閑話『とある女盗賊プレイヤーの話』
番外編です。読み飛ばしてもらって結構です
【???視点】
二日酔いでガンガンする頭で目が覚めた。
「あ~・・・飲み過ぎた・・・気持ち悪い」
えーっと、何してたんだっけ。
確か明日休みだから、ビール飲みながらエルドラド・クロニクルやってて・・・
「うぷ・・・っ」
【しばらくお待ちください】
スッキリした後見渡すと・・・ここウチじゃない。
暗いし鉄格子だし、あとくっさ!真夏の公衆トイレみたいな不快な臭い。
ナニコレ、牢屋?家でゲームして目が覚めたら牢屋とかドユコト?
しかも暗いと思って光源を見ればナニあれ蝋燭!?
映画のセットか何か?ドッキリ?
鉄格子のドアを掴んで動かそうとしても、鍵がかかって開かない。
寝ていた場所。石の床に・・・毛皮?を敷いただけ。
酷い環境だ・・・断固改善を要求する。ダークファンタジーの地下牢だよこれ。
身体に何か違和感が無いかチェックする・・・と
服装が部屋着と違う。なんだろう、このデザインどっかで見たような・・・
・・・あ!アバターの装備だコレ!
うーわ再現度たっか。・・・いや待て!
え?なんでゲームの装備の恰好してんの!着せたの誰!?
「なんでこんな格好してんの・・・?他に何か持ち物は」
何か持ち物が無いか服を探ると、目の前の虚空に穴が開いた。
ナニコレ、目の錯覚?
恐る恐る手を伸ばす・・・と脳裏にゲームで持ってたインベントリの中身が思い浮かんだ。
インベントリ空間か!なら確かアイテムスロットにピッキングツールがあるはず!
ピッキングツールを意識すると、指先に何かが触れた感触。
手を伸ばして掴み、引っ張り出すと革のケースに納められたピッキングツール。
・・・って私、リアルでピッキングツールなんて使ったこと無いんだけど!?
えぇい!ダメで元々!指先で鍵穴を探ると・・・ここか!
ピッキングツールを鍵穴に差し込んでみると脳裏に鍵の構造が思い浮かび、手に取るように開け方が分かる。
えーっと、ココのピンをこの位置で固定して・・・このまま回せば・・・開いた。私すげぇーーーッ!
ピッキングツールをインベントリ空間に戻し、閉じるように念じれば、インベントリ空間は閉じた。
さて、脱出しないと。誘拐犯に見つかったらタダでは済まないだろう。
・・・いや、コレ本当に現実?自然とインベントリ空間とか出てきたけど非現実すぎて頭がどうかしそうだ。
暗い地下牢の通路を息を殺しながら移動すると、正面のドア。
その向こう側から誰かが来るのを察知。
ドアの向こうなど見えるはずがないが、私が知らない感覚が誰かが来る事を知らせている。
慌てて正面のドアの陰に隠れるように張り付く。
その直後にドアが開いて男二人が入ってきた。
「で、女の侵入者ってのは奥か」
「あぁ、後宮の庭先で呑気に昼寝してたそうだぜ」
「おいおい巡回は何やってたんだよ」
そんなやり取りをしながら、私の隣を通り過ぎる男二人。
服装は・・・なにアレ?鎖帷子に槍?随分とファンタジーな恰好してる。
二人は私に気づかずにそのまま通過。
ドアの鍵は開いているので、ドアを開けて外へ。
階段を駆け上り・・・ほんとドコだここ?どこを見ても石造りで、かなり大きな建物に思える。
息を殺しながら、感覚を信じて隠密行動を心がけながら移動。
ここ・・・城?要塞?とりあえず、かなり広いように感じる。
脳内で情報を整理していると、不意にステータスまで頭に浮かんできた。
【斥候】Lv18
諜報系クラス。隠密系と情報系スキルを習得可能
【盗賊】Lv18
物理攻撃クラス。短剣などの軽量装備によるスキルが習得可能
【弓使い】Lv17
物理攻撃クラス。弓系統武器による戦闘スキルが習得可能
【狙撃手】Lv15
斥候と弓使いから派生。隠密状態で投射武器による戦闘スキルが使用可能
【暗殺者】Lv15
盗賊の上位クラス。盗賊の上位互換スキルが習得可能
【諜報員】Lv17
斥候と盗賊から派生。より高度な情報系スキルと隠密系スキルが習得可能
トータルレベル:100
スキルのクールタイムまで把握できるなんて、いよいよ私の頭大丈夫か・・・?でも武器依存のスキルが真っ暗なのは・・・あぁ武器が無いからか・・・
そう言えば武器!ゲームで装備してた武器は手元にもインベントリ空間にも無かった!まさか没収された?!ありえる!
