閑話16「とある武装商人の話」
やぁ。僕はジャン・バラ。この世界に飛ばされてもう5年くらいかなぁ。
ある日、目が覚めたら僕は全く知らない世界の路地裏のゴミ捨て場で目が覚めて、そこから自分の『商人』スキルとインベントリに入ってた召喚アイテムでテイムした魔獣達の力で今は押しも押されぬ海を跨いだ貿易大商会。
リアルの頃よりも稼ぎまくってるよ。・・・まぁ相応に忙しいけど
さて、やっと北大陸から本拠地に帰ってこれた。
今の本拠地は僕の支援者であり後ろ盾になってくれてる貴族、ハシユキさんの領地にある離島を丸ごと僕の商会の土地って形で借りてる。
一応、西大陸本土にも店舗や倉庫は持ってるけど、僕の場合の海路での運搬は船じゃない。
超大型の亀形魔獣アスピドケロンの「ケロたん」に倉庫や簡易拠点を丸ごと背負って海を渡ってもらっている。
そうでもしないと、僕のペットたちの大半は海を渡れないからね。
ケロたんはこっちの世界じゃほぼ無敵の防御力だし、この辺りの海域の竜種とは話がついてるから、風や海流を無視して自由に海を渡れるのも、この商会が大きくなった理由かな。
そして、その莫大な財と交易品のおかげで僕の支援者のハシユキさんも関税でぼろ儲け、僕は土地代と特権商人の待遇を受けてるから減税受けて、この島を丸ごと借りて、ペットたちをのびのびと暮らせる土地が手に入るし文句なし。
まぁ最近の問題と言えば・・・
「会長。ハシユキ様が来ました」
「えぇ・・・帰ってきたばかりだよ?しかもわざわざこの島まで来るなんて・・・」
「例の「アレ」が相当待ちきれなかったと思います」
本部の執務室で交易目録の清書してたら秘書がハシユキさんの来訪を伝えて来た。・・・アポ取ってほしいなぁ。一応は御用商人みたいな立場貰ってるけどさ。
本土から手漕ぎボートで20分の距離とはいえ、領地に貿易港を抱える高位貴族様が来る理由・・・は、まぁみんな分かると思うが、エリシア君が完成させた美容化粧品。
これが、うん。めっちゃ売れた。どんだけ売れたかっていうと買占めや独占を狙って僕を狙った誘拐とかが週5で島にやって来るくらい。全部潰したけどさ、エリシア君がレシピ公開して、信用できる筋にレシピ流したんだけど・・・完全再現できるヤツがほぼ居ない。
筋を辿って作らせた人の中で一部の薬師や錬金術師が劣化互換みたいなのを作れる人がポツポツ居たけど、エリシア君が造ったヤツと比べるとどうにも効果が3~4割劣化してるんだよねぇ。
だから、仕方なくブランド力を高めるためにアホほど値を釣り上げて、ハシユキさんの派閥での完全紹介制って形にして・・・まぁ政治の道具にしてやっと落ち着いたんだよなぁ。
女の人って怖いよマジで。1回だけ出待ち食らったけど、エリシア君制作の美容化粧水の空瓶を掴んで血走った眼で迫って来てマジで怖かった・・・。レベル差で引っぺがそうにも、なんか執念なのか何なのか引き剥がすのが大変だったし・・・。
彼女の作る化粧水、地球のヤツと比べても効果がヤバいんだよなぁ。
買い叩いたつもりも無いし、ロイヤリティはかなり多めに払ってるけど、これを地球に持ち込んだら多分暴動が起きるレベル。
最初に部下の1人にテストさせてみたら、一晩で肌の黒ずみが落ちて3日でニキビが絶滅して、1週間後はもう別人レベル。
2度見したよ。たった1週間でキャラバンの旅で荒れた肌がモチモチ卵肌になってたんだからさ。
エリシア君、やり過ぎだよ・・・。でも、所詮化粧品ってタカを括った僕にも責任はあるし、バカみたいに利益になるから供給止めたら多分四方八方から殺し屋が飛んでくるレベルで後戻りもできないけどさ。
さて、バカな事考えるよりも、さっさと化粧品を捌いて終わらせよう。
「じゃ、例のアレは降ろしてあるはずだから持って来ておいて。その間に僕が応対するから」
「分かりました」
秘書に指示を出して、僕は応対のために応接室へ移動。
