第170話
エルフの研究所に悪魔武器の残骸を渡した後、トールさんは私が持たせた返事を持ってパ・ブシカの街へと帰って行った
その数日後、伯爵の手下が手紙を持って現れ、私の条件を受諾する事や追加料金でカイさんとマーシャさんを雇う事が書かれており、前金の入った袋を渡された。
カイさんは僧侶系クラスだから魔法で毒や病気を治すなど簡単な事だし、何だったら蘇生だって出来るので問題無し。
彼はエルフの里が村の近くに引っ越した後は、小さな聖堂(彼がクラスとして信奉してる太陽神を祀っており、祈るとボーナスを得られる)を管理しながらレーシアさんと一緒に子供たちの先生をやってたけど、こういった臨時収入も欲しいとぼやいていたので誘ったらすぐに予定を調整してくれた。
マーシャさんはというと・・・
「透明化した状態でいい?あそこの城、1回爆破騒ぎ起こしちゃってて顔見られてんのよね・・・」
どうやらこっちの世界に来た時は城の中だったようで、脱出のために爆破や乱闘騒ぎを起こして、その時に顔も見られていた・・・らしい
「無理でしたらレーシアさんでも良いと思いますけど」
「あの子まで抜けたら学校完全に止まるわよ?マイコニド達に臨時教師させても限界があるでしょ」
先生というのはかなり忙しいようで、手が空いてる真菌の魔術師や神官を派遣して手伝わせているんだけど、村の住民が増えたからあんまり現状変わってないんだよなぁ・・・本格的に学校建てて専業の教師雇うのも急がないとなぁ。
というか
「マーシャさんは抜けて大丈夫なんですか?自警団の指揮とか」
「フツーに問題ないわよ。どうせ行きと帰りは猫の特急切符使うんだし、長くて数日でしょ?その程度抜けても腑抜けるほどヤワな鍛え方した覚えはないわ」
常々思ってたけどマーシャさんリアルで何やってたんだ?
それと、今回はベッティちゃんも顔は隠すけど弟子として連れて行く予定だ。
魔法を使えば筋力体格云々は無視できるし、「医者」クラスを取得してるので単純にクラスから得られる知識の恩恵もある。
それと・・・少し調べたのだが、今回の戴冠式では私が取引してる貴族も参加してるので、弟子として彼女を紹介してコネクションを繋いでおくのも目的。
店の方はマイコニド達で回してもらい、各種解毒剤や中和剤、医療品や回復系の魔法薬を準備し、2か月が経過。
戴冠式が2日後に控えた日にペロリさんの≪転移門≫を使用して王都入りする。
早めに行くのは、警備との打ち合わせや会場内部で毒物を隠されていないチェックするためだ
「で、コレ使うのね」
「顔を見られたくないなら、一番確実な方法ですよ」
私達の手に握られているのは・・・例の「変身リボン」。
「まさかブラックまで有るとは思わなかったわ・・・」
「敵役の変身アイテムですよ。あ、変身ワードは≪ゴシック・ワールド・デコレーション≫って違うんで、注意してくださいね」
「師匠・・・」
ちなみにカイさんにも渡したのだが
「僕は別に顔見られても不都合無いんで・・・」
と拒否られた。可愛いのに
「アンタのその魔法少女大好きって性格、何年経っても変わんなのね」
「魔法少女は全ての希望ですよ」
「ハイハイ。大きなお友達に応援されて嬉しいでしょうね」
マーシャさんが持ってるそのアイテムの元は敵役だけど、かなり人気のキャラで私もイベント期間中はイベントダンジョンを何十回も周回してポイントかき集めてボックスガチャを何十回も引き直してようやく1個ゲットできたある種のレアアイテムだ。・・・物欲センサーが反応したともいえるが
「あ、ちなみに最終決戦の≪グランドキュートスペシャルフォーム≫の変身アイテムも有りますけど」
「さ、王都に行くわよ」
「はい。師匠も行きましょう」