アレはレア装備だから置いていくわけにはいかない・・・!
情報収集のスキルでアイテムの位置を探れるか・・・?
「≪盗み聞き≫≪影渡り≫≪宝探し≫≪鷹の目≫≪梟の視界≫≪痕跡収集≫」
スキルを同時使用して、隠密移動しながら情報収集を開始。
この会話は・・・違う。こっちも違う。こいつらは・・・私を探してるのか。
後宮?侵入者?私の事か?武具・・・魔法の武器・・・鑑定・・・東塔・・・そこか!
私の武器についての会話を拾えた。東塔とやらに運び込まれたらしい。
あと、私が脱走したのはもうバレている。城のあちこちで私を探す奴らを掻い潜らないと・・・
「≪盗賊の地図≫」
行動範囲の地形を自動で地図化するスキルを行使。
今まで通ったルートがここで、東は・・・こっちか。
東塔の位置に見当をつけ、侵入。
どうやら魔法使いの研究所らしく、ローブを着た何人もの魔法使い風な人間が、台座を囲み・・・あ、台座に私の武器があった!
私の武器を取り囲んで、何やら魔法を使っているのが見えた。
「≪存在しない誰かさん≫」
周囲の人間から警戒心を抱かれない隠密スキルで堂々と魔法使いの輪に入る。
「一体どういうことだ・・・これほど強力な武具は初めて見た」
「然り、これがただの盗賊の持ち物とは思えん」
「しかしこの弓、引こうとしてもびくともしない。どうやって射るのだ・・・!」
「この短剣もだ。ただの短剣ではなく最高位のドラゴンの牙から削りだされている!普通の人間が手に入れられるはずがない!国宝と言える」
「はい。返してね、ソレ私のだから」
台座に置かれた武器を奪い返し、跳躍スキルで取り囲んでいた魔法使い達を飛び越える。
「な、何者だ!」
「待て!今朝見たぞ!後宮で眠っていた侵入者だ!」
逃げ回りながら私の矢筒も発見。
ガラスケースを叩き割って、中に入れられていた矢筒と矢も回収。
武器さえ取り戻せたならこっちのモノ。
逃げようとしたら、魔法の詠唱が聞こえてきたのでテーブルをひっくり返して盾にする。
攻撃魔法らしき閃光が飛んでくる中、私は恐ろしく冷静なまま、テーブルの陰でインベントリから手投げ爆弾を出して導火線に着火。魔法使いたちに放り込む。
「ば、爆弾じゃーーーッ!」
「≪魔力の壁≫!」「≪石の壁≫!」
魔法使い達が慌てて防御魔法を唱えた隙を見計らって脱出。その後に爆発音。
・・・ちょっとやりすぎたかな?まぁいいか。魔法とかあるし、あの程度では死なないでしょ。
「≪逃げ足≫」
戦闘行動ができない代わりに、移動速度を大幅に上げるスキルを使用して城から脱走。
大騒ぎになっている中、私は脱出に成功した。
≪痕跡収集≫
種別:収集技能/専用
制限:斥候Lv5
属性:情報
射程:自身
形状:視界
足跡や残留物を収集し、情報精度を向上させるスキル。
本来であれば見逃してしまう僅かな痕跡を集めることで、確実な情報が得られる可能性が上がる。
ただし、自身で動いて痕跡を収集する必要があり、精度向上には時間が掛かる。