第15話
ピクシー・ドランクで一晩過ごし、次の朝。
私達はゲイリーウッズへ帰還する準備を進めていた。
ピクシー・ドランクの1階で朝食を食べ終えて、朝市で移動物資や私個人で入用な品々を購入した。
朝市は多分、パ・ブシカで最も活気のある時間帯だと思う。
焼きたてのパンの匂いや軽食を提供する屋台、冒険者も武装して出発するような姿も見える。
朝市では、村で見かけなかった種類の植物も見かけたのでサンプルとして種子と実物を少量購入。あと、ガラス瓶も補充。
道中で袋売りしてるナッツとかをマイコニド達が欲しがったので、他のマイコニド達のお土産の分も含めて買っておいた。
「けっこう重いけど?」
と店主らしき女性に聞かれたが
「大丈夫です」
目の前でインベントリ空間へナッツの袋を放り込んだら驚かれた。
インベントリ空間は珍しい能力なのかな?
準備を終えて、荷馬を荷車に繋いで出発する時、ロージーさんが布袋を持って私に会いに来た。
「これ、店長から・・・」
そう言って渡された物は・・・縮れ麺風の『乾燥麺』と何かの粉末。
乾燥麺なんて作ってたのかあの人。
「粉末は出汁で、お椀に匙1杯入れてお湯を注げって」
この世界の料理、微妙だったからこの差し入れはありがたい。
「ありがとう。店長にそう伝えてください」
ロージーさんと別れ、私達は村に向かって出発。
荷物がやや重くなって速度は落ちたが、コレが私の家の材料となるのだ。
流石に私のインベントリ空間は有限なので、石材を入れるスペースなんて無い。
街道までの道中はスムーズで、街道から外れる手前でキャンプを敷設。
早速、キャンプの夜にユルデンス夫妻とアカネ達に、トールさんから貰った乾燥麺を食べさせてみる・・・と
「この世にこんな美味しい物があったとは!」
「とても美味しいわねぇ・・・」
ユルデンス夫妻は大絶賛。マイコニド達も夢中になって無言で食べてる。
そうかそうか美味しいよね。
トールさんの作った料理ですからね。
私達のギルドマスターですから・・・
あ、ちょっと!?お代わり?待って!私の麺がなくなる!出汁だけになっちゃう!全部食べないでーーーーッ!!!
・・・ぐすん。 ほとんど食べられなかった。
泣く泣く私は街で補充した移動食(乾燥ナッツとか)をポリポリ齧りながら、夜を過ごした。
次の日、街道から村へ続く道へと切り替え数時間ほど移動し・・・私はやっとゲイリーウッズ村へ戻った。
「・・・ん?」
しかし、数日見ない間にゲイリーウッズ村でも変化があったようで、丸太で作った防壁みたいな壁が村の一部で作られていた。
そして北側と南側に2棟の櫓も見えた。
「主様、どうやら指示しておいた防衛計画は順調に進んでいるようです」
「随分と立派な防壁になりそうね」
村に到着すると、村人たちが集まって成果報告を聞きに来てくれた。
もちろん取引は成功だ。
石材と釘を始めとした鉄器類が村に届けられたのを聞いて、村人たちは笑顔で荷物の積み下ろしを手伝ってくれる。
「女王様、お待ちしておりました」
留守番をしていた真菌の兵士達も集まっていた。
「報告は?」
「ゴブリンの襲撃はありましたが全て撃退。問題ありません」
「現在、村の総意で木造の防壁建造の計画をしており、手の空いた我々も協力して建造に参加しています」
「ご苦労。 作業に戻れ」
『はっ』
マイコニド達の前だとアカネも女王モードに入った。
さて、私も作業を手伝おうとすると、村長に呼び止められた。
「あぁエリシア殿。 すこし良いですかな?」
「どうしました? ドゥッチ村長」
「石材が届いたので、これから本格的な間取りと基礎工事の話を大工達としてもらおうと思いましてな」
あー。確かに、私の家だから私の希望も伝えなきゃダメだよね。
「分かったわ」
私はドゥッチ村長に連れられて大工たちが集まっている集会所に来た。
「ようエリシアの嬢ちゃん。やっと建材が届いたみたいだな!
設計図はもう出来上がってるから、最終確認して不満が無ければ工事に移るぞ!」
大工の親方であるバーモンさんが大きな声でそう伝えて、私に設計図を見せてくれる。・・・設計図だけ見てもよく分からないな。
「できれば少し説明とかしてもらえますか?」
「お、分かった。先ず嬢ちゃんの希望を盛り込んだ石製の工房、床も石のタイルだ。
で、ここの辺りは生活スペース、あと地下にレンガを使った氷室を盛り込む予定だ。
氷室は必要だろ?」
氷室まで作ってくれるのか!
「冷蔵設備はありがたいですね。 氷なら真菌の魔術師も魔法で作れるので」
「まじか。あのキノコ達、氷の魔法も使えるのか?」
「キノコじゃなくてマイコニドですよ」
「おっとそりゃ悪かった。
で、工房から廊下挟んで店舗エリアだ。あんまり広くないがポーションの販売するって話だったよな?」
「えぇ。あと、診療所みたいな事も出来たらやってみようかと」
「そうだな、ココが患者を寝かせる病室だな。廊下で工房から直通だ。
工房手前の階段2階がお前さんの生活スペースになるな。
寝室、リビング、書斎。
水回りとかキッチンは1階だが」
あ、そうだ。これだけは譲れない。
「お風呂って作れます・・・?」
「風呂ォ? あー悪いが無理だ、こんな開拓村に風呂なんて無いし、俺達も風呂なんざ造ったことも無い」
がーーーーん
「増築して水風呂と蒸し風呂ならできるが・・・」
「それでお願いします」
お風呂が・・・無い・・・?
いや、お風呂の概念はあるからコレは資材を集めて自分で造ろう・・・!
「よし、ココのスペースを蒸し風呂と水風呂にしておくぞ」
設計図に蒸し風呂と水風呂が書き足された。
「よし、こんな物でどうだ?」
書き込まれた設計図を見せてもらい、大体希望通りであることを確認した
「問題無いですね」
分かりやすく指さしとかで説明してもらえたおかげで、なんとなくイメージができた
「なら、さっそく着工に入るぞ」
「防壁は大丈夫なんです?」
「あぁ、マイコニドの連中が凄いスピードで造っててな。
ありゃ俺たちより働き者だな。
襲ってくるモンスターとか全部蹴散らして造ってやがる」
まぁ、この辺りで出てくるモンスターの強さじゃマイコニド達の敵ではないか。
「よし!お前ら張り切っていくぞ!」
『オォーーーッ!』
コレで、ようやく私の家ができるのか・・・
「完成まで3か月くらいだな」
誰か!重機を発明して!ギブミー重機!
≪情報防殻≫
種別:防御魔法/制限
制限:一部の斥候系、及び一部の神官系
属性:防御
射程:至近
形状:盾
予め付与することで看破系統の魔法に対して防御効果を得る防御魔法の一種。
防殻貫通の魔法を付与されていない限り、付与されている対象物の情報を隠蔽できる。
エルドラド・クロニクルでは看破するためのコストを増やす嫌がらせ程度にしか使えないが、対人戦闘を好まないエリシアは、この魔法の存在を忘れていた