果によって付与できる魔法効果を編集する魔法。

装備に魔法効果を付与する過程で、素材が持つマイナスな効果を排除したり特定の効果に特化させたりできる。

逆に言えば、プラスの効果を排除し、装備すると危険な呪われた武具も作ることができる。

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