第9話
準備期間中、村では街でお金に換える品を話し合っていた。
なにしろゴブリン程度で四苦八苦するレベルの開拓村、資金は十分とは言えないので、何でも良いので資金に換えられる商品が無いか話し合う。
そこで思いついたのが、私が開墾のために収穫の鎌を振った際にできた『繊維』とそれを加工した布。
雑草に収穫の鎌を使うだけで繊維が簡単に手に入る・・・が私は裁縫スキルや紡織スキルがロックされてて、布を織ってみたら酷い品質だった。
直接的な使い道も無く、持っててもインベントリやストレージを圧迫するので村で配ってみたら、いくらでも作れるという話を聞きつけ、畑の草刈りついでに量産を頼まれた。
対価として繊維から作られた布を分けてもらうことで了承。
それでも、ものすごい量の繊維から糸や布が作られていたので、それを商品として街で売ってみることとなった。
本来なら綿花や特定の虫系クリーチャーから採取した方が品質が良いのだが、まぁお金になるならという事で草刈りをして、村一丸となって商品制作が2日間行われた。
あと、木材も余り気味だったので、そっちも提供したら細工物や食器に化けたのでマイコニド軍団に配る。
木でできたコップや皿、スプーン。
フォークが無いので聞いてみたら『なんだそれ?』と返ってきたので形状を伝えて製作を依頼。
どうやらパスタ料理とかも無いし、基本はスプーンか手づかみで食べるらしい。
熱い食べ物はナイフで刺すか、パンなどで挟んで食べるらしいのでフォークが無かったようだ。
木材は家具職人に持ち込んで家具にもしてもらっている。
庭園作成は基本的にガーデニング用品寄りの製作魔法なので、家具などの内装は作れない。
大量に木材を持ち込んだ私を見て木工職人に「木こりに転職しないか?」と言われたのはなんだか複雑だったが・・・。
◆
出発の日。
交易品は『糸束』、『ロール布』、『木工品』、『木炭』。
木炭は元々村の産業だったらしく、在庫が有ったので最初から商品として挙がっていた。
商品を木箱に詰め、荷車に積んでいく。
荷車には人数分の食料と蛇口が付いた水樽、キャンプキットと毛布も積む。
寝袋は無いのか聞いたら「寝てる時モンスターに襲われたら寝袋では逃げられない」と言われて納得。
留守番のマイコニド軍団には植物の世話と畑の開拓作業、村の防衛など諸々指示を出しておいた。
マイコニド軍団のレベルならゴブリンが100体攻めて来ても無傷で倒せるが、念のため出発前に村の北側の森に魔法を行使しておいた。
「≪植物魔法:足刈茨≫」
敵対者に巻き付き、身動きを取れなくさせる茨を召喚する罠タイプの魔法。
「≪植物魔法:貪食蔓≫」
こちらも罠タイプの魔法。
敵対者が設置したエリアを踏むと落とし穴のように埋まって継続ダメージを与える。
これらの魔法を目印を設置しながら、森の入り口付近に何か所か設置しておいた。
一通り設置でき、準備ができたので、合流して出発。
「主様、本当に近衛が5体で大丈夫でしょうか・・・?今からでも追加で召喚した方が」
「これ以上多くなったら食料が無くなるでしょ。
それに、この辺りのモンスターも大したレベルじゃなかったし」
出発前日に占い師の魔法≪敵対者感知≫で軽く周囲一帯を探ってみたが、探知したモンスターのレベルは最大で20くらい。
平均すれば10以下、真菌の兵士5体で事足りる。
だが、クラスとレベルが全てと言い切れない。
村で色々と試してみたが、習得スキルやクラスで保証されていない行動はステータスの恩恵を受けられなかった。
例えば、私の筋力ステータスは村人と比較しても数字だけなら圧倒している。
だが、井戸での水汲みでは重いと嘆くし、斧で薪割りをしてみたら何回も斧を振り降ろさないと薪の一本も割れなかった。
しかし借りたツルハシで地面を耕してみたら一撃で雑草の根が張り巡らされた地面を砕いて楽々耕せるといった感じだ。
水汲みは『料理人』、薪割りは『木工職人』や『木こり』のスキル、畑を耕すのは『農家』のスキルとして扱われている。
非効率とはいえこの世界では他のクラスでスキルと扱われている行動も行える。
つまり、現実的に『頑張れば何でもできる』のだ。
それにこの世界固有の、ゲームには無かった武器やスキル、魔法が飛んでくる可能性だってある。
そして、ゲームでは3人称視点で見下ろしながら戦っていたがこの世界では私自身で戦う1人称視点。
死角などいくらでもあるだろう。
そのために、数の有利を得られるアカネを同行させている。
手札は多い方が良い。
・・・マイコニド達の食費やその他経費が掛かってしまったのは一番の誤算だったけど。
村を出て少し進んだ所で少数のゴブリンと遭遇したが
「お任せを ≪猛毒の息吹≫!!」
アカネのスキルで開幕即全滅した。
猛毒の息を浴びせかけられたゴブリンは・・・オェ。
見るも無残にドロドロとなってたので、真菌の兵士達に頼んで茂みの向こうへ捨ててもらった。
あぜ道を通り、街道に出るとモンスターの気配が遠くなった。
街道付近は貴族が抱える私兵や冒険者が巡回しており、安全なんだそうだ。
太陽が中天を通り午後になった辺りで街道近くで野営準備。
最近大活躍の収穫の鎌で、雑草をザクザク収穫して得られた繊維を、テントの中に敷き詰めることで断熱材代わりにし、夕食後に交代で睡眠。
次の日、朝起きて朝食後に出発して昼過ぎに交易拠点『パ・ブシカの街』が見えた。
≪猛毒の息≫
種別:スキル/専用
制限:クリーチャー専用
属性:毒
射程:10m
形状:射撃/貫通
猛毒の息を吹きかけてダメージを与える範囲攻撃スキル。
浴びた対象は毒属性ダメージと確率で毒の状態異常を引き起こす。
プレイヤーや人間には習得不能のクリーチャー専用のスキル。