第16話
私の家の着工が開始されて半月が経過。
季節は初夏を迎えていた。
蝉の声などは聞こえないが、気温が分かりやすく上がっており、夏が近いのが体感できる。
建設予定地では基礎工事で大きな地下空間が完成していた。
これからレンガとモルタルで氷室と基礎を埋め込む予定らしい。
「できれば冬になる前に基礎は完成しておきたいな。
この辺は雪が積もるから、冬の作業は大変なんだよ」
「お疲れ様です」
工事現場の真横を通って、プランターや畑の水やりを始める。
私はこの半月で自分の土地の開拓や村の手伝いで忙しく過ごしていた。
具体的には、本格的な畑の開墾だったり他の村人の畑の収穫の手伝い、草刈り、害虫駆除、鹿や猪などの害獣退治、村人たちの家の修理、治療・・・めっちゃ忙しい日々だ。
特に初夏に入ると雑草が凄い。
刈っても刈っても、気が付けば畑やプランターに雑草が生えてくる。
「やってられるかぁーーーーーーーーーーーーーッ!」
ってなったので調合台でマイコニド達が集めてくれた有毒植物から作りましたよ、『農薬』を。
実際には≪毒作成≫スキルで植物特効毒を弱化させた毒薬。
用法を間違えればせっかくの作物も台無しになるので、薄めて使用する。
もちろん、間違って人間が原液を飲んだら1発であの世行きなレベルなので注意。
私は≪毒薬耐性≫スキルを習得してるので、1時間以内に解毒剤を飲めば死ぬことは無い。
念のために解毒剤も量産した。
自分で作った農薬で自分が死んだらシャレにならない。
ついでに副産物として『殺虫剤』もできた。
これも解毒剤とセットで量産。
「≪魔法薬充填≫≪毒薬の霧≫」
毎日大量の水で薄めて、水撒きと同じタイミングで希釈した除草剤と殺虫剤を魔法で散布するのが私のルーティーンとなった。
農薬の効果は凄まじく、雑草で悩んでいた私のプランターや畑の雑草が激減した。
薄め過ぎたせいで、耐えた雑草もあったのでそれは≪収穫の鎌≫で刈り取る。
しかし、何処から話が漏れたのか、農薬を使い始めて数日経つと・・・
「害虫駆除できる魔法があるのか!?」
「ウチの畑にも頼む!」
「夏は害虫が多くて困ってたんだ!」
「頼む、害虫殺しの魔法の薬を売ってくれ!」
村人が宿に来て農薬を売ってくれと言ってきた。
「分かった分かりました!
ただし、コレは毒なんで、使い方を間違えないようにしてください!」
村人たちの圧に負けて、農薬を量産。
変な使い方されて死んでもらっては困るので、使い方を指導して回る。
健康被害を考えてマスクとゴーグルの着用を絶対とし、どうしても無理なら私が有料で代行する形になった。
さて、私の畑の話に移ろう。
増築を考えて、畑エリアは居住地エリアから少し離れた場所に作った。
畑は1haが4枚、それぞれ『大豆っぽい豆』、『キャベツ』、『街で買ったジャガイモっぽい芋』、『エルドラド・クロニクルから持ち込んだマンドレイク』を植えた。
連作障害とか起きないように、経験豊富な農家である村の皆と相談しながら育成を進めている。
ただ、流石の村の皆もマンドレイクは見たこと無いようで・・・
「嬢ちゃん、コレなんだ?根菜か?」
「マンドレイクは抜いちゃダメーーーーーッ!!!」
と、うっかり引き抜かれそうになった事件もあった。
(知っているかもしれないが、マンドレイクは引き抜くと精神異常を引き起こす悲鳴のような音波を発して最悪の場合、廃人となる危険な植物)
私は≪植物学≫スキルと≪植物栽培≫スキルで安全に収穫する方法を知っているので、マンドレイクだけは私自身が管理している。
初夏の時期では害虫も活発化する。その代表はバッタ。
日曜朝の特撮ヒーローのモデルかもしれないが、農業にとっては敵。
農薬を作る前は林から入ってきて畑に被害を出す害虫だった。
何度≪炸裂火球≫で焼き尽くしてやろうかと考えたものか・・・。
農薬を使った後は、被害も抑えられたので殺虫剤も量産を進めている。
そして最大の敵、害獣問題。
村では毎年のように被害が出ているらしく、夜の見回りもしているそうだ。
しかし、マイコニド達は見回りと同時に積極的に森や林に入って鹿や熊などの動物をハントしてる。
ハントされた動物はマイコニド達が解体場に運び、解体。
毛皮を塩と交換して塩漬けにするか、さっさと焼いて食べる、もしくは村の食料品店へ売っていた。
私に負担をかけないように自給自足をしているらしい。
あと、ハントした獲物で上等な角や牙、出来のいい毛皮はアカネに献上されて彼女の部屋のインテリアになっているらしい。
私もアカネから献上品みたいに毛皮を渡されたので、とりあえず宿の壁に飾った。
毛皮のコートは寒くなってから欲しいかな。
積極的な狩りのおかげで、害獣被害も去年より少なくなっているらしい。
ゴブリンの襲撃は相変わらずで、毎日のように10体前後の割合でゴブリンが襲撃してくる。
そして週に1度、来ない日が来たと思ったら、その次の日にはオーガを連れて襲撃するといった感じだ。
ゴブリン達の襲撃は、私にとって実戦的な訓練みたいな位置付けとなり、ゴブリンは魔法の試し撃ちのための的と考えることにした。
そして、私が街に行っている間に建てられた櫓が防衛戦で大活躍している。
櫓の上からは侵攻するゴブリン達が丸見えで、弓の射程も延びて一方的に攻撃できると好評だった。
私も櫓の上から魔法を使ってみたが、確かに上から見れば簡単に敵を狙うことができる上に、投石なども全然届かない。
防壁が完成すれば、櫓の上から攻撃出来て、ひとまずは村に侵入される心配は無くなると、皆は完成を待ち望んでいる。
そんな感じで初夏の日々を過ごしていると、偵察隊のマイコニドがある情報を持ち帰った。
「ダンジョンを発見しました」
・・・わぉ
≪毒薬の霧≫
種別:範囲攻撃魔法/制限
制限:薬剤師派生魔法系クラス
属性:魔法/毒
射程:視界
形状:霧
効果範囲:10m
毒薬を霧に変え、吹きかけて指定した範囲へ漂わせる魔法。
霧を浴びた対象は継続的な毒ダメージを受ける。
また、≪魔法薬充填≫スキルで毒薬の種類を変更することで、麻痺や混乱、魅了、睡眠などの異なる状態異常を引き起こす霧に変化させることが可能。
裏技として『治癒の水薬』を≪魔法薬充填≫スキルで使用して範囲継続回復魔法として使用する事もできる。