流された・・・。コレ最高に可愛いのに・・・
私は緑の変身リボン。ベッティちゃんは青の変身リボンを持ってペロリさんが開けた王都へ繋がる空間の捻じれに身を投じる。
ぐるりとまるで前転をしたように視界が回ったような感触の後、気が付けば王都を見下ろせる高台に到着。
始めて≪転移門≫を利用したけど、こんな感じか・・・ベッティちゃんは強制的に味わったあの感覚に少し気分が悪かったのか顔をしかめてる
マーシャさんとカイさんは特に気にして無さそう。
「大丈夫?」
「はい・・・大丈夫です」
私が声をかければすぐに表情を戻した。
さて、王都滞在中は伯爵の別邸でしばらくお世話になる。
到着の知らせを持たせたカラスを先に飛ばして、私達はマーシャさんの空飛ぶ絨毯で地上スレスレをゆっくり飛んで王都の正門から入る事にする。
王都の門の前では多くの馬車がひっきりなしに行き交っており、皆見える位置に身分を示す紋章が入ってる。
私達が門を通る時に呼び止められたが、手続きは予め伯爵から貰った紹介状を見せればすぐに通してくれた。
こういう時権力は便利だ。
王都の中に入ると、白い石畳で舗装された漆喰の白さが目立つ綺麗な街並み。
都市の大きさの割に少し活気が無いように見えるが、それでも大勢の人間が行き交っており、巡回の兵士も居て大通りは治安が良さそうに見える
「エリシア、帰りも≪転移門≫のスクロール?」
「はい。ペロリさんが≪転移門≫使えるんで、レーシアさんに頼んで量産を進めてるので、数も問題無いですよ」
数人程度での移動は≪転移門≫のスクロールで移動した方が結局安上がりなんだよなぁ。
大勢で移動するなら別だけど。レイド戦とかギルドの軍団戦なら特急切符を使うけど、今のところその予定は無いし・・・今度エルフの里で≪転移門≫の魔封宝石の制作を依頼しようかな。
スクロールの材料にはバロメッツの羊皮紙を使用しているので今のところ材料には困らないが、何度でも使えるという点は非常に魅力的だ。魔封宝石の作り方は利権に関わるから秘密と言われたけど、資金や物資を報酬に依頼するなら作ってくれそうだし
「ベッティちゃん。杖の方は慣れた?」
「はい。・・・まだ何も答えてくれないけど、きちんと力を感じます」
ベッティちゃんの手には彼女のために用意した精霊武具の杖が握られている。
まだ武具精霊としての自我や人格が形成されていないのか、それとも所有者の力量不足か、その両方か・・・実体化はまだ遠そうだが、精霊武具には実体化以外にも利点は有る。
精霊武具は宿る武具精霊に応じて「成長」する。つまり、レベルアップできる武器だ。
私達も自分の武具精霊から聞き取り調査をした結果、相性の良し悪しは有れどモンスターの素材を食わせればゲームの時と同じように成長できるらしい。
相性の良い素材ならレベルアップが早まるが・・・私達の精霊武具は皆かなりのレベルだし、気軽に素材集めに行けるほど暇じゃ無いからなぁ
武具精霊は成長することで実体化や固有能力を獲得し、強化される。
ベッティちゃんの武具精霊は生み出されたばかりだから、今後どんな能力を得られるかは、彼女の成長次第・・・と言ったところか
≪格闘家≫
系統:格闘家系基礎
主武装:「布系防具」「グローブ系武器」「ブーツ系武器」
武器に頼らず己が肉体の能力で戦う近接系戦闘クラス。
流派や習得スキルによって、拳や蹴りを主体とする「殴打系」、掴みや投げを主体とする「掴み系」、魔法系クラスと組み合わせて派生する「複合系」の3種に大別される。
耐久能力や防御能力はかなり低い代わりに、高い敏捷能力による機動性と回避能力、手足から繰り出される多彩な連続攻撃が最大の特徴であり、超接近戦であるならば他の追随を許さないダメージレートを狙うことができる