第27話
「ところでトールさん。何しに来たんです?随分とタイミング良く来てますけど」
身内に異世界人アウティングされた私。
スルーしていた事だったが、トールさんの居るパ・ブシカからゲイリーウッズまで、馬で1日という距離をどうやって来たのか。
伯爵と一緒に来たなら、討伐隊に加わっていないのも変な話だ。
「何しにって。お前のとこのマイコニドから、お前が大怪我したって連絡きたから、大急ぎでコレ使ったんだよ」
トールさんが見せたのは課金アイテム『猫の特急切符』。
使い切りのアイテムで非戦闘時の屋外であれば、1回使うと任意の街や村への特急列車に乗ることができる・・・簡単に言えばファストトラベル用アイテム。
ちなみに『猫の特急切符』の名前通り、車掌や運転手など従業員は全員二足歩行するネコだ。
「列車どころか線路も無い世界でよく機能しましたね・・・」
「いや、マジで凄いぞ。線路出しながら汽車が爆走して、1時間しないくらいで到着したからな」
あ、流石に瞬間移動ではないのか。
「でも、マイコニドは全員村にいるはず・・・」
ちらりとアカネを見ると・・・あ、目を逸らした。
「白状しなさい」
捕まえて強めに問い詰めると・・・
「街の情勢を把握するために、4体ほど配下を配置しました・・・」
あっさりゲロった。
話を聞くに、真菌の重装兵、兵士、魔術師、神官の4体を冒険者として潜入させたそうな・・・
「また勝手に召喚して・・・」
「マイコニドは秩序・中立属性で、勢力の拡大を優先するって設定だろ。
十分自重してる範囲じゃねーの?」
「いや、領内で勝手に軍勢を召喚する時点で大問題だが?
40体を超えるマイコニドなど数で見ても4分隊規模。
それらが武装して潜入している時点で大問題なんだが?
村に居る異様な数のマイコニドは、全員その女王の配下か・・・」
あ、伯爵が頭を抱えちゃった。・・・ゴメン。
「いや、略奪などしていないだけマシか。
ゲイリーウッズ方面はイースリーの最北端、開拓民が増えたと考えれば・・・」
『貴族って大変だな』
私とトールさんでそんなこと言ったら、
「誰のせいだと思っている!!」
怒られた。
「・・・で、見た感じ無事ってわけでもなさそうだな。傷は大丈夫か?」
「回復魔法とポーションで体力は」
とりあえず、私はトールさんにも情報共有のために、4層の事を話した。
「手がかりは、この迷宮核の残骸と下位悪魔の灰だけだが」
「《空間転移》系なら、魔法で追跡できたんですけどね」
「それを警戒して、襲撃者ごと自爆で証拠隠滅か。徹底してるぜ」
「何か分かります?」
トールさんは数秒考えこみ、
「まず、威力から100Lvプレイヤーかそれに比類するヤツなのは間違いないな。それも魔法系最上位クラスだ」
「そうですね」
それに関しては間違いないだろう。
構成としては、攻撃系魔法に特化した『魔法系アタッカー』構成。
「スクロールに封印された魔法は、最高位品質でも攻撃威力は80%までしか再現できないのがエルドラド・クロニクルでの仕様だったから、本人が行使した威力は最低でも2割は上がるだろうな」
そうだったぁ・・・完全に魔法使いとしては格上じゃん。
「予想としては・・・最低でLv100が2人以上のチームか組織だろうな。
迷宮核使って何の実験してるか知らねーが、迷宮核を使い捨てできるなんざ、自前でダンジョン攻略できる配下か実力が無きゃ無理だ」
「それは・・・我々でも対処できる事か?」
ネヴァン伯爵の質問に対して、トールさんが出した返答は、
「領軍とか貴族の私兵レベルじゃ無理だ。
最低でも、覚醒スキル使えるヤツが逃げに徹すれば生き残れるってレベルだな」
「それほどなのか・・・」
能力看破をしてはいないが、ネヴァン伯爵の周りにいる配下のレベルは推定で20前後と言ったところ。
覚醒スキルや課金アイテムを持っている100Lvのプレイヤーから見れば、百人単位で挑んでも相手にすらならない。
文字通り蹂躙されるだけだ。
「エリシア殿。『従士』として仕える気はあるか?」
「へ?」
じゅうし?
「えーっと従士って?」
「簡単に言えば、騎士爵の下。貴族ですらない階級だが、私の名の下に一定の権限が付与される。
騎士の叙勲は上級王の許可が必要だが、従士ならば私の持つ権限で任命できる」
日本じゃ馴染みが無いな・・・
「えーっと従士になると、どうなるんです?」
「そうだな。まず従士とは・・・」
あれこれ説明されたので、大雑把に纏めると
・私兵の組織、指揮権限(最高決定権はネヴァン伯爵で雇用維持費は自腹)
・金銭による土地の領有権と売買権(ネヴァン伯爵から土地を買える)
・年俸として毎年大銀貨5枚の支給(武功などで別途ボーナスも貰える)
・主君(この場合ネヴァン伯爵家)の軍事行動への参戦義務
・戦争捕虜を得る権利
・自陣営が捕えた捕虜から身代金を要求する権利(物騒だが、必要な権利らしい)
・労役免除
・継承権無し(騎士爵のさらに上、男爵なら継承権を得られる)
・主君からの命令の遵守は絶対
・・・うーん。コレ受けたら、ネヴァン伯爵の配下として働くのかぁ・・・
でも(知らなかったけど)色々とルール破りしてるし、コレを受けたらマイコニド達は私の雇用した私兵という形で、ネヴァン伯爵から認められるし、コレかなり温情っぽいな。
ただ、戦争になったら絶対に参戦しなきゃいけないってのがなぁ・・・
「少し、考えさせてください」
「・・・分かった。三日待とう、それまでに返事をしてくれ」
私は返事を先延ばしした。
《武器変身》
種別:変身魔法/専用
制限:変成術師、幻惑使い等
属性:変成/物理
射程距離:接触
形状:武器
自身が触れた武器の種別を変更する魔法。
触れている武器を1つ選択し、別種の武器の姿と能力として扱う。
武器の威力に変更は無いが、変身させている間はその武器固有の制限を持つスキルも変更される