あーもう。目録の清書も終わってないから、プレゼン資料もできてないのに・・・
「お待たせしました」
「すまないな。帰ってきたばかりで」
応接室に入ると、ハシユキさんと・・・隣にもう1人誰だ?褐色の肌に黒髪のベリーショート、片目は眼帯でチューブトップにホットパンツと随分と露出が多い恰好してる。護衛・・・にしてはなんか雰囲気が違うな。アウトローって言われた方が納得する
「まぁ。そうですね・・・アレはキチンと持ち帰ってますよ。増産もできてます」
「よかった。皇后様が熱狂的に気に入ってな・・・増産ができなければ、次の交易までどうなってたやら・・・」
青い顔しながら遠くを見つめるハシユキさんに同情しつつ向かいのソファーに腰を下ろす
「それで、今回は?」
「あぁ。今回は交易では無く急ぎでな」
ハシユキさんが隣にいる人物に目を向ける。・・・なるほど
「初めまして。アンタがジャン・バラか?」
「あぁ。君は?」
「俺はオニキス。アンタと同じエルドラド・クロニクルのプレイヤーだ」
やっぱりか
「それで、僕に何の用かな?」
「あぁ。頼みってのは俺のギルメンに会いてぇから、足を貸してくれるヤツを探してる。アンタは海流も風向きも無視して世界中の海を渡れるって話だからな。アタシが目指す場所にも行けるハズだ」
「出来るけど。流石にタダじゃ嫌だよ」
「タダとは言わねぇよ。だが・・・『石油資源』。コイツを融通するって話ならアンタも飛びつくと思うぞ」
「!?」
僕としたことが、思わず顔に出てしまった。
石油資源を加工する技術はこの世界にはまだ無い。僕が知る限りでも他のプレイヤーは基本的に何処かで拠点作って引きこもるか、冒険者みたいな自由業を生業にして行動してるから、こういった物が出てくる話はないと思ってた。
・・・いや、そう言えばエリシア君が製鉄燃料としてモンスターの不要素材とか家畜の糞とかで菌を培養してメタンガス燃料みたいなの作ろうとしてたな・・・アレくらいか
「・・・どこに行きたいんだい?」
「北大陸。それも最北端。巨人族が支配する北地だ」
随分と辺鄙で過酷な場所だな。行ったことは無いが行けなくはない
だが、あそこは巨獣とか言う馬鹿でかい巨大生物の生息域で、港もごく一部。しかも一年の内殆どはその港も凍ってる。タイミングを逃せば丸1年は氷の世界で暮らさないといけない過酷な場所だ
・・・エリシア君との交易は僕抜きでも出来るくらい詰めたし、1年抜けても問題は無いか・・・?
「ギルドメンバーって?」
「ギルマスだ。魔法でメッセージが届いてな、ギルドメンバーに定期的に生存報告みたいなのを送ってたんだよ。で、北地の「雷の氏族」ってトコで暮らしてるらしいから合流しに行く」
なるほど。その人物が油田を抑えてあるのか。そして僕が運搬でツテを結べば、石油資源を交渉できる・・・と
ただなぁ。タンク技術が無いから天然ガスとかガソリンは小量しか運べないしなぁ・・・ぶっちゃけ利益になるか?って考えると微妙
「あ、あと最近はオリハルコンとかヒヒロカネも見っけったってよ」「よし、すぐに出航の準備をしよう」
え?手のひら返しが速い?バカだねぇ、オリハルコンやヒヒロカネなんてレア金属、すぐに抑えない商人がどこにいるんだ?
急いで迎えに行こう!
≪商人≫
系統:生産系初期
主武装:「衣服防具」
生産系クラスの1種で主に「金銭取引」に特化したクラス。
トレード金額の優遇化、需要と供給の可視化、密輸などの裏取引、価格操作、投資など様々な「金銭」に関わるスキルを習得、使用できる。
武器を使用したスキルは習得できないが、金貨を使用して敵の気を逸らしたり、金貨の袋をぶつけて攻撃など自衛程度のスキルは使用できるが、基本的には「商売」に特化している非戦闘クラス
また上位クラスには交易品を運ぶスペースを拡張してより多くの商品を運ぶスキルや、戦闘の戦利品をさらに多くドロップさせるなどのスキルも存在する




