第17話
『ダンジョン』
人類を守護する防壁であり、忌むべきモノを封じる封印であると同時に、この世界に湧き出る災厄として知られる災害。
世界中にダンジョンは存在しており、その内部では魔力が渦巻いて空間が歪み、本来ではありえない構造物やモンスターを生み出す。
発生原因は2種類に分かれており大きく分けて、『人為的に核となる迷宮核を使って造り出す』タイプと『自然発生した『迷宮核』が何かの影響で暴走して造られた』タイプが存在する。
前者は主に『防衛手段』や『封印』として使われており、暴走することは無い。
人類の手には負えないヤバいモンスターや禁じられた知識などをダンジョンの奥へ封印して、内部に閉じ込める。
もしくは自身の財産や知識、生命を守るための要塞としてダンジョンの奥で籠城する。
なので、管理する存在がそのダンジョンを制御しているから、ダンジョンの内側から何かが出てくることは滅多に無い。
しかし、後者の場合は違う。
自然発生、もしくは何かが暴走させた迷宮核は、デタラメに魔力の渦をダンジョンの中に巻き起こし、空間を歪めて地形を勝手に変え、モンスターを自然発生させたり、異空間から召喚したりする。
当然、制御する存在が居ないのでモンスターはどんどんダンジョンの中に溜まり、飽和して・・・モンスターが内側から溢れ出るのだ。
そこで活躍するのが『冒険者』。
暴走した迷宮核は誰の管理下でも無いため、ダンジョンを攻略して迷宮核を手に入れることができれば一生安泰な生活が約束されるそうだ。
そうでなくとも、暴走した迷宮核は無作為に異空間から『何か』を召喚するため、貴重な魔法のアイテムだったり滅多に遭遇しないモンスターや貴重な資源などが発見される事が多いらしい。
つまり、暴走したダンジョンとは『災害』であると同時に、冒険者やその後援者にとっては大きな『ビジネスチャンス』・・・らしい。
ダンジョン発見の報告を受けた私は、アカネを呼んで村長に報告。
ドゥッチ村長は村人たちとの話し合いが必要と判断し、集会場へ招集をかけた。
招集された村人の前で、ダンジョン発見を私に伝えたマイコニドが報告を始めた
「ゴブリンの発生源を調査したところ、丘を挟んだ反対側の麓に小さな洞窟を発見しました。
洞窟周辺ではゴブリンやオーガがコロニーを形成しており、洞窟の奥からは複数体のゴブリンが出現するのを確認しました」
「つまり、ゴブリンやオーガはその洞窟の奥から発生した・・・って事?」
「はい。明らかなゴブリンの数の多さ、そして真菌の魔術師が探知した魔力から、ダンジョンの可能性が高いと判断しました」
その報告を聞いて村人たちはざわざわと不安そうに話し合い始めた。
「ダンジョンだって」「まさかこんな近くに発生するなんて」「冒険者に攻略を依頼するべきだ」「だがそんな金がどこに有るというんだ」
口々に自由勝手に会話する村人たちをドゥッチ村長は声を張り上げて静かにするように呼び掛けた。
「皆、不安なのは分かっている。
ダンジョンの脅威は歌や噂で皆も知っているだろう。
だが、我々はこの脅威を乗り切らねばこの村に未来は無い。
この村を興した者達が切り開いた土地も畑も、我々が守らねばならない」
村人たちはドゥッチ村長の言葉を静かに聞いている。
私も、この村を拠点にしているのだ。
できる程度の事は手伝おう。
「心配することは無い。我々には屈強なマイコニドの軍勢とそれを率いる魔女エリシアが居る!
守りを固め、冒険者組合に要請して恐るべきダンジョンを攻略する勇者が現れるまで、我々は諦めてはならない!」
え゛
「そうだ」「俺たちには偉大な魔女がついてる!」「そうね!エリシアちゃん強いもん!」「オーガを1発で倒しちまう女だ!ゴブリンがどれだけ来ようと怖くねぇな!」
あの?ちょっと?コレ私がガチの主力扱い?
冷や汗が滝のように流れる。
「あ、アカネ・・・」
咄嗟に隣に座っているアカネに『助けて』の視線を向ける。
「問題ありません。偉大なる魔女である主様ならばゴブリンやオーガが何十、何百・・・否、何万来ようと敵ではありません!」
ブルータス、お前もかぁーーーーーーーーっ!!!??
いや、流石に万単位の敵はMPが持ちません!
私って無双ゲーキャラでもないし!
MP尽きたら雑魚よ!?
「流石だぜ!」「なら安心だな!」「偉大な魔女エリシアに!」
ちょいちょいちょーーーい!
ちょっとアカネさん!?貴女シレっと鼓舞系スキル使った!?
村人一同でエリシアコールが響いて恥ずかしいんだけど!?
アカネの方を見たら・・・どや顔でサムズアップ。
なんでどや顔してんの!?やめさせてよ!恥ずかしいから!
「では、防壁建造は予定通り進めるとして。今後はダンジョンの変化も監視しつつ、冒険者組合へ手紙を出して冒険者の派遣を要請するとしようか」
「炭も増産して、金を貯めないとな!」
「櫓のおかげで畑もゴブリンに荒らされずに済んでるからもっと櫓を増やすべきじゃないか?」
「武器ももっと強い物が欲しいわ。もっとお金を稼げないかしら?」
村人も不安そうな雰囲気が無くなって、意欲的になった。
・・・コレはコレで良いのかな・・・?
話し合いが一通り終わり、日が傾く頃に解散となった。
は、恥ずかしかった・・・。
あ、そうだ・・・トールさんにもダンジョンの事を伝えておこう。
私は宿に戻って荷物から羊皮紙とペン、インクを出してトールさん宛の手紙を書く。
手紙の中身は一番私が書きやすい日本語。
書き終わった後、余分なインクを吸わせる砂を振りかけて、少し間を置いてから砂を落とせば、手紙は完成。
便箋に手紙を入れて、適当に紐で縛って蝋燭の蝋で封印。
「≪使い魔作成≫」
MPを消費して≪使い魔作成≫で作り出したカラスに手紙を持たせる。
うん、久しぶりに魔女っぽいムーブ。
「トールさんへ届けて」
私の指示を聞いたカラスが空を飛んでいく。
ゲイリーウッズからパ・ブシカの距離は≪通信≫の魔法の射程範囲外なので、使い魔に手紙を届けさせるのが一番速い連絡手段。
手持ちの課金アイテムで情報を発信するアイテムは有るには有るが・・・『全世界へ発言するメガホン』なので、どんな結果になるか恐ろしくて試せない。
実はトールさんが私と出会った後、ギルドのチャット機能が使えれば、距離を無視してギルドメンバー同士で会話できると思って、色々試してみた結果、チャット機能は使えなかったと聞かされている。
私も、チャット機能が使えないか念じたり叫んだりしてみたが、全くの無駄に終わった。
結局、手紙が一番確実という事で、使い魔による文通ネットワークをトールさんとしている。
飛び発つ使い魔を見送り、宿の窓を閉めてベッドに入る。
ダンジョン、どうしようかな・・・
≪使い魔作成≫
種別:共通魔法
制限:魔法使い系クラス全般
属性:なし
射程距離:至近
形状:任意の動物
魔法使いの『使い魔』を作る魔法。
耐久性は脆弱で攻撃力は無く、形状は子犬、ネコ、ヘビ、蜘蛛、カラス、ハト、ネズミ、カエル、トカゲに限定される。
主に感覚共有の魔法による偵察や諜報、鳥類であれば手紙などの小物の運搬に使用される。