第159話
私の精霊武具は普段使っている杖とは違う”杖”だ。
普段の私の杖は生産系の魔法を補助する能力が付与されている杖で、植物魔法の効果向上や薬物製造の生産速度や生産能力の補助強化を持っている。
そしてもう一つ。普段は予備としてインベントリ空間に入れっぱなしにしている私の精霊武具の杖。
外見は真っ黒で170㎝ほどの長さの捻じれたデザイン。
先端部分には鋭く輝くオレンジの宝石が捻じれた杖に巻き込まれるように填められている。
こっちは生産系の能力を一切捨てた”呪い”属性特化の杖だ。
呪い系統の魔法の一点に効果を絞っているため、他の系統の魔法には全く強化が入らない代わりに、呪い系統魔法の効果向上は絶大。
呪い属性の耐性や無効化をある程度無視してダメージを与えられる。
そしてそこに私の武具精霊も憑いているので、呪い属性魔法が極まった構成ならあらゆる防御を無視して呪いを放てる・・・のだが、今の私は生産型構成でこの杖の性能を100%引き出すことはできない。
本当に今の私には惜しい性能だが、状況打開には私の武具精霊の力を借りるしかない。
「アキヒト君≪武具精霊実体化≫を使います。20秒お願いします」
「ッシ。任せるっすよ!」
アキヒト君に負担をかけて申し訳ないが、≪武具精霊実体化≫は発動するまでに少しの間集中する必要があり、その間はどうしても無防備になる。
20秒はかなり短いと思うかもしれないが、こっちの世界のLv100同士の戦いでは1秒の隙すら大ダメージを負うリスクだ。
アキヒト君に20秒時間稼ぎをしてもらう間に意識を集中し、私の武具精霊と意識を接続。発動準備に入る
「≪弱点狙い≫≪破砕突き≫!」
『Ha!?』
上手い!≪弱点狙い≫を発動させ、急所を狙うと思わせて急所を防御した魔人人形にアキヒト君は受け手の防御を崩す効果を持つ≪破砕突き≫を発動してガードごとぶち抜いた!
ガード崩しの≪破砕突き≫を受けて大きく仰け反った魔人人形にアキヒト君は盾を叩きつけて魔人人形のバランスを崩し、ダメ押しで後ろに跳びながら魔法を詠唱し
「≪下降冷気≫ォ!」
ダウンした魔人人形に追撃の魔法として冷気を伴う風を空から落とし、大質量の風を真上から受けた魔人人形は地面に釘付けにされた。
これで20秒。発動準備完了
「≪武具精霊実体化≫『処刑魔女』!」
私の呼びかけに反応して私の武具精霊「処刑魔女」が目を覚ます。
私の影が大きく伸びて武具精霊が影の中から起き上がり実体化する。
全身が黒のドレスに黒のハイヒール。真っ黒な魔女帽子。青白い肌に黒く塗られた爪、唇は真っ青でまるで死人のような印象を受ける。
極めつけは首に荒縄が巻かれており、両腕は黒い鎖の手枷で繋がれている
『あぁ・・・。もっと寝たかったのに』
気だるげだが、底冷えするような低いハスキーボイスでそう呟き私を見る
『所有者。前回は文句ばかりだったというのに吾を起こすということは・・・なるほど、吾を起こさねばどうにもならぬ事態か』
処刑魔女はちらりと魔人人形を見て、状況を把握してくれたようだ。話が速くて助かる。
処刑魔女も結構前に自我が確認されて、かなり前に実体化や能力の確認は済ませたのだが、私は彼女の能力を使いこなせてないので、今まで使用せずにインベントリ空間内に放置してたし、彼女も何と言うか・・・寝るのが趣味みたいな感じで、あまりこちらに話しかけてこない。
だが、実体化すればちゃんと起きて戦ってくれるし、能力だって・・・一応強いと自負している
「処刑魔女。頼みます」
『あぁ。まぁ・・・すぐ終わらせて寝直すとしよう』
『≪武具精霊実体化≫ですか。後衛の武具精霊を実体化させたところで!』
魔人人形が指先の糸から斬撃を放つので私も武具精霊の能力を発動
私の足元の影が広がり、直系100mの円形エリアを形成。
「『≪悪意の排斥≫」』
そのエリアの中で「悪属性」からの攻撃を大幅軽減させる防御魔法を発動。
無色透明な力場の壁が立ちふさがり、私に向かう糸の斬撃は私に届かず、糸が私を覆う樹皮の装甲を撫でるだけの結果となる。
『バカな・・・!?』
もっと最初から使うべきだったな。反省しよう。使いづらいからって理由だけで使うことを躊躇ってた
「私の武具精霊、『処刑魔女』は実体化中、私とフィールド内に居る敵の「善性」を比較し、より善性が高い方に有利を与えます。
属性が『悪』である敵は処刑魔女の領域内では『善』属性である私へのダメージに軽減を加えます。貴方の悪性から計算するに、貴方から私が受けるダメージは攻撃の5割しか受けません。そこに強化魔法の軽減などを加えれば・・・この通り、無傷で受けきることができます」
私が魔女のくせに『善属性』である理由がコレだ。
私の武具精霊「処刑魔女」は「悪を呪う」魔女。
善属性じゃないと処刑魔女の効果を十全に受けられないのだ
私の属性が「善」であり続ける限り、悪属性に対して強い有利を与えてくれる
「そして、領域内であれば私も悪属性に対して魔法威力の強化が加わります。つまり・・・威力5割増し≪硫酸間欠泉≫ッ!!」
『ッ!ガァァアアーーーッ!!』
魔人人形の足元に硫酸が噴き出す間欠泉を生成し、上へと吹き飛ばす
「5割の補正を貰えるなんて、どんだけ悪性高いんですか貴方。
マーシャさん相手でも補正3割5分くらいでしたよ。5割とか「悪」を通り越して「極悪」ってレベルじゃないですか」
「でもエリシアさん、その武具精霊・・・神官戦士向きな能力っすよソレ」
アキヒト君が横から指摘する。分かってるよそれくらい。でもさぁ
「善属性で魔女系メインで伸ばしてたら、こうなったんです」
「変態ビルドだぁ・・・」
変態言うな!
まぁとにかく。処刑魔女の能力はバンネンに対して絶大有利に働く。
このまま実体化を維持しながら畳みかける!
≪悪意の排斥≫
種別:防御魔法/汎用
制限:防御系魔法が習得できるクラスLv8以上
属性:防御
射程:至近距離
形状:壁
汎用的な防御魔法の1種であり、力場の壁を生成して「悪属性」からの攻撃のみを防ぐ魔法
比較的習得が簡単でかつ高い防御力を持つ魔法だが、防げるのは「悪属性」からの攻撃のみ。
類似魔法として≪善意の排斥≫や≪中庸の排斥≫が存在する。




