第14話
トールさんと一度別れ、ピクシー・ドランクに戻った私達。
戻ってくると、交易組合のマークが掲げられた馬車が停められており、そこから男数人が私たちの村の荷車に荷物を載せ換えていた。
その近くでは、昼頃に会ったサージュさんが何やら書類に書き込んでいた。
あぁ、注文していた建材が届いたのか。
少し眺めていたら、サージュさんと目が合った。
「おや、エリシアさん。 ちょうどよかった、ユルデンスさんを呼んできてくれますか?」
「分かりました」
私が宿に入ると、1階の酒場でユルデンス夫妻とアカネ達を見つけた。
多分、食事をしていたようだ。
「アーリーさん。 サージュさんが呼んでましたよ」
「おや、エリシアさん。 積み終わったのかな、呼んでくれてありがとうございます」
サージュさんは席を立ち、外へ出た。
「アカネ、問題は無かった?」
「はい、特に問題は有りません」
なら良かった。
「あぁ、あと宿の部屋ですがちゃんと取れました」
アカネが鍵を手渡してくれた。
「ありがとう、夜になる前にまた出かけるから、引き続き荷物と夫妻をお願い」
「畏まりました」
受け取った鍵で宿の部屋に入り、約束の時間まで少しの間休憩。
思いがけない再会だったが、少しだけ希望を感じた。
この世界で・・・私は孤独ではない。
◆
日が完全に傾いたころ、宿でお湯(有料)を貰い、身体を拭き身だしなみを整える。
そしてローブを着て、部屋に戻って来たアカネに一声かける。
「じゃ、ちょっと稼いでくるから二人連れて行くね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
アカネに見送られて、真菌の兵士二人を連れて再びトールさんのラーメン屋へ。
夜の職人通りは昼間と違った人々が多く歩いていた。
昼間は商人風な人間が多かったが、夜は狩りを終えた狩人や冒険者みたいな武装した人たちが工房へ狩りの成果を渡しているようだ。
軒先でモンスターの素材らしき物を巡って交渉している姿を後目に、トールさんのラーメン屋に到着。
「よぉ。待ってたぞ」
ちょうど暖簾を出したところらしく、表にトールさんが居た。
「今、夜の店を回し始めたところだ。 奥に案内するぞ」
「はい」
店に入り、扉で閉ざされた奥の間に通された。
奥の間は1段高い板張りの床に敷物とちゃぶ台、ソファーといった感じの生活感あるリビング。
「あんまり堂々とやると聖堂の奴らに怒られるから、信用できるヤツだけこの扉に通す。 後は勝手に売りつけとけ」
んな適当な・・・まぁ、適当でも良いか。
「分かりました」
「よし」
そう言ってトールさんはドアを閉めた。
私もインベントリ空間からポーションを出して準備すると、ドアが開いた。
ドアから入って来たのは・・・ボロボロの怪我人。
モヒカン刈りでなんか世紀末風なトゲトゲの鋲付き革鎧着てる、『ヒャッハー』ってセリフが似合いそうなヤツ。
「≪下級傷病治癒≫」
一瞬だけ≪麻痺≫と迷ったが、客と思って有無も言わさず回復魔法。
「うぉ!? ほ、ホントに治った・・・!すげーっ!!」
「感動してるところ悪いけど、大銅貨5枚ね」
「あぁ!ありがてーっ!!」
そう言って大銅貨5枚丁度払って出て行ってくれた。
そこから次々と患者が来た。
「酸で火傷した」とか「喧嘩の傷」だとか「モンスターにやられました」等々・・・。
あと、冒険者には作っておいたポーションもちゃーんと売りつけた。
大銅貨5枚で。
あと、来るのはベテランとは言えないくらいのランクが低い冒険者とか見習い職人ばっかりだった。
まぁ何十人来ようと、MP回復速度が上回っているので問題無し・・・と思ってたが。
「喉が疲れた・・・」
MPではなく先に喉がきつくなってきた・・・。
無限水筒で喉をケアしながら少しペースを落とす。
そうして少ししてから無傷の患者が来た。
「あの、ココで安くポーションを売ってるって聞いて・・・」
「えぇ、大銅貨5枚ね」
見た感じ、駆け出しっぽい冒険者風の子。ポーション目当てか。
大銅貨20枚貰い4本買っていった。チームメンバー用らしい。
そうして夜が更けてきたころ、扉を叩いてトールさんが顔を出した。
「店じまいだ。 売り上げはどうだ?」
「結構来ましたね」
売上は患者28人、ポーション購入数32本。
大銅貨300枚、つまるところ大銀貨3枚だ、いやーぼろもうけ・・・と言いたいが。
「じゃ、大銅貨150枚は俺の分な」
そうだった。そういう約束だった。
「これだけ有れば、依頼料は足りるな」
「依頼料?」
「あぁ、お前の他にもギルドメンバー・・・そうじゃなくてもエルドラド・クロニクルから来た他のプレイヤーが居るかもしれねぇ。
そういうヤツを、冒険者ギルドや交易ギルドを使って情報を集めるのに金を使いたいんだよ」
なるほど、確かに私達は拠点を持ってしまって動きにくい。
だが、冒険者や交易商のネットワークなら・・・。
「そこまで考えてたんですね」
「いや、1時間くらい前に思いついた」
思いつきかーい!
だが、実際マイコニドを派遣するよりお金で解決した方がずっと良い。
当ても無く探すより、私たちが情報を集めれば、他のギルドメンバーもココを目指してやって来るかも・・・!
「パラパラ炒飯さんとか居ると心強いですもんね」
「ギルド最強だからなぁ。名前がネタだが」
そういう事なら、喜んで売り上げの半分を渡す。
「・・・で、ゲイリーウッズだったか。
落ち着いたらまた食べに来いよ。
俺はここで情報を集めてるから、何か分かったら手紙書いて送ってみるわ」
「はい。
あ、あとポーション類ですけど、何個かエルドラド・クロニクルから持ち込めたんで受け取ってください」
私はエルドラド・クロニクルから持ち込んだ高級ポーションを数種類渡す。
「あぁ、マジでありがてぇ。
・・・って完全蘇生薬まであるじゃねーか!!良いのか?」
「はい。材料の育成に成功したら、量産も目指しますけど」
「いや、高級ポーションだけでもマジで有難いわ。
またいつでも来い、今度は奢ってやるからな」
正直言えば、完全蘇生薬は私の数少ない切り札だが、情報収集で矢面に立つトールさんにはコレだけ持っててもらった方が、私も安心できる。
完全に夜も更けた時間帯に私達はトールさんのラーメン屋を後にし、宿へ戻った。
≪香水作成≫
種別:制作技能/専用
制限:薬剤師
属性:生産
射程:接触
薬剤師が作る薬用香水を制作するスキル。
香水はタダのオシャレではなく、虫除け等の特定モンスターの忌避、誘因をコントロールするアイテム。
薬剤師から派生するクラスには香水を活用することで、モンスターやクリーチャーをコントロールするスキルも存在する。